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僕のモノクロだった世界が君に出会ってから色付き始める  作者: 高橋裕司
第三章 結局僕は
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俺達親友だろ?

「……はぁ」


 僕は溜息をつく。あれから僕は二日目の自由行動を勝手に抜け修学旅行が終わるまで集団行動を最低限合わせるだけに留めその間極力喋らないで過ごした。


 その間、榊さんや森本、空条は僕に対して怒りの形相や蔑みの眼差しを。そして天道や本城さんはなんともいえない哀愁漂う表情を浮かべていた。でも結果的にこれで良かったんじゃないかと僕は思う。


 集団行動において誰からも相手にされないポジションが慣れすぎてしまっている僕にはお似合いだ。それにあぁ言えば彼女は孤立しなくて済むだろう。もう困る事はないはずだ。


 なのにさっきから本城さんは悲しそうな目を僕に時々チラチラと向けてくる。……なんでそんな目をするんだよ? 一人ぼっちにならなかったんだからそれでいいじゃないかと僕はその時思っていた。


 そして修学旅行を終えてから学校中に瞬く間に僕の噂が広がっていった。皆が皆僕が通る度に蔑んだ瞳を僕に向けてくる。


「たくよぅ……、相変わらずだよな集は」


 修学旅行から一週間が経った今日……。いつも通り昼ごはんを屋上で一人で食べている所に万丈がそう言いながらこちらへ歩いてくる。その後ろを山岸さんが浮かない顔でついて来ていた。


「今僕の所に来ない方がいいと思うよ……。噂が」


「関係ねえっ!!」


 僕が喋っている途中で万丈が遮るように言い放つと笑顔を向けてくる。


「噂? んなの知らねえよっ……。だってオレは知ってるからな。集がそんな事をする訳ないって」


「万丈……。でも噂は良くも悪くも広まっていく。そして信憑性が高いとされるのは悪い噂の方だ」


 悪い噂を面白がって信じる者、単純に僕の事を嫌っている人間がその噂を鵜呑みにする者もいる事だろう。学校生活において生徒は退屈というのを嫌う生き物だ。だから僕の悪い噂は彼らにとって退屈を紛らわすには丁度いい話なのだろう。


「それでも関係ねえ……。オレは集と一緒に居てぇからなっ」


 満面の笑みで言う万丈に僕の心の中が暖かくなるのを感じた。そうか万丈……。お前はそうやって言ってくれるんだな? と嬉しく感じている僕に


「集君……。どうしてそんな事をしたの?」と今まで黙っていた山岸さんが口を開く。


 僕は山岸さんに視線を向ける。さっきまで暗そうにしていた表情が少し不機嫌そうな顔になっている。無理もない事だと思う。だって彼女は僕が悪役になるのを凄く嫌がるから。


「ごめん……。僕にもよく分からない……。ただ」


――誰かが困っていたから、助けようと思った……。


 僕は思い浮かんだ言葉に驚く。助けようと思った……。この僕が? 

 喋っている途中で黙った僕を凝視する山岸さん。暫くしてから諦めたのか溜息を吐くと


「集君の事だから本城さんを自分なりに守ろうとしたんでしょ?」


 山岸さんの言葉に僕は目を見張る。今言おうとした言葉と似た事を言ってきたからだ。


「な、なんでそう思うの?」僕は戸惑った声でそう問いかける。


 すると山岸さんは僕の元に歩み寄り前に立つと僕の手を取って


「集君と出会ってたったの4ヶ月だけどこんなに一緒に行動してるんだもの。……嫌でも分かるわよ」


 そう言って笑う山岸さんに僕は軽く衝撃を受ける。

 なんだろう? 彼女はいつだって闇に沈みかけてる僕を照らし助け出してくれる。僕にとって山岸さんは()()()()であり、そして()()()()()()()()()だ。


「でも全部が全部今回悪い事ばかりじゃないから許してあげる」


「そうだな」


 山岸さんと万丈がお互い顔を見合わせて頷きあう。僕が訳が分からず見守っていると


「入ってきていいわよ」


「とっととこっちに来いよ」と二人が屋上の出入り口に向かって声をかける。


「……っ」


 そこから出て来た二人の人物に驚く。なんと出入り口から出て来たのは天道と本城だった。


「二人……、特に亜希子がね。今回の事で謝りたいって」


「ならなんで天道までいるんだよ?」


 僕はそう言って天道に目を向けると


「まずは、亜希子の謝罪を聞いてやってくれ……。ほら亜希子っ」と天道はそう言って本城さんを促す。なにいきなり現れたと思ったら仕切りだしてんだよ……。


 促された本城さんが僕の前に出てくると、ウーとかアーとか言って中々話し始めようとしない。なに、ウーとかアーって新種のポケモンの鳴き声かな? そんな馬鹿な事を考えていると本城さんがやっと口を開く。


