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大罪人の捧げる花  作者: 天桜犀 海陽
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魔法の練習

年に1度のハンスが村に来る時期がやってきた。

正確には森の調査の時期だが、私たちにとってはハンスの来る日という認識になっていた。


その日の朝、朝食を食べ終わった後、食器を洗うのを手伝っていると誰かが訪ねてきた。

「食器を洗ってて」と母は私に言い、玄関へと向かった。

そして、玄関から戻ってきた母が私そばに来た。


「エリディカ、ユリアナちゃんが迎えに来たわよ。お手伝いはそこまでにして、遊んでらっしゃい。」

「うん。分かった。行ってきます!」

「行ってらっしゃい。」


私は母に返事をして、手を拭いてから玄関へと向かった。

玄関の扉を開けると、ユリアナがドアのすぐそばに立っていた。


「おはよう、エリディカ。今日はハンスが来る日だよ!早く馬車の来る場所まで行こう!!」

「おはようユリアナ。そんなに急いで行っても馬車は来ないよ。この時間帯なら、ゆっくり行った方がちょうど馬車が来る時間になるから、話しながらゆっくり行こう。」

「そっか、それもそうだね。じゃあいこっか。」


そう言い、私たちはゆっくりと歩き始めた。

他愛のない話をしながら、馬車が来る場所まで歩いて行った。

馬車が来る場所までついても、まだ時間があったため、2人で近くにあるベンチに座って馬車が来るのを話しながら待っていた。


すると、予定の時間よりまだ少し早いが、馬車がやってきて私たちの目の前で止まった。

馬車の扉が開き、中からハンスが出てきた。


「久しぶり。待たせて悪かったな、さあ馬車に乗ってくれ、屋敷まで行こう。」

「そんなに待ってないよ。それに、約束の時間より少し早いくらいだよ。ね、ユリアナ。」「そうだよ、約束の時間より早いけど、早く来てくれてうれしいな。」


ハンスは手を差し出して、馬車に乗るよう促した。

私たちは、初めは誰かに手を取られて乗り物に乗るという経験がなく、また気恥ずかしかったため手を取らずに乗った。

すると、ハンスがすごく悲しそうな顔をしていた。

それを見た執事さんが、馬車に乗る際女性に手を差し出すのは当然のことなので、恥ずかしがらずに次からは是非手を取ってあげてください、と言われた。

それから私たちは恥ずかしがりながらも手を取って乗るようになった。


馬車に乗るとき、いつもユリアナは緊張し頬を赤らめながら乗っている。

物語の通りにハンスのことが好きなのだということが見て取れる。

私は、今ではほほえましく思いながらハンスの手を取り感謝を述べながら馬車に乗っている。

その様子はまるで姉ではなく、親のようだとも村の人に一度言われたことがある。



馬車が屋敷につき、私たちはいつものように屋敷の中に案内されると思っていたら、今日は屋敷の庭に案内された。

どうやら、魔力測定の結果について話し、魔法の練習をするようだった。


「魔力測定の結果はどうだった?僕はもちろん規定以上の魔力があり、しかも火、水、風の3属性を持っていた。」

「ハンスすごい!でも、私たちもすごいのよ、私も一定以上魔力があってしかも光の魔法が使えるの!」

「それはすごいな!光は珍しい属性の上、使えるものは数少ないと聞いている。それが使えるなんて、ユリアナは夢に大きく一歩近づけたな。」

「うん。聖女様と同じ魔法が使えるとは思ってなかったから、すごくうれしいの。それにエリディカもすごいのよ。」


そう言ってユリアナは目を輝かせながら、話を促すようにこちらを見た。

その目は「早く早く!」と言っているようだった。

私は苦笑を浮かべながら、促されるままに話し始めた。


「私も学園に行けるくらいの魔力を持っていたの。そして、水と風2つの属性を持っていたのよ。私も驚いたわ。学園に行けるだけでもうれしいのに、2つも属性を持っていたんだから。」


私は、本当に驚いているかのように話した。

実際はラーツェに教えてもらっていたから、驚くことなどなかったのだが、初めて魔力の測定を行ったのだから、知っていたらおかしいため驚いたふりをした。

驚いたふりだとしても、2人には本当に驚いているという風に信じてもらえたようだった。


「2属性だって!?珍しいな、ふつうは1属性なのに僕と同じ複数属性を持つなんて。」

「同じじゃないよ。ハンスは3つだけど、私は2つじゃない。すごさで言ったらハンスのほうがすごいんだから。」

「いや、そもそも2つ以上持っていることなどまれなんだ。光や闇の魔法ほどではないが、大抵の人は1つの属性しか持ってないと学んだ。2つでもすごいことなんだから。」

「そうなの?ハンスが3つも属性を持っているから私はすごくないんじゃないかって思っちゃったわ。」

「私の家系は複数属性を持って生まれる人が多い血筋なんだ。それでも3つは多いのだが、それは貴族たるゆえだ。平民で複数持っているのは珍しいんだから誇っていいんだぞ。」

