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僕のモノクロだった世界が君に出会ってから色付き始める  作者: 高橋裕司
第四章 確かに僕は
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私のボーイフレンドよ

「ヒョエ〜ッ」


 僕は目の前の光景にただただ驚き慄く。目の前には広大な屋敷が聳え立つ。門の前を塞ぐ柵……その間から見える物はこれまた立派な広々とした庭園。


 僕は隣に立つ奏さんを見る。こんな所に来るって事は彼女はいいトコのお嬢さん……なのか?


「あ、あの……僕、凄いラフな恰好なんだけど大丈夫?」


 僕の格好はフード付きの青のパーカーに黒のチノパン……、まさかこんなお硬そうな所に行くとは思っていなかったので、こんな格好になってしまった。……行く所をちゃんと教えてくれればもう少しマシな格好をしたのに。あ、でも僕ドレスコードなんて持ってないや……。


「大丈夫……? すぐ出てくから」


 ……え? なら僕、ここに来る意味ないんじゃ?

 ということは……僕ここで待ってれば良いのかな?


「じゃあ、中に入ろう集君」


 そう言って、柵の脇にあるチャイムを鳴らそうとする手を僕は掴み取る。


「いや僕ここに待ってるんじゃないの?」


「何を言ってるの? 行くに決まってるじゃない」


 いや、意味分かんないんだけどっ!? 何この人サイコパスなんですかっ!?


「あっ」


 気付いたときにはもう遅くチャイムが押されていた。マジか……、こんなパーカーとチノパンで挨拶とかすげー恥ずいんだけどっ!!


「はい、どちら様でしょうか?」


 インターホンから若い女性の声が流れる。


「私、奏よ……」


「奏お嬢様でしたか? 今柵をお上げしますね」


「ありがとう」


 奏さんがそう言うと同時に柵が上がる。今のやり取りを見ていて確信したのは間違いなく、山岸奏が偉い人のお嬢様である事。


 柵が上がるのを確認した奏さんは門へ歩き出す。僕はその後を付いていく。


「まさか……奏さん、お金持ちのお嬢様だったなんてね」


 僕は慣れない冗談を口にすると


「そんな良いものじゃないわ」と素っ気なく奏さんが答える。


 その時の彼女の声が僕の耳には寂しく聞こえる。背中を向けてるせいで今彼女がどんな顔をしているのか全く想像がつかない。でも何故か、今見えてる背中が寂しそうに見えた。


 門へ辿り着くと同時に開け放たれる。


「奏様……おかえりなさいませ」


 扉の奥に10人のメイド服と執事服を着た人達が皆揃って奏さんに頭を下げる。……こんな事、現実であるんだ? 少し引いちゃうんだけど。


「挨拶はいいわ……。(かおる)、お父様はどこかしら?」


 淡々と要件を伝える奏さんに一番前にいたメイドさんが答えを返す。


「主様は、奥の広間にいます。年越しのパーティーにご出席するのですか? それならこちらで色々とご用意致しますが」


「必要ないわ……。用を済ませたらすぐ帰るから」


「畏まりました。では奥の広間へどうぞ」


 メイドさん……薫って呼ばれてた人が広間への方向を指し示しながら僕達に先を行くように促してくる。僕達はまた奏さんを先頭に歩き出す。僕は周りに目を向ける。


 本当にお金持ちなんだな……。今歩いている床は黒の大理石で出来ており、毎日磨いているのかピカピカに光り輝いている。壁を見れば、骨董品が至る所に飾られており、素人の僕から見ても高級品だということがひと目で分かった。奏さんが大きな扉の前で止まりこちらを振り返る。


「集君ここが広間よ」


 そう言うと、奏さんがその扉を開く。僕はそこから見えた光景に唖然とする。ドラマでしか見た事のない舞踏会の場所ってこういう所なんだろうな……と、思いながら結構広い部屋を見回す。上を見上げた時には流石に驚いた。……僕シャンデリア見るの初めてだわ。


 そんな僕を余所に奏さんは一直線に歩き出す。周りの人達は彼女の姿を認めると頭を垂れ、彼女の道を開けている。……すごい。正真正銘のお嬢様だ。


 奏さんはある男の前で足を止める。その男の格好は、上が紺のジャケットを羽織っており、下は黒のスラックス。年は見た目50〜60代に見える。全体的に渋めな印象で僕も年を取るならこういう人になりたいなと思った。


「……奏か?」


 言い方が何か凄い冷たい印象を受けるんだけど……? 


「えぇ、お久しぶりです」


 奏さんが男に対して頭を下げる。……いやいや、家族なのになんでそんな律儀にしてんの?


「てっきり今年もこのパーティーには来ないと思っていた。……そこの彼は?」


 男が僕へと視線を向ける。何か品定めされてる気分になる。


「彼は私のボーイフレンドよ」


 奏さんの言葉に男が目を見開く。えぇぇぇええぇぇ〜〜〜っっっ!!! ちょっと〜〜〜っっっ、何言ってるんですか奏さんっっ!!


「そうか……。で、君は奏にどのようなメリットを与えてくれるんだい?」


 僕はその言葉に固まる。……は? メリットってなんだよ?


「……()()()()!!」


 奏さんが声を荒げる。え、叔父様って? 僕が訳も分からず見ていると


「奏……。言っているだろう? 誰と一緒にいれば自分が得をするか、そういう事を常に考え人付き合いをしなさいと」


 あぁなんだろう、なんとなく分かった気がする。奏さんは学校だけじゃなく、家にも居場所がないんだ……。いや学校には冴島さんがいる。普段奏さんが、見せようとしない闇は学校じゃなくて家に根が張っているって事が今のやり取りで伝わってくる。


「……私が誰と人付き合いをしようと叔父様には関係ないわ」


 険しい顔付きで男を拒絶する奏さん。


「そういう訳にもいかない。私にも責任という物があるからな……。お前に何かあったら壮二そうじに顔向けが」


「うるさいっ」


 僕は驚く。ここまで感情を爆発させた奏さんを僕は今まで見た事がなかったから。彼女の顔に怒気が沢山含まれていた。


「……今日は挨拶をしに来ただけだから。もう帰るわ」


 そう言って来た道をなぞって歩いていく奏さん。僕は男の顔を見る。男は悲しそうな眼差しで彼女の後ろ姿を眺めていた。僕はそれを見たあと、奏さんの後を付いていく。そして建物の外へ出ると


「ごめんね集君……付き合わせちゃって」と笑う奏。


「事情とか聞いていいの?」


 これまで触れないようにしてきた事を僕は尋ねる。


「うん……、そのつもりで連れてきたから話すわね」


 そうして僕は彼女……山岸奏の過去を聞くことになる――。

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