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プロローグ
「私は貴方なんかよりずっと奏の事を知ってる……」
そう言った彼女は顔を俯かせたまま肩を震わせていた。僕は空を見上げる。景色もなにも映し出さないただ虚空だけが存在する空からシトシトと一粒一粒小さな雪が舞い降りてくる。
ヒラヒラと舞い降りてくる雪が彼女の手入れの行き届いた綺麗な黒髪を濡らす。大晦日の夜でこの雪に気温は体に非常に悪いなと身震いしながらそう思った。
「確かに僕は……。山岸さんの事を何も知らない」
そう……。僕は彼女の事を深く知らない。彼女が何が好きで、何が嫌いで、最近になってどんな過去を持って生きてきたのか知ったくらいだ……。そんなに奏さんの事を僕は知らない。でも
「だからこそ、これからもっと知っていきたい……友達、親友だからっ!!」
「ウ、うわあぁぁああ〜〜〜ンンンゥッッッ」
彼女が周囲の目もくれずに盛大に泣き喚く。僕は仄かにライトアップされている除夜の鐘と雲に隠れながらも光り輝く事によって存在主張をしている月を眺める。
そもそも何故こうなったんだっけ? あぁそうだ。あれは1か月前の事だったかな――。




