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僕のモノクロだった世界が君に出会ってから色付き始める  作者: 高橋裕司
第四章 確かに僕は
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文字通り青春だな

 最近、あの二人がおかしい気がする。あの二人というのは俺の親友の黒崎集と俺の幼馴染の山岸奏だ。なんでか知らないけど、募金活動をしたときから妙にギクシャクしてる気がする。



「あの二人……何があったんだろうね〜?」


 俺の彼女である亜希子の目から見てもギクシャクしてる事が見て取れるという事はそれだけ不自然に見えるってことだ。



「でも見た感じ……。喧嘩をしてる様には見えないけどな」


 俺はそう言いながら遠目に集と山岸の様子を見る。なんだろう? 見てて凄いもどかしい……じれったい感じがしてくる。……あぁ。



「二人とも照れてるのかもな」


「なんでそうなるの〜っ?」


 亜希子が首をこてんと横に傾けながら聞いてくる。



「だって山岸、集と目を合わすと戸惑ったように目を逸らすんだ」


 照れてなかったとしても、少なからず意識はしてると思うけどな。

 ただ集が理解してるかは別だけど。アイツ鈍いからな……。俺は二人を見て笑う。


 黒崎集……。アイツは凄い奴だ。だって、ずっと頑なに孤独を恐れて人に合わせて来た幼馴染みである山岸奏を変えたのだから。集は人の心に影響を与えられる人間だって俺は思う。最初こそふざけた事を言うボッチ野郎だって思った。


 でも今ならわかる。集は常に正しい見方をしてる。偏見のように聞こえるけどアイツの言うことに一理ある。5ヶ月近く前の責任の擦り付け合い……。俺はアレを見て正直幻滅した。俺達の友情は嘘だったのかって落胆した。


 集は人の心を理解しているのかもしれない。人の嫌な部分をアイツは受け止め続けてきた……。そんな風に感じる。だからこそ集は仲間だと思う奴には優しいんだろうな。俺にはまだ冷たい所もあるけど、以前に比べたら大分当たりはキツくない。


 普段人を遠ざけ傷付くような台詞を常時言ってるような奴だけど、仲間だと認めた奴には普段の冷たさは幾分かマシになる。それでも皮肉屋は変わらないけど。



「なぁ、亜希子」


「どうしたの〜敦」


 僕の呼びかけに答える亜希子。


「集を見てて何か思うことはないか?」


 僕がそういうと亜希子は表情を暗くさせる。


「……あたしはさ、ボチ……黒崎には感謝してる」


「それはあの時のこと?」


 修学旅行で集が雨の中……、亜希子を襲おうとしたっていう設定の悪役を演じた時のこと。俺はあの後、亜希子から事情を聞いた。亜希子は暗くて狭い場所が苦手な事、そして陰で友達にコソコソ陰口を叩かれている事を聞いた。


 集はこう思ったのかもしれない。散々馬鹿にした相手と一緒にいたら亜希子の立場が悪くなるって。実際あの時何があったのか聞いた。


 暗くて狭い玉泉洞の中で震えながら集にしがみついて、それを見た集が外に連れ出した事。そしていたたまれなくなった亜希子が逃げ出しそれを集が追いかけた事。追いつかれて集に自分の思っている事全てをぶつけた事。これが僕達が合流するまでの間にあった事だ。


「そうね、あたしはあの時……素直に事実そのものを話すことが出来なかった……」


 後悔していることが亜希子の表情からありありと伝わってくる。


「あたしはあの時素直にあった事を話したら周りから嫌われると思った……。だから言えずに困って、黒崎に視線を送った」


「その結果がアイツが更に周囲から嫌われるとはな」


 あの時僕は集の行動を見て思ったんだ。集のやり方は決して正しいものじゃない。だけど、それで誰かが救われたのもまた事実だ。だけどアイツは……。


「黒崎凄いよね……。わたしには真似できない」


 亜希子の言葉に僕は胸を痛める。……俺だってあんな事できない。そんなに深く関わってもいない人間の為に自分の地位と引き換えに悪役を演じることなんてっ。


「そうだな。でも集は多分傷付いてるよな?」


 いくら平静を装っていても辛いものは辛い……。せめて俺になにか出来ることがあれば。


「だからさ……わたしは黒崎が困ってたら、今度はあたしが助けるっ」


 俺はその言葉に胸を打たれる。亜希子がまさかこんな事を言うなんて……。これも集が影響を与えたのか。だとしたら本当にすごい。


「あ〜っ」


「このまま喧嘩別れでもすればいいのに」


 俺の近くでは万丈と冴島が二人を眺めてなにやら念を送っていた。……まぁ、なんとなく想像つくけど。でもこれから先、集は大変だな……。もし山岸の想いに気付いたとしても、いつか来る()()にアイツは影響を与えることも出来ないだろう……。ここまで見た黒崎集の学校での人生は


「文字通り青春だな」


 集……。お前かその抗いようのない運命(それ)が来た時、お前がどういう選択をするのか見届けてやるよ。


 俺は山岸とギクシャクしている集の姿を眺めながらそう思っていた――。

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