「その、さ……。色々誤解してた。その酷いことも沢山言った……。だから……ごめん」


 少し不貞腐れたような態度で謝る本城さん。まぁ気持ちは分かる。僕もそうだけど、年を取るほどに謝るのが気恥ずかしくまた面倒だって感じるよな。僕はその言葉に頷く。


「何について誤解してたかは知らないけど……。修学旅行の2日目の件を謝ってるのなら、それは必要ないよ」


 僕がそう告げると彼女は手を丸くしながら僕を見つめる。


「だってあれは僕がやりたくてやった事だよ……。なんで本城さんが謝る必要があるんだよ」


 僕の言った言葉に対して本城さんは無言で暫く僕を見つめる。そして本城さんが天道に顔を向けて


「コイツ……。もしかしてバカなの?」と僕を親指で指しながら天道に問いかけていた。


「あぁ……。()はいつもこんなだよ」


 おい待て。アンタ達酷すぎない? いやそれより


「なんでお前に集って下の名前で呼ばれなきゃならないんだよ」


 その言葉に天道は肩をすくめ、やれやれと言った具合に手を広げて首を力なく左右に振る。


「オマケに捻くれ物と来たものだ……。良く見れば良い所が沢山あるのに勿体ない」


 天道……。お前は僕の何を知ってるんだ、何をっ!!


「おいいい加減にっ」


 僕がそう言って咎めようとした所で天道が僕の目の前にいきなり来たことで言おうとした言葉を飲み干す。


「だって俺達親友だろ? 親友なら呼び合って当然じゃないかっ」と笑顔で天道が言う。


 はぁ〜っ? 何言ってんの。いつから僕達親友になったんだよっ!?


「親友は殴り合いなんかしない。それに口論なんか絶対しないと思うけど」


 僕が天道から目線を逸してそう言うと


「その言葉は嘘だな」と即座に否定してくる。本当にお前僕の何を知ってるんだよ?


「お前の論法なら親友っていうのは時に殴り合い、時に口喧嘩をし、それを繰り返してお互いを理解し高め合うのが()()……だろ?」


 天道か朗らかな笑みを浮かべて言う。僕はその言葉を聞いてなんとなく納得する。確かに僕の求めているのはそういう存在なのかもしれない。まさか今まで言葉に言い表せなかった親友の定義を自分と真逆の存在である天道に教えられるとは……、なんか癪だ……。


「「「「……ぷっ、アハハハッ」」」」


 何故か僕の顔を見て、その場にいた全員が笑い出す。


「なっ、なんで皆笑うんだよっ」


 僕は何故か恥ずかしい気持ちになりながら問いかける。


「アハハ……はぁ、ごめんね集君……ふふっ、でもね」


「あぁ、今の悔しそうな表情は笑えたなっ!! 初めて見たぜっ今の顔はよっ!!」


「ハハハッ……。はぁ〜、なんかあたしが悩んでたのバカみたい。

でも奏や万丈さんが()()()にハマるのも分かる気がする」


「あぁそうだなっ。これから益々学校生活が楽しくなりそうだな」


 何勝手に楽しそうに話進めてんだよっ!! それに……。


「突っ込んじゃいけない様な気がするけど……。年のために聞くよ本城さん。ボチ崎ってなんだよ、ボチ崎って?」


「ボッチな黒崎を略してボチ崎」


 当たり前のように言う本城さん。分かってたよ分かってたともっ!!

 でもちょっとは遠慮ってものを覚えてくれないかなっ!!


「しょうがないからキモ男から幾分かグレードアップさせてやっんだから。感謝しなさいよねっ」


 何が『感謝しなさいよねっ』だっ!! そりゃ、キモ男よりは大分マシになったけど。


 楽しそうに笑っている山岸さん達を眺める。今回僕は地位や名誉をさらに失う結果になった。……その筈だけど今目の前にいるのは、スクールカーストのトップに君臨しているであろう天道と本城さん。

 

 おいおい……。どうすんだよっ!? 僕の周り気付けば有名人ばかりなんだけど、ナニコレ僕死ぬのっ!? こんな人達と学校生活過ごすと考えたら……。


「ぼっ、僕は絶対……認めないからな〜〜〜っっっ!!!」


「ちょっ、集君っ!?」


「お、集が逃げたっ!?」


「本当……ボチ崎、最高っ!!」


「アハハハッ」


 僕は屋上の出入り口に向かって走る。秋の風が身体を素通りするのを感じると少し物悲しくなってくる。だけど面倒も確かにあるにはあるだろうけど、こんな日常を毎日過ごすのもありなのかも知れないと僕は走りながらそう思うのだった――。

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