1-11-2 狼さん
「ソフ部に入部してください!」
俺とチャラくない男は土下座した。
「無理ー無理ですー無理無理ー無ー理ー」
全力で拒否られた。
美術部とは思えないリズミカルな人だった。
「流石に美術部からの移籍は難しいか」
取り合えず近くの文化部に来たが、結果は芳しくない。
RGも、先程の失言のせいか付いてきてくれなかった。
◇
「すみません、一緒に土下座までしてもらって」
「いいよ。何者でもない俺の土下座なんて安い安い」
悲しくなる事を言ってしまう癖があった。
「まぁ、チャラくない男がチャラくなかったから手伝ってるだけだ」
「チャラくない男!?」
「名前知らんし」
「あぁ、確かにそうですね。鶴井ペダルって言います」
「カッコイイ名前でムカつくなぁ。ツルペタで良いか」
「酷過ぎる!?」
「見た目も女の子みたいだし、ピッタリじゃないか」
「それってハラスメントですよ!?」
「理不尽には慣れておいた方が、都合が良いぞ」
「ソウシさんの都合ですよね!?」
「あれ? ソウシって……。そういや野球部の兄貴に聞いたんだっけ?」
惣藏詩位を略してソウシと呼ぶのは、野球部の兄貴だけだった。
「はい。一個上のアニキが居まして」
「ふーん……。一個上?」
「そうですが?」
「鶴井は一年だよな?」
そういや鶴井って苗字に聞き覚えがあるぞ。
「髪の毛をふわっとさせて、僕イケメンとか言わない?」
「いや言いませんよ!? ただ、見た目は爽やかかも?」
「もしかして野球部の兄貴ってアイツ?」
野球部の爽やかな男を思い出す。
ゲム子にちょっかいを出して来た、あの男だ。
「あのチャラ男かぁあああ!?!?」
「ど、どうしたんですかソウシさん!?」
「あのクソ爽やかイケメン」
「どうしてそんな敵意を」
「どうして、だと……!? どうして……。どうし……? ……?」
ゲム子にちょっかいを出そうとする所、それ以外は特にない。
いやまぁ、それが影響してる部分は大きいか……。
「トラウマみたいなもんだ。チャラそうな奴を見ると頭がおかしくなるんだ」
「びょ、病気では?」
「大丈夫だ。おかしい事をしてれば治る」
「それ周りが困りますよねぇ!?」
「気にするな。やかましいだけだ。あ、騒々しいだけだ」
「言い直す必要ありましたか!?」
「俺にだって自制の心はある。見せるべき時が来たら見せるさ」
「良いのかなー!?」
良くないと思うよ。
その後も俺達は、次々と土下座を続けた。
『ふふーん。例の約束もまだなんだけどぉ』
『ちょっと惣藏笑っちゃうからー』
『あらあら』
『馬鹿じゃないの!?』
『……』 『……』 『……』 『……』
レティセンスガールズにまで土下座してしまった。
「という訳で。今日の活動は終了!!」
待機部の部室で、俺達は跪いていた。
「……クスクス」
本子が笑っていた、少しは許して貰えた様だ。
ケー子もルビ子も同じで、手を軽く振って先に帰っていった。
「ボクも今日は帰りますね」
「すまんな」
鶴井は会釈をすると、部室を出て行った。
割と良い奴だと思う。
見た目も可愛いしな!!
鶴井とはまた後日、土下座周りをする約束をした。
後に残ったのは、本子と彼女に抱き着いたままのゲム子だった。
「うん。二人はまだ帰らないのか?」
「……」
本子はゲム子を見て、困ったような笑みを見せた。
「さっきからずっと本子に抱き着いてるなぁ。まさか、生き別れの娘!?」
「……!?」
本子がプクーっと膨れて怒った。
どんな顔をしても可愛いなコイツ。
「ゲム子の機嫌が悪いって事で良いのか?」
「……コクコク」
頷く声が聞こえる様だった。
「俺のせいなの?」
「……コクコク」
確かに聞こえるんだけど!?
「何かやったっけかー」
本子は少し思案して椅子を指さす。
「この椅子が? んー、あぁ先生が座ってた」
「……コクコク」
「俺が先生にした事って言えば……」
ツッコミ?
「まさかツッコミのキレが悪くて!!?」
「……!!!」
本子が『ふざけんな』って言っていた。
「待てよ、思い出す」
そういやあの時……。
――――俺は葉月先生一筋ですよ!!
何て事を言ったな。
その後、冗談だって茶化すタイミングも無かった気がする。
うーん、でもその発想だと……。
「ゲム子が俺に気があるみたいになるからなぁ」
「……!!?」
「そんな事ある訳ないしな」
「……!!!」
「でもゲム子に求婚した後だから、感じ悪いかもな」
「……!!?!?!」
「ん? どうした、本子?」
本子は急にテンパっていた。
「とにかくすまん! 先生とも遊びなんだ!!」
「……!!!!?!?!?!」
本子が顔を赤くして、フラフラしていた。
「……」
ゲム子はのっそりと本子から離れると、こっちを見た。
「……ホント?」
ゲム子が口を開く。
彼女達が口を開くときは、とても大切な瞬間だ。
だからその時だけは、茶化さない様にしようと思う。
「本当だ。あれは先生のチョロさを検証しているのだ」
哀れな先生だった。
心の中で謝っておこう。
「……フフッ」
ゲム子が笑った。
それだけで嬉しくなった。
ゲム子は立ち上がるとホワイトボードに近づく。
「なんだ、なんだ?」
見ていると小さな、小さな文字でそれを書いた。
バーカ
「誰が馬鹿じゃい!?」
「……ヒヒッ」
ゲム子は、はしゃぐ様に部室から飛び出していった。
「やれやれ。俺も帰るか。本子はまだ残るのか?」
「……」
ショートした様に項垂れる本子。
「大丈夫かよ」
近寄ってみると、バッと反応する本子。
「ど、どうした?」
「……狼、さん」
「は、はい?」
本子は其れだけを言うと部室を飛び出していった。
「一体何が……」
女心は本当に分からないな……。
ミステリアス、それもまた女子力……?
◇
「一本踏んどく?」
「親踏みを日課にするのは止めなさい」
妹に踏まれている親父。
流石に居たたまれない。
「あぁ、其処効くー」
マッサージだったの!?




