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大罪人の捧げる花  作者: 天桜犀 海陽
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長を決めるための決闘

それから私は、太陽の日、いわゆる日本での日曜日にラーツェと会い、鍛錬をし、それ以外の日にはいつも通りの日々を過ごしていた。

午前中は教会での勉強を行い、午後は家の手伝いやユリアナと遊んだり夢をかなえるための勉強をした。

ユリアナと一緒に学んだ魔法についてのことを、私はラーツェに伝え、魔法の扱いがうまくなるように教えた。

魔法については、日本で生きていたころの想像力と、勉強した内容で何とか教えることに成功していた。


「ラーツェは光の魔法を使えるんでしょ?そもそも、光ってなんだと思う?」

「光の魔法は、光球をだしたり、他者を癒したり、封印を施すことができる力だろう。」

「そうじゃなくて!光そのもののことだよ。」

「光そのもの?太陽のような明かりのことではないのか?」

「そう!その通り!でも、それだけじゃないんだよ。太陽の光に当たってるとあったかいでしょ?だから、光は暖かさを持ってて、光が強いとじりじりと火のそばにいるみたいに熱いの。それに、光の伝わる速さは、音が伝わる速さより早いんだよ。その上、光が強いほど影が濃くなるしね。」


私は、日本で学んだ知識をもとに光とは何かについてまず教えた。

光というものを知ることで、もっと力の使い方の幅を増やしてほしかったからだ。

ラーツェは興味深そうに私の話をよく聞いてくれた。


またある日は、瞬発力や持久力といった肉体的なことも、二人一緒に鍛えた。

森の中を走りこみながら木々などの障害物をよけたり、私が投げた木の枝を空中でキャッチし、綺麗に私に投げ返すなど様々な鍛え方をした。

森の中を走るのは、さすがに子供の肉体では狼の持久力には及ばないので、途中からは何周走ったかを数える係をした。


またある日は、光の解釈について教えた。


「光ってどんなものだと思う?」

「またその質問か。それならばこの間教えてくれただろう。光とは暖かく、早く、影を濃くするものだと。」

「それもそうだけど、ラーツェが言ってたでしょ、光の魔法は他者を癒したり、封印することができるって。そういう光のイメージを聞いてるの。光ってどんなイメージがある?」

「そうならばそうと先に言え、光とは周りを明るく照らし、他者を癒し、闇と対になるものだ。」

「うんうん。そうだね!だけどそれだけじゃなくて、誰かの希望の光だったり、支えになるものだったり、癒すだけじゃなくて目標や支えになれるだ。だから、光の魔法はほかの人たちのサポート、えっと、手助けができるんだよ。」

「ほう、そのような考え方ができるのか、人というのは想像力が強いのだな。」

「そうだね。だからこそ、多くの道具を作ったりすることができるんだよ。」


楽しく勉強をしていると、突然ラーツェが私が予想していなかった質問をしてきた。


「……なぜ、幼子のそなたがこんなにも詳しく多くのことを知っているのだ。普通は大人にならなければわからないこともあるだろう。」


私は、いきなり聞かれた質問にすぐに答えることができなかった。

なぜなら、そのことを話せば頭がおかしいと思われる、この心地よい関係が崩れるのではないかと考えてしまったからだ。

それでも、ここまで仲良くなったのに秘密にしておくのも嫌だと私は考えたから、これまでの経緯を話そうとした。


そう、話そうと“した”のである。


「           」


口を動かししゃべろうとすると、口は開かず話すことができなかった。

まるで、そのことを話すのは許されないかと言われているようであった。


仕方なく私は別の言い訳を考えた。


「私は、友達と一緒に日々勉強をしているから他の子どもよりもずっといろんなことを知ってるんだよ。」

「……そうなのか。そなたがそうだというなら、そうなのだろうな。」


私が話すことに時間がかかったため、ラーツェは私が話したことが本当かいぶかしんでいるようだったが、それでも私がそういうのならと納得してくれた。

私はそのことに、とても喜びを覚えた。

例えまだ出会ってから少ししか経っていなくても、一緒に頑張ってきた私のことを信頼してくれているのだということに、私は感動したのだ。


「ありがとう!」

「なんだ急に。感謝など言われるようなことは何もしていないぞ。」

「それでもいいの。ありがとう。」


ラーツェは少し恥ずかしそうにしながら反論していたが、私は嬉しくなって感謝した。


それから毎週鍛錬を一緒に行って、私が8歳になったころ、ついにその時がやってきた。


私がいたら、狼たちが警戒してちゃんと決闘ができないだろうと思い、当日は私は行かなかったが、後日ラーツェは結果を伝えてくれた。


「私は、群れのもとへ向かい、群れの長の交代の決闘を申し込んだ。すると、群れの者たちが反対し、長の判断で初めは長の次に強いものと決闘することとなった。」

「やっぱり最初はうまくいかなかったのね。まあ、今まで見下してた相手がいきなり長と決闘させてくれなんて、すんなりさせてくれるとは考えてなかったけどさ。」

「そうだな、それは私も考えていたことだ。だから驚きはしなかったが、まさか群れの2番目に強いものとたたかわせてもらえるとは思わなかったがな。」

「でも、それに勝ってしまえば、あとは長とたたかうだけだもんね!で、どうだったの?今日の様子を見れば結果は分かり切ってるけどね。」


私は、話の続きを催促をした。

結果が早く聞きたくて、楽しみで仕方なかったのだ。


「そうせかさなくとも話すために今日は来たのだ。」

「わかってるよ、でも早く教えて!」

「はぁ。…そのものの名はメレーヌ、闇魔法の使い方が上手いものだ。」

「メレーヌって、もしかして女の子?女の子が二番手なの!?」


私は、狼たちの中で女性が二番目に強いと認められていることにとても驚いた。

狼の中では男尊女卑があるとばかり私は思っていたからだ。

動物というものはそうであると、勝手に思い込んでいた。


「何がおかしいことがある。強ければメスだろうとオスだろうと関係ないだろう。」

「それはそうだけど。まさか狼の中で男女の差がないとは思わなかったから。」

「大昔、狼の長に初めてメスでなったものがいる。そのものが長になってからというもの、強さの序列にオスもメスも関係など無くなったのだ。」

「いいね、その考え方。人間よりも進んでるよ。」

「なに?まだ人間の間ではオスの方が強いと考えられているのか?」

「うん。その考え方が強いかな。でも、昔聖女様が魔王を封印する前の時代よりだいぶましらしいけどね。」

「そうか。そのものは我々の昔の長のように立派なものだったのだな。」

「そうだよ。とっても立派で素敵な方だったんだって。」


私は、教会で聞いた話を思い出しながら聖女様の話をした。

各地を巡礼し、その先々で人々の怪我や病気を無償で治し、更には魔王を封印し現在の平和な世を作ることに貢献した立派な人だということを、私はラーツェに伝えた。


「メレーヌもその聖女のように、戦闘中に誰かの助けたるするのが得意なものなのだ。」

「そうなんだ。素敵な人なんだね。…もしかして、メレーヌのこと好きなの?」

「そっ、そんなわけないだろう。今まで彼女も私を見下していたのだから…。」

「そっか。そこはダメなところだね。私はその人の態度が変わるまでお付き合いは許しませんよ!」

「そなたは私の親か。」

「親みたいなものでしょ?名付け親だよ!」

「はぁ。まあ、それでそのメレーヌとの戦いは、相手と同じように私も魔法を駆使して戦ったのだ。光の魔法でメレーヌの魔法を打ち消し、それに驚き隙ができている間に、相手を倒しすぐにメレーヌとの戦いは終わった。」

「さすが!鍛錬した甲斐があったね。それで、長は何て?」


私は、前のめりになりながらさらに話の先を促した。

この先の展開が予想がついていたとしても、本人から早く聞きたかったのだ。


「長は私が強くなったことを認め、戦うことを許された。他の狼たちが見守る中、決闘が始まった。私は光魔法で先制攻撃兼目くらましをしたが、それをものともせず長は闇魔法で光を切り裂き、こちらへ向かってきた。肉体の成熟度も能力も先ほどのメレーヌとは桁違いのスピードで近づいてくるのをかわすのは、大変だった。逆に先ほどの攻撃で濃くなった影を利用し、カウンターをかけられ、少し怪我をしたが、すぐ魔法で治療した。それを見て長は驚いていたが、気にせず光魔法での攻撃を続けると、長もすぐに切り替え攻撃を仕掛けてきた。」

「そこはもっと驚いてくれてもいいのに。」

「群れにいた間に少し治療の魔法を使っていたからな、驚くといってもそこまでではないだろう。」

「そっか、知ってたんだ。ちゃんと一応群れにいたころは見ててはくれたんだね。」

「ああ、そうみたいだな。」


ラーツェの様子は、少しうれしいけど悔しそうで、複雑な感情が伝わってきた。

今まで見向きもされていないと思っていた相手から、認識されていたというのはうれしい反面、なぜ見放していたのかという気持ちもあるのだろう。


少しの沈黙の後、ラーツェは話をつづけた。


「怪我を治したところを見て、長は手を抜くのをやめ、本気で攻撃をし始めた。魔法での攻防をしつつも、爪や牙などの肉体での戦いも行った。相手のほうが肉体が大きく、ぶつかったときは衝撃で飛ばされそうになってしまった。それに耐えながらも、私は相手へ食らいついた。それを引きはがすように、長は闇の魔法の波動を出し、私を吹き飛ばした。私は急いで体勢を立て直し、地面にたたきつけられるのを防いだ。いきなりの大技にひるんだ私を見逃さず、長は私に向かって闇の魔法で刃を飛ばしながら近づいてきた。私もあわてて魔法を回避し、長から離れるよう走りながら反撃を光の魔法で行った。それでも長の足を止めることはできず、闇の魔法の牙で攻撃されそうになったところで、私は光球を出し闇を濃くし、影を伸ばすことで、長自身にまで攻撃が当たるように仕向け、それに驚く隙に光の魔法で長の動きを封じ牙を首筋に近づけたところで決闘は終了し、私の勝ちとなった。」


“勝ち”という言葉を聞いた瞬間、私は待っていましたとばかりに喜び、ラーツェに飛びついた。


「やった!おめでとう、ラーツェ!!」


私は思いっきりラーツェのことを撫でまわした。

毛並みがぐちゃぐちゃになるほど撫でているにも関わらず、ラーツェはそれを受け入れてくれた。


「ありがとう。だが撫でるのもそれくらいにしてくれ。」

「あっ、そうだった。怪我はない?大丈夫だった?」

「ああ。怪我はもう治したから何ともない。心配してくれてありがとう。」


毛並みがぼさぼさで格好はつかないが、胸を張って私に感謝の言葉をもう一度ラーツェは言った。


「本当に感謝している。ありがとう、エリディカ。」

「どうしたの?改まって感謝なんか。」

「本当に感謝しているのだ。そなたと出会わなければ私は今頃傷ついたまま、当てもなくさまよい、誰ともつながりを持てず、そして朽ち果てていただろう。ここまで強くなれたのは、そなたのおかげだ。私に名をくれ、強くなるために一緒に鍛錬をしてくれたこと、本当にありがとう。」


私は、ラーツェが真剣に話す様子を見て、最初にあったころを思い出し、今強くなり私の目の前にいることに涙があふれた。


「私こそ、急に手当てをした上げくに、名前を付けるなんてことを受け入れてくれてありがとう。それに、私が話せないことがあるとわかってても一緒にいてくれて、信じてくれてありがとう。」


私はもう一度、優しくラーツェを抱きしめた。

今までの感謝とうれしさがすべて伝わるように抱きしめた。

それをラーツェは受け入れ、寄り添ってくれた。


「当たり前のことを言うんじゃない。そなたは名付け親なのだから、信じて当然だろう。だから皆の者、この者が森に入ってきたとしても攻撃など絶対にするな。そして、彼女が危険な目にあっていたら必ず守れ!これが私からの最初の命令だ!!」


気づけば私はたくさんの狼に囲まれていた。

それは、ラーツェが長となった狼の群れの者たちだった。

それを見て、最初は驚き固まってしまったが、段々とラーツェが強くなり群れの長にまでなったことに対して実感がわきはじめ、ついには大声をあげて泣いてしまった。


「うわぁああああん!よかったぁあああ。ラーツェが勝ってよかったよぉおお!おめでとぉおおおおお、ラーツェぇぇええ。立派な長になってねぇえええ!」

「なっ、何をそんなに急に泣き出すのだ、一生の別れじゃあるまいし。例え以前のように頻繁に会えずとも、私はこの山の主となったのだ。そなたが山に来たら必ず会いに行く。もちろん、一人で来たときは、だが。それぞれの居場所に戻っていくとしても、それでも良ければまた来てくれ。」

「絶対にまた来るよぉおおお!絶対だからね!絶対会いに来てね!約束だよ!!」

「ああ。わかったからそろそろ泣き止んでくれ、エリディカ。」

「…う゛ん。」


私は、鼻を詰まらせながらも涙を止め、返事をした。

これまでのように頻繁に会えなくなるとしても、私たちのつながりはなくならない。そう言われた気がした。


私はいつものように立ち上がり、村のほうへ歩き始めた。

ラーツェもいつものように途中までついてきて、村が見えてきたところで足を止めた。

私は2、3歩先まで行き、振り返った。


「じゃあまたね、ラーツェ。」

「ああ。またな、エリディカ。」


そう言い私は村へと歩き始めた。

一度も振り返ることなく歩き続け、だんだんと足を速めさみしさを振り払うように走り家に帰った。

家にたどり着くころには息が切れていて、両親は驚いていたけどいつものようにふるまえていたと思う。

私はその日の夜、ベッドを涙で濡らしながら眠りについた。



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