5
大事件があった。本当に驚いた。
なんと、この世界の人らしき人を見た。
ここで目覚めてから初めて色がついてた。
ただそれは幽霊か蜃気楼のように少しぼやけてて、俺の体をすり抜けて通り過ぎて行った。
自分の事は人形になっていってるんじゃないかと思ってたんだけど、ここに来てまさかの
俺って幽霊だったの?説
出てきた人達はなんか冒険者って感じで、鎧を着けた2人と胸当みたいな軽装備の人。
あとは深緑色のローブを着た人。
4人も人が居るよ!
なんかすごい感動する。なんか瞼の奥が熱くなって、涙が溢れて…こなかった。
そうだ体から水分出ないから、涙もかー。
それでも人が動いてる!しかもファンタジーな感じ。やっぱ異世界なんだー。
やっぱり全然違う。すごい嬉しい。
こんな状況だ、もしかしてこの世界に俺1人かもしれないって思ってた。
映像観てるみたいな感じ。
鎧を着けた1人は怪我してるみたいで、もう1人の体の大きな男の人が支えてあげてる。
俺の体をすり抜けて行った4人を振り返って目で追う。
絨毯がひいてあるはずなのに、何も無いみたいに歩いて、部屋の中央くらいでふっと消えた。
何か喋ってたけど、声とか音は聞こえなかった。
こっちから手を出したけど、向こうの人達には気付かれない。声も届かなかった。
この幽霊か透明人間事件は、このあとも何度かあった。
良くSFなんかであった時空軸がズレてるとか、そんな感じなのかもしれない。
お互い違う時空を生きてるわけだ。
俺の場合生きてるっていう定義が当てはまるかは、甚だ疑問だけど。
通り過ぎる人達を見る機会が増えた。
気がついたのは、無意識に寝ちゃってた後に見ることが多いなーってこと。
それになんかみんないつもボロボロなんだよね。
来る人数も様々なんだけど、若い人が多い。男の人も女の人も来る。
こないだなんか金髪美女がビキニアーマー着けてた。
実際に見れるなんてと色んな意味で、めっちゃ興奮した。
異世界なんだって思ったのは、髪の色がピンクとか緑の髪とかってハロウィンの時くらいしか見ないと思うけど、本当にいる。
服装とかも真似してみたりした。
鎧とかってイメージがわかないから作れなくって、服とかはそれっぽいのが作れたと思う。
お気に入りは魔法使いのローブだ。
イメージで色々なデザインに出来るのが面白い。
ボタンを大きくしてみたり、襟元にリボンを付けたり、もちろんジッパーでシンプルラインのローブも作った。
色は頭の中でイメージだ。
最近は斜めボタンのえり合わせのローブを普段着の上に羽織るのがお気に入りだ。
浴衣とチャイナ服の間の子みたいなデザイン。男女ともに使えそうなのが良いよね。
マントを付けるのは恥ずかしいけど、ローブの裾をなびかせながら空を飛ぶとかやっぱり出来なかった事をやりたいと思うわけよ。
白い部屋に来てから、まあまあな時間が経ったと思う。身体に時間の経過が無いから、来た時のまんまなんだけど。
通り過ぎる人達を眺めるのも慣れたものだ。
来ない時は全然来ないんだけど、やっぱりみんなボロボロで疲れてるの。
で、その中で気がついたことがあるんだけど、時々同じ人が来るなーって
昨日見た紫のスポーツ刈りの戦士なんか、1回見たら忘れないよね。
紫さんは4回目かな?
あと金髪でローブを着てるから魔法使い系かなって思うけど、ツインテールの可愛い感じのお姉さんも4、5回見たな。
今日もいつの間にか寝てたので、上半身を起こしボンヤリと周りを見回す。
するとゆらゆらと人影が見えてくる。
あ、この人よく見る人だ。
背はかなり高い、無駄な肉は付いてない細マッチョだと思う。鎧は着てないから、体つきがよく見えるんだ。
腰まであるストレートの黒髪にバンダナを巻いてる。
腰に太めのベルトを巻いて、その上からウエストポーチみたいな小物入れを提げている。
両腰に剣を下げてるから、双剣使いなのかもしれない。
何より驚いたのは目の色がとても綺麗だったから。
翡翠のような緑色。
日本にいたらそうそう見ることの出来ない色に驚いた。
もうこれで何回目だろう10回以上見てるけど…、一緒にいる人はいつも違うんだよね。
大抵連れている人達がボロボロで死にそうになってたりするけど、この人はそこまでボロボロになってるの見たことないから、強い人なのかもしれない。
前なんか死にそうな血まみれの人抱えて、急いで通り過ぎてったもんね。
大変そうだなって。
今日は全然疲れてない感じ。一緒にいる人達が、なんかめっちゃ強そう。
黒髪のお兄さんを入れて4人。
茶色いゴリラみたいな人絶対戦士かタンクだと思う。30代半ばのお兄さんって感じ。細身のお姉さんは弓使いかな?あ、エルフかも。綺麗な金髪から見える耳が尖ってる。
もう1人のいかついお兄さんは身体は大きいけど、長い紫色の髪を斜め三つ編みで流してる。服装はローブを着てるので、魔法使いか僧侶とか?
今までの人達は疲れ果ててボロボロだったのに、この人達なんか全然平気そうだし、すぐに出ていかないで周りを見回したり、なんか色々調べてる?
今までと違う様子に、ゆっくり立ち上がる。
4人の近くに近づいて行くと、今まで違うことが起きた。
なんと黒髪のお兄さんが振り向いた。
目があったわけじゃない。やっぱり見えてないんだと思う。
偶然かなあ。
小さくため息をついた。
その時黒髪のお兄さんが動いた。手がこっちにのびてきて、俺の腕に触れた。ような気がした。
「あっ」
その瞬間全てが真っ白になって、俺の意識も真っ白になった。