分からなくなったんだ
「よし、じゃあ各自今日は自由行動……。くれぐれも羽目を外し過ぎないようにね」
美紗ねえの短い挨拶が済むと各グループは自分達の目的の場所へと動き始める。
「敦〜あたし達も行こうっ」
本城が天道に甘ったるい声でそう呼び掛ける。ハッキリ言って僕はこういう相手が苦手だ。相手をして後々何かを強請ってくる……。そんな考えが見え隠れしていて。
でも、天道は本城の呼び掛けに気付いていないみたいだ……。さっきから上の空という感じで前方をぼうっと眺めている。
「ねえ、敦……聞いてる?」
本城がいかにも私不機嫌ですって感じの顔を浮かべながら天道に詰め寄る。
「あ、ああ……悪い。じゃあ皆行こうか?」
力なく言う天道の姿を見て疑問に思う。……アイツ、どうしたんだ? 本城が僕の事を睨みつけてくる。……そんな親の仇を見るように睨みつけてこないでよっ!! 昨日だけで相当心抉られましたっ。もう僕のMP0ですよっ!!
本城さんが僕の元に来て胸倉を掴んできた。……ヒィイイっ!! なになになになにっ!!!
「アンタ昨日、敦になにかしたでしょ?」
本城さんの鋭い眼差しが僕の目を見てくる。どうでもいいけど、胸倉掴んでる手解いてくれないかな……。皺になったらどうしてくれるんだっ!! なんて怖くて言えねぇ〜。
「な、何もやってないよ」
「本当に?」
僕は彼女の言葉に首を縦に振る。
「確かにそうよね……。アンタみたいなキモ男になにか言われたとしても心に響く訳ないに決まってるし」
さり気なく酷いこというなっ!! その通り過ぎてなにも言い返せない自分が憎いっ。
「……あ」
そういえば僕昨日アイツにこう言ったんだっけ?
『そうやって、お前や周りの連中が他人の顔を伺って……、言いたい事も我慢して……、それは本当に、友情って呼べるのか?』
ヤバい、これ完全にアウトな奴だ。……いや、待て待て待てっ!!
そもそも天道が僕の言葉ごときで心を揺れ動かすような珠かっ!?
違うな……うんっ。よし、天道の様子がおかしい事に関して僕は関係なしっ。僕はそう結論付けるとこのグループの自由行動で行く場所へ歩みを進める。
さて、僕達の向かう場所は最終的には鍾乳洞なのだが、それ以外は適当にショッピングウィンドウという感じ。僕は思う……。なんで女子って買うわけでもないのに品をあれこれ物色する生き物なんだろうかと。
今もなお本城さんとついに僕の中で名字が発覚した由美子さん改め榊さんが二人で仲良く沖縄の民族衣装を自身の服の上に被せて見せ合いっこしている。僕は集団行動においてこういうダルい時間帯が大嫌いだ。こういう無駄な時間を過ごすくらいならもっと有効な事に時間を割いたほうが良いと思う。
「あれっ……集じゃねぇかっ?」
聞き慣れた声がして僕は声のした方へ振り向くと予想したとおり万丈が立っていた。
「万丈……。あれ? 山岸さんや他の人達はどうしたの?」
周りに目を向けど山岸さんどころか他の一緒の班と思われる人の姿も見えない。
「おう。かったるくて抜けた」
いや何しれっと言ってんのこの人……。普通駄目だからなっ!!
「戻りなよ……。山岸さん達困っちゃうと思うからさ」
僕がやんわりと伝えると
「ふ〜ん、なら」と言って万丈が僕の耳元へ顔を近付けるとそのまま……。
「ンッ……って何やってんのっ!!」
いきなりの事で喘いじゃったけど……。本当いきなり耳朶甘噛みするか普通……。
僕の反応を見た万丈がケタケタと笑う……。いや受けた僕としては笑えないって。
「可愛い声出すな……。集がその気ならエロい事してもいいぜ?」と顔を赤く染めモジモジしながら言う万丈。
その姿、仕草にクラっと来そうになる……。ん、クラっとってなんだ、クラっとって!?
「またからかってるんだろう、その手には乗らない。さぁさっさと山岸さん達の元に帰れ」
僕がそう言うと不貞腐れたような表情を浮かべながら
「分かったよ……。ったく、エロい事してもいいってのはホントなんだけどな」と、万丈がとんでもない事を言いながら帰っていく。
なんだって〜〜〜っっっ!!!! と言う事は僕はいつでも童貞捨てられるんですねっ!! モテる事なんてないだろうから一生童貞のままなんだろうなって思ったけど……。よし万丈。お前の言葉覚えておくぜ……ってアホかーーーーッッッッ!!!! と、僕は心の中でノリツッコミをかましていると
「相変わらず黒崎は、山岸と万丈……二人と仲良いんだな?」
後ろから声をかけられ振り向くと朝様子のおかしかった天道がいた。僕は出発する前の事を思い出す。もし天道が僕の言ったことを気に掛けているとしたら、僕は本城にどれだけ罵倒されるんだろう……。ものすんごい怖いんですけど〜っ!?
「黒崎……。お前が俺に問いかけてきた事をずっと考えて分からなくなったんだ」
天道が突拍子にとんでもない事を口走る。……おいいいぃぃぃーーーーっっっっ!!!! 結局僕のせいじゃねえかっ!? ……いや、待て。まだ挽回のチャンスはあるっ!!
「なぁ天道……。別にあの言葉を気にする必要はないと思うぞ」
僕はなんとかあの言葉は適当に言っただけだから気にしないでね〜っというニュアンスで話しかけるが
「いや黒崎……。お前の言うとおりだ。僕はいつも他人の顔を伺ってこうしたら喜ぶだろうっていう打算で動いてる所もあった。そんな事で出来た繋がりは確かに友情と呼ぶには程遠いものだ」
……ヤバイヤバイヤバイヤバイッ。コイツ変なスイッチ入っちまったぞっ!!
「いや、だからそれはあくまで僕から見ての話だからな……。世界は広いんだっ。もっと視野を広げなきゃいけないと思うんだっ!!」
名付けて、視野を広げようグローバル作戦っ!! これなら少しは聞く耳持ってくれる……。
「視野を広げてくれたのは黒崎……お前だよ」
キュン……。ってときめいてんじゃねぇよっ!? 何だキュンってっ!? バカなの死ぬのっ!! 確かにそんな澄ました顔して言われりゃ女子からモテるのも納得だけどなっ!!
「だから考えるよ……。これからどう人と接するべきかを」
結論。僕は本城に罵倒される運命が確定した……。うわあぁあああ~〜〜っっっ!!!! 超嫌なんですけどーーーーっっっ!!!
僕は天道の言葉に頭を抱え、項垂れるのだった――。




