1-1-2 変な名前。
「それで、ここは何の部活なんすか?」
「言ってなかったか、待機部だよ」
「待機部?」
「他の部活の助っ人みたいな感じかな」
「へぇ、それは面白そうだ」
漫画とかでありそう。
「ってのは表向きで、ウチの学校は部活全員参加だろ? でも部活入りたくないって奴が少なからず居るもんだ。そういうのを引き取ってる訳」
「なるほど、実質帰宅部ってことすね」
「簡単に言えば、な」
体裁は保たれているってことか。
緩いのか緩くないのか、分からない学校だな。
「ここで、1、2時間を潰したら帰って良いぞ」
「ういっす、まぁそうっすよね」
「……?」
「助っ人何てできそうな奴らに見えないし」
「……!」
俺が煽るように言うと、4人の少女達がこちらを見た。
何人か不服そうな顔をしている。
「やれやれ何も怖くねぇぞ! 喋らない時点で一方的に殴り放題だぜ!?」
「!!」 「!?」 「?!」 「??」
誤解を招きそうな発言だった。
本子とゲム子はこっちを見て怯えているし、ケー子は怒ったようだ。
だが、ルービックさんのパズルをしていた女子だけは違う。
ツインテールのお下げを、左右でくっ付けて遊んでいた。
ルビ子(命名)は、眠たそうにそっぽ向いた。
興味ぐらいは持ってほしい……。
「あまり虐めてくれるなよ。うら若き乙女達なんだから」
「勿論ですよ。先生を含めて皆お美しいので、緊張してしまいます」
俺は邪悪な笑みを乙女達に振りまいた。
本子とゲム子が再び抱き合って震えている、ちょっと尊い。
「お、お世辞言っても何も出ないからな!」
そんな様子に気付かなかった先生は照れ臭そうに笑った。
何か押しに弱そうな先生だな。
「私は用事があるからもう行くな」
「行ってきますのキスは?」
「!?」 「?!」
「や、止めろよ。皆居るから……」
居なかったら良いのか!?
先生は、はにかんだ笑みを見せると部室から出て行った。
やっぱりチョロそうだ。
「よし! これで俺を止められる奴は、誰も居ないぜ!!」
「!!」 「!?」 「?!」 「??」
乙女達がこっちに注目する。
段々と、ヘイトを稼げてきたみたいだ。
ケー子が拳を握り始める。
やめてね!?
「俺は1時間もボーっと出来るほど器用じゃねぇんだよ」
備え付けのホワイトボードに、文字を書いていく。
まずは挨拶からだ。
「俺の名前な、宜しく!」
惣藏詩位という俺の名前だ。
「……ブフッ!?」
ゲム子が急に噴き出した。
「ど、どうしたゲム子!?」
「……?!」
ゲム子は、自分のあだ名にショックを受けていた。
直ぐに正気を取り戻すと、本子に耳打ちする。
「ちょっと、喋れるじゃん」
「……ぼふっ!?」
今度は本子が噴き出した。
「本子まで! 何がおかしいんだ!?」
「……!?」
本子も自分のあだ名にショックを受けていた。
二人は無言のまま笑い合う。
ゲム子は相変わらず引きつった笑顔だったけど。
「まさか俺の名前が」
変ってことか……?
「……」 「……」
無言で見つめてくる二人に察する。
だが、そんなことは認めたくはない。
狼狽しているとゲム子が近づいてきた。
「どうしたゲム子?」
「……?!」
あだ名に慣れていないようだった。
ゲム子は、ホワイトボードに文字を書く。
「えっと……、騒々しい?」
そして、俺の名前に向けて=を伸ばす。
「惣藏詩位=騒々しいってことか! うるさいわ!?」
「……くふふっ!!」
今度はケー子が噴き出す、そして3人して笑い出した。
「人の名前を馬鹿にしてんじゃねー!?」
だが、ルビ子以外の3人はクスクス笑っている。
無口女子達でも、3人寄ればかしましいと言うのか!?
「ぐぬぬぅ……、こいつらぁ……」
何とかして反撃したい、何でもいい。
「ムカつくからグループ名を付けてやる!」
ヘンテコな名前を付けて馬鹿にしてやる!!
この手を汚す覚悟だった。
「何々、英語で無口な奴はレティセンスと呼ぶのか」
スマホで見た事を、一々声高に呟く。
「なら、レティセンスガールズだな。略してRGだ!」
バンッとホワイトボードを叩いて発表する。
「どうだ!!」
「……」
「……」
「……」
「……」
皆は『意外と悪くないな』って感じの顔をした後。
手元に向き直った。
「な!? カッコ良すぎたか!?」
当初の思惑は達成されていなかった。
「うん、俺の才能が発揮され過ぎたかも知れないな」
しかし俺も、満更でもない感じで饒舌になる。
「どうも天才的で困るなぁ。困っちゃうなぁ」
自惚れたいお年頃なのだ。
するとゲム子が、ホワイトボードに文字を書きだした。
ボケて
「進行中ですけど!?」
「……フフ」
ぎこちなく笑うゲム子。
落第を告げられていた。




