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{真実の迷宮}にやってきた。
ダンジョンにはだいたい10階層ごとに転移陣が置かれていることが多く、ダンのパーティは50階までは攻略済みとなっている。
ダンジョンの入口には職員が必ずいる。
パーティ名とメンバーを申告してから、専用の本の様な魔道具にギルドタグを通す。本の中に勝手に書き込まれる。これで不正できない仕組みだ。
「はい。道中お気をつけて。ご安全に。」
ギルド職員に見送られながら、ダンジョンへと足を踏み入れる。入口は洞穴って感じなのだが、少し進むと開けたところに出る。
扉が付いていて、その横に水晶玉が置いてある。
これをパーティメンバー全員が触れることで、同じダンジョンに入れる。
以前実験で俺だけ触らなかったら、1人で吹雪いた山の頂上に立っていた。もちろんそのまま10階まで攻略して帰ったが。
今回は鍾乳洞の様な洞窟だ。壁はヒカリゴケが多く生息しているのか、中はほんのり明るい。
モンスターは強いが、倒せないほどじゃない。ダン達は俺がいる分レベルが高い敵と戦っているが、メンバー同士良く連携が取れていて、心配無さそうだ。
出てくる敵を倒しながら先に進む。
階層は階段だったり、転移陣だったりで移動できる。今回はなだらかな下り坂になっている。
この辺りはセーフティゾーンになっていることが多く、ダンたちもここで休憩するようだ。
結界の魔道具を置けば野営も出来る。
結界内で食事を取り、思い思いに休憩をとる。そしてボスを目指して下に進んだ。
3日目にボス前まで来る事が出来た。運のいい事に罠の無いダンジョンに助けられ、追い出される(死んで外に出される)事無くここまで来れた。
追い出される条件は、4人パーティなら3人がやられた時点。
3人なら2人、と残り1人になると強制的に外に出される。
その時に負った傷はきれいさっぱり治ってるんだから、本当にこのダンジョンは不思議だ。
何度もここに来ていれば、やられる事もある。
敵モンスターにやられたことはなく、ダンジョンの罠が酷いのだ。いきなりマグマに落とされたり、全方位から串刺しにされたりする。他の奴らはモンスターにもやられるらしいが。
ちなみに酷い罠にかかった時は、潔く諦める事を、ギルドは推奨している。下手に生き延びようと足掻くと、死ぬ間際まで苦しむ羽目になって、精神的なダメージが残るからだ。
一緒にマグマに落ちた奴も防御結界を張ってしまったために、自分でそれを解除してやられるという事になり、最後の断末魔をあげて、外に出た時には廃人の様になっていた。探索もそこで終了して、しばらくは冒険者としても活動出来なかったらしい。
ちなみに俺は最後の1人になることが多いので、無理な時はリタイヤしろと勧めてやっている。
ボスはブラッドウルフだった。真っ赤な体で動きは素早く、血を操って攻撃してくる。とても厄介な敵だった。
3mを越す体躯に、大きすぎて初めは度肝を抜かれたようだが、すぐに持ち直して攻撃を開始した。
俺はメンバーに防御結界と防御力up、身体能力upなどの付与魔法を使う。剣で戦う事もできるが、今回は補助に回って、ダンたちのレベル上げの手伝いをする。
まあもしピンチになったら、助けるが。
大きな体格の割に素早いブラッドウルフの動きを、弓使いの影縫いで止める。そこにダンが懐に飛び込み大剣で喉元を引き裂いた。
その瞬間、部屋にあった罠が発動した。
何か吸い取られる感覚。これは魔力を吸い取られている。
ギリギリ枯渇しない所まで吸い取られた。もう魔法は使えない。
他のメンバーも同じようだ。
ボスは息絶えてキラキラと消えていき、魔石に姿を変えた。
「ダン!」
そこにはダンが剣を支えになんとか立っている状態だった。ウルフの返り血と、前足で胸元を裂かれたのか血がジクジクと滲み出ていた。
ぐらりと膝を付くダンを支えてやる。
「大丈夫か?あと少し頑張れるか?」
「あー。頑張りたいのはやまやまなんですけど……、これ失血毒ですかね?
血ぃ、止まんないんですよ。」
「すまない。急ぐぞ。」
失血毒とはその名の通り血が止まらなくなる、魔法か薬で治す事が出来るが、先程の罠のせいで魔法は全員使えない。タイミングの悪いことに薬ももう無い。
ダンの顔色は良くない。回復魔法も使えない状態で、長居は無用。幸いボスは倒したし、この先の部屋を抜ければ転移陣で外に出られる。
ダンの大剣を他のメンバーに渡し、肩に担いだ。
「ボスの報酬宝箱を回収したらすぐに帰る。2択だが、すぐに選んで欲しい。」
残念ながら、ダンの意識はほとんどないようだ。残りのメンバーで決めるしかない。
ダンを抱え、奥にある扉を開く。
いつ来ても白い部屋だ。
何も無いどこまでも白い部屋。中央に転移陣が光って出口を教えてくれる。ダンからポタポタと血が落ちるが、白い地面についた途端消えて無くなる。白以外許せない、そんな感じがした。
その手前に宝箱が2つ置いてあり、真ん中で白く光る玉がふわふわと浮いている。光る玉の声だろうか、大きくも小さくもないが、耳にしっかりと聞こえてくる。もしかしたら頭の中に直接聞こえているのかもしれない。低すぎず、かといって子供の高音でもない、よく通る優しげな、多分男性だろうと思わせる声が、今日も聞こえてくる。
パッと目の前にもう1つ宝箱が姿を現した。
<これは初めてクリアしたパーティに>
ダンジョン初攻略のアイテムは大抵劣化版オリハルコンだが、これはものすごい強い武具に出来る。これを売るだけでも1年暮らせる。
まあ冒険者のほとんどは加工するために大事に取ってある。
<ボスを倒した君たちにはどちらかの宝箱のものをあげるよ。薬なら君たちから見て右、素材なら左>
多分右には止血剤が入っているだろう。必ず欲しがっている何かが手に入る。不思議仕様だ。
ダンの仲間は迷わず右を選び、俺たちは急ぎ足で転移陣から脱出した。止血剤と上級回復薬が5つ、上級魔力回復薬が5つ入っていた。
追い出された時は回復するのに、ボス倒して外に出る時は回復しない。不思議仕様だ。
何はともあれ全員無事に帰ることが出来た。