「ありがとう、ハンス。そう言ってもらえると嬉しいよ。」


そうして自分たちがどんな魔法が使えるかについて話した後、実際に魔法を使う練習をしてみることとなった。

魔法の練習をすると聞いたときは、とても驚いた。

私たちは学園へ入学してから魔法について勉強し、実際に扱うと思っていたからだ。

それが突然魔法を使ってみようと言われたのだから、驚くのも当然だ。

そして、物語上でも魔力測定の結果を話し合っていた部分はあったが、魔法を練習したということは書かれていなかった。

あれは、史帆、ヘンリエッテが渡してきた本だ。

意図的に外してあったのかもしれない。

私がうまく魔法を使えないようにするために書かれていなかったのだろう。


ハンスの執事さんがどうやら魔法の使い方を教えてくれるらしい。

使用人の中でも頭がよく、魔法も使える人のようだった。


「それでは、まずは魔力について学びましょう。魔力は体の中を血と同じようにめぐっています。それを感じ取れるようになるところから始めます。」


執事のジェーロさんは、そばに置いてあった道具を取り出しました。

小さな水晶玉を手に取り、まずはハンスに手渡しました。


「それではハンス様からご自身の魔力を感じてみましょう。その水晶玉は、魔力を感じ取れるよう作られた魔道具です。誰もが初めはそれを使って自分の魔力がどの様に流れているかを感じ取ります。さあ、ハンス様それを握っている手に少し力を込めてみてください。すると、手が温かく感じその温かいものが体中をめぐっていくのが感じられるはずです。」


ハンスはその言葉を聞き、手に力を込めた。

するとその直後に水晶玉が淡く光り、ハンスが「あっ」と声をだした。

どうやら魔力を感じたようだった。


「すごいな。温かいものが体中をめぐっているのを本当に感じる。体中があったまっていくよ。」

「それは素晴らしい。最初は皆すぐにはできないのですが、ハンス様は感知能力も優れているのですね。それでは次に、ユリアナ様も同様に行ってみましょう。」


ハンスは、ユリアナに水晶玉を手渡した。

手渡されるとき、ユリアナの頬が少し赤らんでいるのを見てほほえましく思った。


「それでは、先ほど説明させていただきましたように、手に力を籠め魔力を感じてみてください。」


ユリアナもジェーロさんの言葉に続いて手に力を込めた。

すると、先ほどと同じように水晶玉が光り、ユリアナも感嘆の声を漏らした。


「わぁ、思ってたよりすごくあったかいですね。ちょうどいい温かいものが体中をめぐって気持ちがいいです。」

「ユリアナ様も素晴らしいですね。もう魔力を感知できるなんて。それでは、エリディカ様も同じように行ってみましょうね。」

「はい。」


私もユリアナから水晶玉をもらい、両手で包み込むように持ち手に力を込めた。

水晶玉が光始め、温かさを感じた。

それが体をめぐる感触に、私も感嘆の声を漏らすと同時になぜか懐かしさを感じていた。

日本で魔力なんてものを扱ったこともないし、今まで魔力を感じ取ることなんてなかったのになぜか懐かしいと思った。


「温かさが気持ちいいですね。不思議な感じです。」

「エリディカ様ももう感知できたのですね。3人とも素晴らしい魔力感知の力をお持ちのようで、そんな方たちに魔法を教えることができるなんて誇らしいです。」


そう言い、ジェーロさんは素敵な笑顔を浮かべていた。


そして、私たちはついに魔法を使う練習を始めた。

自身の得意とする魔法の球を作るだけという簡単な魔法だったが、これがなかなかうまくいかなかった。

1日目は誰も成功せずに終わり、2日目はハンスが少し水の球を作れたがすぐ壊れてしまった。

3日目は、ハンスは水の球の形に保つ時間が少し伸び、ユリアナも少し光の球を作れるようになった。

4日目は。ハンスは水の球を作り保つことができるようになり、ユリアナも光の球を作る時間が長くなった。

5日目にはハンスもユリアナも魔法の球を安定して保つことができるようになった。

しかし、その間私は一度もうまく保つことができなかった。

ハンスと同じく安全性が高い水の球を作っては見るのだが、すぐにはじけ飛んでしまう。

水の球は小さいので、シャボン玉がはじけるような感じだった。

その様子を見て、ハンスもユリアナも応援してくれたが、6日目になっても私だけできないままその日は解散となった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――


