なんで貴方なの?
それからというもの、僕は冴島さんに扱き使われて気付けば、残り1時間で新年を迎える時間帯になっていた。辺りは真っ暗になり、街灯が灯る。神社内では提灯が出ている。
「……キレイだなぁ」
僕はそう呟く。午前中から夕方は晴れていたがこの時間帯になって雪がチラチラと降ってきた。
空から舞い降りてくる雪が提灯の灯りで赤く照らされる。僕は色の中で白が好きだ。いや、憧れているぃと言った方が正しいかもしれない。だって白は……。
――何色にも染まる事が出来るから。
「ちょっと何をしてるの。……さっさと行くわよ」
冴島さんの無機質な声が雪を眺めていた僕を咎める。……はぁ、なんか辛い。
僕と冴島さんは次の撤去場所に向けて移動する。移動してる最中に様々な出店が視界に飛び込んでくる。
お面、焼きそば、たこ焼き、綿菓子など様々な出店が存在している。僕がその出店に気を取られていると冴島さんの足が止まっている事に気が付く。
彼女の顔を見るといつも無表情の顔ではなく、朗らかな笑顔を浮かべていた。彼女の視線の先に目を向けるとそこには、冴島さんと同じく袴姿で売り子をしている奏さんと万丈の姿があった。
僕は二人の袴姿を見て時が止まったような感覚に陥る。それ程二人の袴姿が似合っていたのだ。
奏さんは胸がない分袴姿が慎ましやかな感じに良く映えていて可愛らしくも凛々しい。一方万丈の場合胸が大きくて服というよりそちらの方ばかりに目が行ってしまうが、彼女特有の銀髪が袴姿に良いアクセントを与えていて凄くキレイに見えた。彼女達は飲み物を販売していた。
僕は冴島さんに目を向ける。冴島さんは、やはり奏さんの事を見ていた。
天道以外に奏さんの過去の事を気に掛けている人間がもう一人いた事を僕はそこで思い出す。……そう、冴島さんだ。
考えてみれば冴島さんも天道と同じく、奏さんの幼馴染だ。知ってて当然だ。冴島さんは、その時何を思ったんだろう? いつも無表情の彼女が奏さんの不幸な出来事にその無表情な顔が、無機質な声が感情で掻き乱されたりしたのだろうか?
冴島さんが僕の方に視線を向け、僕と彼女の視線がカチリと合う。
「あ、ごめんその……無神経、だったよね?」
僕はそう言って彼女から視線を逸す。
「別に構わないわ。……でも凄く悔しいわね」
僕は冴島さんの言葉の意味が分からず視線を彼女に向ける。冴島さんの顔はいつもの無表情のものなどではなく、今にも泣き出しそうな顔をしていて僕は驚く。
「……っ」
冴島さんは自分が泣いてる事に気付いたのだろう。すぐさま駆け出していく。
「ま、待ってっ!!」
僕も慌てて彼女の後を追いかけていく。まさか彼女があんな表情を浮かべるなんて……。
走る事10分、僕達は午前にお邪魔した奏さんの家の近くに来ていた。走り疲れたのか立ち止まる。
彼女は肩で息をしながら振り返ってくる。彼女の顔は涙で濡れていた。雪が彼女の黒髪を濡らしていく。
「なんで、なんでなんでなんでっ……なんで貴方なのっ!!」
僕は初めて彼女……冴島凛が声を荒げているのを聞いた。とても悲しくなるほどヒステリックにその声が周りに響く。
「私は奏が苦しんでいたあの時、何も出来なかったっ……。ずっと、後悔したわ。なんであの時普通に接してあげられなかったのか、寄り添ってあげることが出来なかったのか、なんであの時っ……あの時に奏を悪く言う人間に、立ち向かおうとしなかったのかって!!」
そうか……、これが彼女の後悔してる事なんだ。僕は泣きじゃくる冴島さんを見つめる。
かなり辛い思いを奏さんがしたように冴島さんもそんな彼女を見ていて、心を痛め続けてきたんだ。
「立ち向かえなかった時に私は知ったわ。結局私は傷付きたくなかった……親友より自分の身が大事なんだってっ!!」
彼女は泣き叫ぶ。自分を糾弾する為、そしてこの世界が間違っていると示すかのように。
「なのに……。なんで貴方はっ!!」
彼女がキッと僕の事を睨み付ける。
「なんで貴方は自分を平気で傷付けることが出来るのよっ!?」
傷付ける……か。周りから見たら僕はそういう人間に見えているのかも知れない。僕は空を見上げる。夜空には、雪が降っているにも関わらず雲の合間から優しい光を放つ月が顔を出していて、来た道を振り返ると冴島神社がライトアップされ除夜の鐘が視界に映り込む。
「別に……僕は誰にも……必要とされてなかったから」
必要とされていないのなら僕が勝手に傷付こうとどこで何をしようと気にする人間なんていない……そう思っていたんだ。
『彼は私のボーイフレンドよ』
今日奏さんが言った言葉を思い出す。奏さんと知り合って友達になってからというもの、僕が傷付く選択を選ぶと彼女はその事を悲しむ。僕の事を気に掛けてくれる人間がそこにいたんだ……。
「でも……今は違う。奏さんがいるから」
「私は貴方なんかよりずっと奏の事を知ってる……」
彼女が勢い良く言い放つ。
そう言った彼女は顔を俯かせたまま肩を震わせていた。僕は空を見上げる。景色もなにも映し出さないただ虚空だけが存在する空からシトシトと一粒一粒小さな雪が舞い降りてくる。
ヒラヒラと舞い降りてくる雪が彼女の手入れの行き届いた綺麗な黒髪を濡らす。大晦日の夜でこの雪に気温は体に非常に悪いなと身震いしながらそう思った。
「確かに僕は……。山岸さんの事を何も知らない」
そう……。僕は彼女の事を深く知らない。彼女が何が好きで、何が嫌いで、最近になってどんな過去を持って生きてきたのか知ったくらいだ……。そんなに奏さんの事を僕は知らない。でも
「だからこそ、これからもっと知っていきたい……友達、親友だからっ!!」
「ウ、うわあぁぁああ〜〜〜ンンンゥッッッ」
彼女が周囲の目もくれずに盛大に泣き喚く。僕は仄かにライトアップされている除夜の鐘と雲に隠れながらも光り輝く事によって存在主張をしている月を眺める。
そして今までの事を思い返した後僕は再び冴島さんを見る。
そして彼女の元に歩み寄って肩を掴んでただ一言「帰ろう」と呟くのだった――。




