余計なお世話だよ
「疲れたぁーーーっっっ!!!」
今日一日を終え、今は今日泊まる事になるとあるホテルの一室のベッドに思い切りダイビングしそのままうつ伏せになる僕。
あぁベッドが気持ちいい……。このまま寝てたいよ。寝ててもいいでしょ……ダメとか言われても寝るからね。そうやって一人の時間に浸ろうとしていると
「まだ寝るには早いよ……。黒崎」
僕の名を呼ぶ天道の声を聞いた瞬間、僕の一人だった(勝手に思い込もうとしていた)世界が音もなく崩れ去る。
「なんで天道……アンタと同じ部屋なんだよ?」
「しょうがないだろ……。お前が休んでる間に決めちゃった事なんだからさ」
僕の意思はっ!! ……まぁでも、好き好んで僕と同じ部屋になろうだなんて思わないか。それに森本や空条と同じ部屋とか……。正直何話していいか分からん。
そういう意味では天道と同じ部屋になれて良かったと思わないでもない。
「黒崎……。やっぱり僕達仲直りをしないか?」
……前言撤回。やっぱり僕は一人が一番良いらしいみたいだよ美紗ねえ。
「悪いけど、その話今じゃなきゃ駄目か?」
僕は重たい上半身をなんとか起こして天道に体ごと向ける。
「あぁ今じゃなきゃ駄目だ。だって君は色々と勿体ない思いをしてるから」
……ほ〜う? 面白いことを言うねえ天道君……。暇つぶしに聞いてやろうじゃないか。その代わり空気が重苦しくなっても知らないぞっ。
「何が勿体ないって?」
僕は挑発的に天道に問いかける。
「まず黒崎……。お前は色々と溜め込み過ぎなんじゃないか?」
天道の真剣な眼差しが僕に向けられる。僕はそれを真っ直ぐ見返し
「なんでそう思う?」と返す。
「山岸の件が一番分かりやすいけどお前は他人の罪を平気で被る所がある」
「最初に言っとくが僕は別に山岸さんの為に罪を被った訳じゃない」
「中山先生のあのホームルームの空気を終わらせる為……か?」
僕は天道の言葉に首を縦に振る。
「確かにお前の言い分も分かる。百歩譲って山岸の件はそうだとしよう……。なら、今回はどうだ?」
天道が勢い良く立ち上がり僕に指を突きつける。……親に人に指を向けちゃいけないって教わんなかったのか。突き付けていいの名探偵と正義の味方だけだぞ……。良い子は真似しないようにね。
「今回? 別に僕は何もしてないぞ」
「それが問題なんだっ!!」
天道は僕の元に来て肩を掴む。……異性だったら喜ぶんだろうけど、野郎だと別の意味で悲鳴が出そうだ。……と、冗談を言ってる場合じゃない。天道の目が真剣と書いてマジという感じで睨みつけてくる。……恐ぇよっ。
「なんで何も言い返さない? お前がやった事じゃないんだろっ!!」
あぁ、今日の主に本城に罵倒されていた事を言ってるのか……。
「別に……。嘘か本当かなんて関係ないだろ?」
「関係ないって……」
僕の言った言葉を信じられないといったような顔を浮かべる天道。そりゃそうだろ? お前と僕じゃ考え方が違うのだから。
「あのな、それを言うんだったらなんでお前はあの時止めに入らなかった?」
僕の問いかけに天道は口を噤み僕から目を逸らす。
「それは、お前の体裁を保つためだろ? 人ってのは自分の立場と体裁って奴を何よりも一番大事にする生き物だ……。だからお前みたいに常に集団に嫌われないように複数の人間の顔を伺う奴が多い」
僕の言葉に何も言い返せず、天道はただじっとして僕の言葉に耳を貸している。
「そしてこれは僕の持論だが天道……。集団において団結力を向上させるためには何が一番大事だと思う?」
僕の問いかけに天道は顎に手を当て暫し考える。
「お互いを信じ合う心……じゃないのか?」
「はい残念……。正解は共通の敵だ」
「共通の敵?」
天道は訳が分からないという表情を浮かべる。……いや、お前のお互いを信じ合う心の方が訳分かんねえよ。なんだ、仲間集めてたった1つのピース求めて冒険でもするのか?
「そうだよ、集団の意識を一つにまとめるなら共通の敵がいた方が纏まりやすい……。今日がいい例だ。お前以外の全員は本城が僕を馬鹿にしたら、すかさず便乗してきただろう?」
天道は思い当たるのか顔を俯かせたまま何も言わない。
「人は楽しい話をしてる時より人を罵倒している時のほうが、活き活きとしてる人間が多いし本性が出やすい。今回に至ってはここまで悪意を持つ人間が多いの事に驚いたけどな……。ウチのクラス……終わってんな、マジで」
「……アイツ等は悪い奴じゃないんだ」
は? この後に及んで何言ってんだ?
「そのことについては知らない……。和解するつもりもないしな」
僕は立ち上がり、肩に置かれた天道の手を振り払う。
「待ってくれっ!! 森本や空条、榊さんは本当は良い奴らなんだ」
あの由美子って人……。名字、榊っていうのか。関わる事あまりないからどうでもいいけど。
「だから知らないって……。本城と一緒になって僕を馬鹿にしてる理由は想像付くけど、だからってアイツ等が良い奴だなんて思えない」
「……森本達が本城に付くのは自分が虐められたくないからだ」
「だろうな……。誰だって自分が傷つくのは嫌だもんな」
「でも、それがお前が傷付く理由にはならない筈だっ」
天道が物凄い力で再度僕の肩を掴む。……いたっ、手が食い込んでるって!? 僕は痛いのを堪えて凄い形相をしている天道の目を見る。
「天道1つだけ聞いていいか?」
「なんだ?」
硬い表情のまま僕に先を促す天道。
「そうやって、お前や周りの連中が他人の顔を伺って……、言いたい事も我慢して……、それは本当に、友情って呼べるのか?」
僕の言葉に天道は目を見開く。そして天道は後ろにあるベッドに倒れるように座り込むと、放心したようにじっとその場で固まる。
僕はその姿を見て部屋を出た……。僕も少し言い過ぎたから少し頭を冷やそうとそう思ってのことだ。僕と天道がいる部屋が3階の307室。
廊下に出て少し右に歩いた先にエレベーターがあり、その近くには自動販売機とその横にソファが4つ対面するように2つずつ置かれていた。そしてそこには……。
「あ、集君」
山岸さんが途方に暮れるかのように一人ぽつんとその場に座っていた――。