ハンスは、今日もエリディカだけうまくできなかったことについて、ジェーロに問いただした。


「ジェーロ、なぜエリディカだけうまくいかないんだ。教え方も僕たちと異なるわけでもないのに、なぜできないんだろうか。」


ジェーロは、これは答えを教えるべきだと判断し、ハンスになぜエリディカがうまくいかないのか教えた。


「ハンス様、エリディカ様は他の方と比べると魔力量が多いのです。ハンス様やユリアナ様より多いのでしょう。そのため、魔力の操作がうまくいかず、無理に小さい球を作ろうとしているため、あのようにはじけるような魔法の失敗の仕方をしているのです。魔力が少ない場合の失敗は、魔法が空気に溶けるようにして消えるので、エリディカ様が魔力が多いということが分かります。」

「それでは、エリディカに大きな球を作らせればよいのではないか?」

「いいえ、それではいけません。それでは魔力の操作の練習にならないのです。魔力が多いからと大きい魔法を使っていては、雑な操作しかできなくなり、後々精密な魔法を使おうとするときにうまくできないという弊害が出てしまうのです。見ていたところ、あと一歩のところでつまずいているようですので、できるようになるまで見守って差し上げてください。エリディカ様が大切だと言っても、ひいきしてはいけませんよ。」

「そっ、そう言う意味で言ったのではない!ただ、エリディカも早く魔法をうまく使えるようになればいいなと思ってだな…。」

「ふふっ、分かっておりますとも。では、明日もエリディカ様ができるよう応援してくださいね。コツさえつかめばきっとエリディカ様もすぐ皆様と同じようにできるようになりますから。」



――エリディカの見知らぬところで、少し歯車がズレ始めていた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


7日目の朝、私は両親に励まされた後、いつものように馬車が来る待ち合わせの場所でユリアナを待っていた。


「はぁ」


私は大きなため息を一つ付き、魔法がうまく使えないことについて悶々と悩んでいた。

もっと簡単に使えると思っていたため、期待していた分、できなくてすごく落ち込んでいた。


そこにユリアナがやってきた。


「おはよう、エリディカ。暗い顔してるね。…大丈夫だよ!今日こそ絶対うまくできるようになるよ。だって魔法が球の形を保ってる時間始めたころより全然伸びてるじゃない!」

「そうだけど、結局保てなくて割れちゃうんだよね。」

「大丈夫、ジェーロさんは優秀だってハンスが言ってたから、きっといいアドバイスをくれるよ。そして、私たちと同じようにすぐ使えるようになるよ。」

「うん、そうだといいな…。」


ユリアナに励まされていた時、馬車がやってきて、いつものように馬車に乗り、ハンスの屋敷までついた。

いつものように庭へ着くと、ジェーロさんにさっそく魔法の指導をしてもらうこととなった。


「エリディカ様、今日は少し大きな球を作ってみましょう。」


そうジェーロさんが言った瞬間、なぜかハンスがジェーロさんを二度見していた。


「いつも作っている球の大きさに対し、エリディカ様が注いでいる魔力が多すぎるのです。ですので、一度いつもより一回り大きな球を作ってみましょう。それができたら、いつも通りの大きさの球を作れるはずです。」


そう言われ、私は自分が魔力量が多いということを思い出した。

ラーツェに魔力量が多いと言われていたのに、そのことが頭からすっかり抜け落ちていたのだ。

その調節もせずに、小さい水球を作ろうとすれば、うまくいくはずもない。

私は、ジェーロさんに言われたとおりにいつもより一回り大きい球を作ってみた。


すると、うまく水球を作ることができ、更に水球の形を保つことができた。

安定していると、誰が見ても分かった。


「やった、できた!!!」

「おめでとうエリディカ!」

「おめでとう。エリディカ。」


そう言ってユリアナとハンスが近づいてきた。

そして、ジェーロさんも近づいてきて、魔法を解くように指導した。

私は魔法をうまく解くことができ、はじけることなく水が流れるように下に落ちた。


「それではエリディカ様。いつもの大きさの水球を作ってみましょう。今なら絶対うまくいくはずです。」


ジェーロさんに言われ、私は水球を作る魔力を込めた。

緊張で少し手が震えたが、慎重に魔力を込めていつもの大きさの水球をイメージした。


すると、いつもと異なりスルッと簡単に水球ができ、安定したと分かった。


「…できた。やった!できたっ!」

「おめでとうエリディカ!やったね!!」


ユリアナが走って近づき抱き着いてきた。

私はあわてて魔法を解除し、抱き返した。


「ユリアナ、魔法を使っている相手に飛びつくのは危ないよ。」


ハンスもそういいながら近づいてきた。


「おめでとうエリディカ。これで僕たちと一緒にもっと魔法の練習ができるね。」

「ありがとうハンス。これもジェーロさんの教えとハンスとユリアナが応援してくれたおかげだよ。」


そして、その日は魔力量と魔法の関係についてジェーロさんに教わり、勉強会はお開きとなった。


家に帰って両親に魔法がうまく使えるようになったことを報告すると、自分のことのように喜んでくれて、晩御飯はごちそうとなったのだった。


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