1-2-2 ぺよぺよ
「一戦目開始だぁあああ!? どうも、実況席の惣藏です」
「……」
本子がジトっと見ていた。
「解説には、部長さんに来ていただいております」
「どうも、部長です」
「そういえば、お名前何でしたっけ?」
「符丁‐ふちょう‐です」
ギャグみたいな名前だった。
「では、早速”ぺよぺよ”について教えて貰いましょう!」
「はい。ではまず、”魔術物語”の話から」
「あ、ルーツは結構です」
”ぺよぺよ”とはパズルゲームの一つだ。
×印の空間に迫り来る”ぺよ玉”を組み合わせて破壊していく。
できる操作は”ぺよ玉”を回転させるだけ、という潔さだ。
序盤は簡単だが、次第に速度が上がり、更には×印の空間自体が回転し始める。
パズルゲームでありながら、”反射神経がモノを言う”ゲームだ。
「ぶっちゃけ音ゲーで良くない?」
『良くない!』
部員全員が声を合わせた。
今までにない一体感だ……。
「では、チャンピオンを紹介しましょう」
部室の外に待機している選手を呼ぶ。
「男臭いゲー研に咲く一輪の花。二橋きゃのおおおおおんぅうう!?」
「きゃはー、宜しくねー!」
狭い部室をなぞって入場してくる。
二橋キャノンとは、eスポーツ用の名前らしい。
小悪魔キャラで売り出す予定とか。
「男臭くは無いですよ?」
気にしてたの!?
「それではチャレンジャーを紹介しましょう」
再び部室の外に意識を向ける。
「待機部が誇るレティセンスガール! ゲームなら私に任せろと名乗りを上げた。燃え上がる乙女心、ゲェエエムゥウウウ子ォオオオオ!!!」
「アタシの時より熱が入ってないー!?」
ゲム子がのそっと顔を出す。
困り顔が見て取れる。
トボトボと、鈍い足取りで入場してきた。
フラフラと席に着いたゲム子。
うん、頑張って欲しい。
「うーん。ゲム子さんは緊張してますね。本子さんはどう思われますか?」
「……?」
「ありがとうございました!」
「手加減は無しだよー!」
ゲム子と二橋キャノンが向かい合う。
ゲム子が頷いた。
「凄いライバルっぽい!」
俺にもライバルが欲しかった。
「では、始めてもらいましょうか!」
見せてもらおうか、ゲム子の実力をな!
なお、ゲームの事はまるで分かっていない。
「始まりましたねー、静かな立ち上がりです」
分からないけど、それっぽい事を言っておく。
「おっと、先制してるのはゲム子選手ですね」
符丁さんがそう言う。
「どうなれば良いんですか?」
「勝敗を分けるのは、”ぺよ玉”を破壊する速さ何ですよ」
うん、まるで分からん。
「このままだと、どうなりますか?」
それっぽい事を聞いてみた。
「基本的な考え方で言えば、ノーミスならゲム子選手が勝ちます」
「なるほど。では精神力と集中力が問われるんですね」
多分、そんな気がする。
しかし、両方持ってなさそうだけど、ゲム子は大丈夫なのか?
「型にハメるのもセンスが必要です。”ぺよ玉”破壊速度に作用しますからね」
「なるほど、二橋選手は其処に期待ですね」
などと言っていると、段々目で追えない速さになってくる。
「え、早くない?」
「まだ加速しますよ」
「うそぉ、見えてるのこれ?」
「人間の神秘ですね」
そして加速は、頂点へと達する。
「すげぇ……」
俺では全然分からない”ぺよ玉”を、次々と捌く二人。
特にゲム子が、こんなにも上手いとは思わなかった。
「いけーそこだー、やれー!!」
実況のポジションをかなぐり捨てて、ゲム子の応援をする。
よく分からないが、熱くなっていた。
「おぉーー!?」
そして、決着が着いた。
「ふぃー、何とか勝てたー」
勝ったのは二橋キャノンだった。
二人ともノーミスだったが、最終的なタイムでキャノンが勝っていた。
細かい所で巻き返していた様だ。
「話が違くない!?」
「ノーミスでもワンチャンあるんですよ」
何か納得できねぇ。
「むふー、ゲム子ちゃんヤバいねー!?」
二橋が称賛を送る。
「……!」
ゲム子も悔しそうではあるが、何処か満足げだった。
「素晴らしい戦いに拍手を」
部長が気を利かせてくれる。
パチパチパチと、手の花が咲いた。
「正直ゲーム舐めてたよ」
「分かってくれますか、惣藏君!」
「あぁ、部長!」
「入部届は用意してありますよ!」
そう言ってゲム子と俺と、ついでに本子に用意された紙きれ。
「え、もしかして……?」
最初から部員に勧誘する為の罠だったのか!?
「そだねー」
軽い!?
◇
「きかーん!!」
「お、何処行ってたんだお前ら?」
部室に帰ると、先生が椅子に腰かけていた。
「うぉ、先生。俺たちの部活に何か用っすか?」
「私が顧問なの忘れたのか?」
そういやそうだった。
「だからって、そんなだらしない格好してから」
背もたれに体重を預けて、体を開いている。
おっさんみたいだった。
「疲れてるんだよ」
「美人が台無しですよー」
「顔が良いなら問題ないだろ」
「うひゃー、めっちゃ強い言葉吐いてる。肩でも揉みましょうか?」
「え、あ、うん」
急に日和る先生。
「何すか急に。そういうの恥ずかしいタイプっすか」
「いやまぁ、じゃあお願いするか」
「はいはい」
だらしない先生の肩を揉む。
何か良い匂いがするなぁ。
「それで、何処行ってたんだよ?」
「待機部の活動っすよ」
「ほぉ、二人も連れて?」
「うっす。ってかマジでビックリしました。ゲム子凄い!」
「お、おう?」
「ゲー研で”ぺよぺよ”してたんすけど、本当にゲム子凄くて!」
「……おい」
「いやマジで、皆驚いてたし。正直ゲム子がここまで凄いとは!?」
「落ち着けって」
「だって、あんなの見させられたら!? ゲム子が!?」
「いいから、その本人が困惑してるぞ!?」
「へ?」
ゲム子を見ると、本子に隠れて震えていた。
何やら耳まで赤くなってる。
「どうしたゲム子? 風邪か?」
「お前、本気で言ってるのか?」
「はい?」
「うわぁ、マジの奴だ……」
ゲム子はノソノソと影(本子)から出てくると、ホワイトボードに文字を書く。
「ば、馬鹿だと!?」
バーカと書かれたホワイトボードを読み上げると。
「……フフッ」
ゲム子は笑った。
それはいつもとは違う、女の子らしい笑みで。
端で見ていたケー子や本子も驚いていた。
「ははっ」
だからか、気が付けば俺も笑っていた。
きっとこういう日々を重ねて行けば、青春っぽく振り返られる。
生涯の記憶になるんじゃないかって。
意味になるんじゃないかって思えたんだ。