表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/179

関係なくなるのよ 上

今回は冴島凛視点でお送りします。

 最近よく考えることがある。私の親友である山岸奏について。私は幼い頃からずっと一緒で今尚苛まれている彼女の辛い過去を知っている。


 当時小学校の頃に奏は自分を塞ぎこむようになっていた。理由は両親を事故で失った事により周りがそれをタネに彼女を虐めるようになったのだ。虐められても尚、奏は一言も喋らず仕返しもせずにずっと耐えていた。……いえ、違うわね。


 ――多分、全てに()()()だったんだと思う。


 そう思える程に両親を失ってからの奏の目は空虚に見えた。後々になって知ったことだけど、彼女の親戚は葬式の時に誰が面倒を見るか? という話を埋葬が終わると同時に皆挙って話し合っていたらしい。


 当時私はそれを知って激しい憤りを覚えたのを今でも忘れない。彼女の親戚達にも大分苛ついたと同時になにも……、奏の為にしてあげられない自分に相当腹が立った。


 中学に上がると小学校の暗かった頃とは一変して明るくハキハキとした性格に奏はなった。いえ、そう周りから見えるようにしていたと言うのが正解ね。


 いつも他人の顔を伺って他人に嫌われないように合わせている奏の姿を見て切ない気持ちで一杯になった。奏の顔を見て無理をしている事が私には手に取るように分かった。このままじゃその内彼女が壊れてしまう……。

 そういう予感があったのに私はまたしても、彼女に対してなにもしなかった。でもそんな彼女に転機が訪れた。


『……僕がやりました』


 静寂に包まれた教室の中手を上げた男の子。その子は机の上に肘をついて頬杖を付きながら、いかにもやる気のない感じで手を上げていた。彼の名前は黒崎集……。最近の男の子にしては背が低めで死んだような目をしているのが特徴的な子……。それが私がその日初めて彼という存在を認識した時に抱いた印象だ。


 彼を認識したからと言って間接的ましてや直接的に関わる事はないと思っていた翌朝……。私は目を疑った。なんと、奏が昨日の男の子に話しかけに行ったのだ。どうしてそんな事をしたのかあの時の私には分からなかった。

 

 奏が自分から黒崎集に話しかけに行ってから色んな事があった。彼が奏の事を皆の見てる前で拒絶したり、そしていつのまにか以前より仲良くなったり。

 そんな奏を見て不安になる。奏、貴方は卒業したら……。そんな事を部外者である私が言えた義理じゃない。これは皆、奏の今の家族である人達が決めた事。でも私は我慢が出来ずに行ってしまう。


『彼に関わるのをやめた方が良いわ』


 そこから少し押し問答をしてから奏はこう言った。


『黒崎君は良い人よ。彼を悪く言う事は私が許さないっ』


 あの時の奏の顔は今でも覚えている。だってその顔は私がよく知っている顔だったから。小学校の頃、私が無表情でいる事が多くて周りから薄気味悪いって言われていたら


『凛はそんな子じゃないっ。勝手に決めつけないでよっ!!』


 奏は私の事を悪く言う人間全員にそうやって言っていた。そして私が黒崎集に関わるなと言った時に見せた顔がその時と全く同じだった……。

 奏が去った後にその場にいた黒崎集が教室の中で天道と殴り合った。奏が黒崎集に話しかけて1か月も経たない頃にも一度この二人は喧嘩をしている。そんなに喧嘩が好きなの? と、私は疑問に思う。そして彼はこう言い放つ。


 『そいつの様になりたくねえんなら……僕の陰口は構わない。でも、山岸さんの陰口は金輪際っ口にすんなっ!?』


 私はその言葉に衝撃を受ける。彼の事を認識した時の印象では人に対してどこか冷めてる印象だったのに……意外だった。そしてなにより、奏の事を守ろうと()()を演じた黒崎集の姿に私は軽く嫉妬した。


 どうして他人の為にそこまで自分が損する事を分かっててそんな事が出来るの? 私には出来なかった事が彼には出来た。その事実が私にはとても腹立たしい。私は彼女の親友なのに、いつも逃げてばかりでいる自分を殴ってやりたい。


 その翌日、黒崎集が暴れる原因となった事の発端をクラスで話し合う事になった。でもその時のクラスの雰囲気は凄く悪かった。

 クラスの皆が皆、責任を押し付け合いばかりの場になって正直私はそれを聞いていて苛ついた。……これじゃあ前日に言っていた黒崎集の言っていた通りじゃないかとそんな事を思っていたら


『いい加減にしてっ!!』


 奏の突然の言葉に皆が静まり返る。そして彼女は皆の前でこう言ったの……。


『私は黒崎君が好き』


 私が予想していた事を奏は言った。彼女が黒崎集に抱いている想いは恋慕なのだろうと。そしてそこで色んな事が明らかになった。例えば、黒崎集が犯人に名乗りを上げたあの一件は本当は奏がやった事。そして黒崎集のどこが好きなのか……。そんな事を赤裸々に語っていた。


 私はその話を聞いて嬉しいのと同時に寂しくなった。奏がやっと心の支えに出来る人が出来て嬉しいはずなのに。自分から離れてしまうみたいで……。要するに私は黒崎集に文字通り嫉妬していた。


 それから黒崎集が病院送りになって毎日のように奏がお見舞いに行くようになった。なんで今まで目立ってなかった彼がここまで騒動に巻き込まれるのか不思議に思う。そんな感じは一切しなかったのに……。


 そしていつの間にか彼の和の中に奏だけじゃなく、万丈皐月が入っていた。私達が気付かなかっただけで彼には人を惹き付ける魅力があるのかもしれない。いえ、あるに決まってるわ。だって……。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだから。魅力がない筈がない。


 それでもやっぱり不安だ…。奏はどういう気持ちで黒崎集と関わっているの? 私にはいくら考えても理解できなかった――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