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ダンは薬で元気になったが、宝箱のやり取りをほとんど覚えておらず、とても悔しそうにしていた。
とりあえずギルドで魔石などのドロップしたアイテムの清算と、ダンジョンの様子やボスの情報を報告する。
「何日か休まれますか?」
ギルド職員が聞いてきた。
「いや、別に明日からでも大丈夫だ。」
これを聞いていたダンが
「じゃあもう1回申請出してきます!」
と大急ぎで依頼申請のカウンターに走って行った。
既に多くの冒険者達が迷宮案内人の依頼に集まって来ている。ダンの言っていたことは本当らしい。
ダンが申請していると、
「お前さっきまで行ってただろうが、ふざけんなよ!」
と周りの冒険者達からやや激しめに小突かれたり、蹴られたりしている。
「痛いっ、痛いっす。俺、今回最後死にかけてて、悔いが残りすぎてヤバいっす。どうせくじなんですからいいじゃないっすか。俺にももう1回チャンスくださいよー。」
ダンは半泣きになりながら、周りに頼み込んでいる。ダンは18と若いが、持ち前の愛想の良さと明るさで、周りの冒険者から弟の様に可愛がられている。期待のパーティだ。
結局くじには参加出来るようになったらしい。そんな騒ぎを横目に見ながら4日ぶりに家に帰ることにした。
マサの街は首都シントから西にある人口7万人程の都市である。
シントは50万人と言われているから、まあ程々の大きさの街だ。
近隣の村や町から様々な品がやってきて、市場などはそれなりに賑わっている。市場で適当に夕食や、明日からのダンジョン用に食料などを買い込み、マジックバックに入れる。
ジュードは12歳でギルドに登録して冒険者になり、16歳の成人を迎えた所で迷宮案内人の仕事を始めた。
歳が若いこともあり初めは実力を疑われることもあったが、落ち着いた立ち振る舞いと、魔力の多さに剣の実力も申し分なく、1年と立たぬ間に1目置かれる有名人になった。
ジュードは親を知らない。孤児院に両親が連れてきた。1歳にも満たない赤子を置いていった理由、それはジュードが人間に見えなかったからである。
魔族の角を持って生まれた我が子を、育てる事ができないと、マサの孤児院に置いていった。
両親は人間で、いわゆる先祖返りであろうと思われた。それから12歳で孤児院を出て、冒険者になった。それまでに角を自由自在に出し入れできるようになり、今は小さなコブのようなものがこめかみにあるだけだ。それもバンダナで巻いて隠している。
まあ、魔族の力が強いおかげで冒険者としても生活していく事が出来るので、今は恨んではいない。
あまり人付き合いが得意では無い自覚があるので、知り合いは最低限だ。ジュード自身は有名人だが、ジュードからの知り合いは少ない。友人はほとんどいないかもしれない。本人にそのつもりはないのかもしれないが、見えない大きな壁があるように、人を寄せ付けないのだ。
しかしだからといって嫌われている訳ではなく、それなりに付かず離れず良い関係で過ごせている。
見晴らしのいい高台に大きくは無い一軒家を最近購入した。街中は落ち着かない。ゆっくりと自分の時間が欲しかった。ここなら、訪れる者もなくゆっくり過ごせる。遠くに海も見える、この景色が気に入って決めたのだ。
今は昼過ぎ。せっかく明るい時間に帰ってこれたのだから、リビングから海を眺めてゆっくりしよう。と家に中へ入っていった。
翌日夜明けと共に家を出てギルドに来た。すると、ギルド職員から手招きで呼ばれた。
「おはようございます。ジュードさん。今日は{真実の迷宮}の案内をお願いします。パーティ平均レベルは80、ボス討伐をご希望です。どうでしょうか?」
ダンは残念ながらくじ運が無かったらしい。パーティ情報を見せてもらう。もし気に入らなければ、ここで断ることも出来る。
「問題ない。」
「それでジュードさんに、お願いがあるんですが。よろしいですか?」
「 ? 出来ることなら構わない。」
職員が言うには、ダンジョンが出来て3年、初クリアから2年。だいぶ情報が集まってきた。人々の関心は最後の2択に向いてきた。
あるパーティがマジックバックを最後の宝箱から出した。そのパーティは、入口の辺りで欲しいものについて話し合ったと言うのだ。
それを検証して欲しいという。意図的に欲しい品を宝箱から出せるとなると、このダンジョンの価値が更に上がる。
統計を取ると、薬となにかアイテムの2択が多いらしく、それは多分ダンの時のようにボス戦のダメージのせいだろうと思う。
ならば、入口で欲しいものを願い、少し手助けしてダメージ少なくボスを倒すとどうなるか?
そういう検証を求められているのだと思う。
追加料金も出すという話なので、了承の返事をして、今回のパーティと合流する。
こうして俺は今日も{真実の迷宮}に向かった。