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私にとっての光だから

 神社で皆と別れた後、私と奏は帰路につく。ここから奏の家まで歩いて10分、近いという事もあって祭関係者の大人は同伴してこなかった。


「ねぇ奏」


 私は歩きながら親友である奏の名前を呼ぶ。


「どうしたの? 凛」


 奏が返事をする。彼女は合流した時に私が泣いていた事に気付いていた。気付いているのに今も理由を聞こうとしない。……なんて優しい子。


「奏はアイツ……黒崎集の事が好きなのよね?」


「うん、好きだよ」


 私の問に即答する奏は今まで見たことのない幸せで蕩けた表情をしている。私はずっと疑問だった事を聞く。


「どうして彼なの? 奏にはもう……」


「言わないでっ!!」


 彼女が声を荒げる。それだけで私は戸惑う。


「分かっているのなら、どうして?」


 奏は寂しそうな顔を浮かべながら


「分かってる……でもね、集君は私を救ってくれたの。肉体的にも精神的にも……ね」


 奏の言う肉体的の意味は分からないけど精神的の意味は分かる。両親の事故の事を言っているのね。


「辛く……ないの?」


 私だったら耐えられない。だってその恋は絶対に悲しい結末で終わると決まっているのだから。


「辛いよ。でもその分、集君と一緒にいられる日々が愛おしく感じられるの」


 奏は満面の笑みを浮かべる。

 理解できない。そこまでする必要……。


「彼はそこまでする必要のある存在なの?」


 私の言葉に奏は寂しそうに笑う。


「うん、集君は私にとっての()だから」


「光?」


「そう、ずっと闇の中で孤独でいた私を集君が照らし出してくれたの?」


 あの黒崎が? 私にはいつも彼が捻くれてるだけにしか見えないけど。


「前にも言ったと思うけど、集君の優しさは分かりにくいのよ。あの通り素直じゃないから」


 優しげに微笑む彼女の顔が夜だというのに私には眩しく見える。

 奏がそう言った時、頭の中で黒崎集の言葉が蘇る。


『なんで、アンタがっ山岸さんの陰口を止めに入らなかったんだよっ!!』


 あの時の彼を見て私は羨ましく感じた。

 自分を傷付ける事になんの躊躇もなく実行できる彼に嫉妬した。


 でもそれは彼、黒崎集なりの優しさ表現だったとでも言うの?


「誰かを守る為なら集君は自分を平気で切り捨てる事が出来るのよ。

現に集君と知り合う切っ掛けになった机や椅子を倒した件」


 それは、黒崎集が手を上げて犯人でもないのに名乗りを上げた事に関して奏は言っているんだと思う。


「名乗りを上げた時の事よね」


「そう。でも私……集君になんであの時手を上げたのか理由教えてもらってないのよね」  


 6ヶ月も経ってるのに? この二人はどれだけ奥手なのかと呆れてしまう。


「そんな事じゃその内、黒崎を誰かに取られるんじゃないの?」


「うっ……そんな嫌な事言わないでよ凛〜っ」


 涙目で奏が訴えてくる。それ程までに黒崎集の事が好きなのかと思うと胸が苦しくなる。


「もし彼に好きな人ができたら……どうするの?」


 奏は私の言葉に暫し固まった後こう告げる。


「……祝福するよ」と。

 

 そう言った時の奏の笑顔はとても儚げで触れようとすれば消えるんじゃないかと思うくらい脆く見えた。


「だって私が勝手に集君の事好きになってるだけで、この気持ちを彼に打ち明けるつもりは……ないから。だから集君に彼女が出来たら祝福するよっ!!」


「本当にそれで良いの?」


 結果が変わらないと知っていても、そこまで彼の事を想っているなら伝えるべきじゃないの?


 奏は首を縦に振る。


「うん、今だけでも幸せなのにこれ以上を望むのは……ワガママだよ。それに彼が離れたとしても私には(親友)がいるから」


 笑って言う奏を見て私は心に誓う。

 卒業まで何があっても奏を守る事。そして……。


 彼女の好きな人との時間をなるべく多く過ごさせてあげる事を――。

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