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僕のモノクロだった世界が君に出会ってから色付き始める  作者: 高橋裕司
第三章 結局僕は
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一人になんかさせない

山岸さん視点でお送りします。

「あら……、集ちゃん寝ちゃったみたい」

 

 黒崎先生の言葉を聞いて私は前の座席に前のめりになって下を覗き込むと規則正しい寝息を立てながら眠る集君……。


「可愛い」 「可愛らしいな」


 私と皐月の感想が重なる。私達は互いの顔を見合って暫く固まる。そして「プッ」とお互い吹き出し笑い合う。

 この前病院で宣戦布告された時は驚いたけど、集君は優しいから私以外の子に好きになられてもおかしくない。でも……少し複雑だな。


 私は集君の寝顔を覗き込む。いつもはつまらなそうにしている顔だけど、寝顔は無防備なせいか安心しきったような顔をしていて見ていて微笑ましい。


「この子がこんな顔をして眠るなんてね」

 

 黒崎先生が感心したように言う。私はその言葉に疑問を抱く。


「なぁ美紗っち……。集は昔はこんな顔してなかったのか」


 私が疑問に思った事をすかさず尋ねる皐月。その表情は凄く暗いもので見ていて凄く心配してるって事が伝わる。


「えぇ、3年前一緒だった時……。こんな顔してなかったわ」


「先生、ちょっと待って……」


 3年前一緒だった時……ってどういう事? 先生はしまったという感じで自身の口に手を当てる。そして暫くしてから、バツの悪そうな顔を浮かべる。


「あちゃ〜っ、集ちゃん言ってなかったか……。まぁこの子が自分の過去を易易話すわけないわよね」

 

 黒崎先生は悲しそうな顔をする。


「あの……黒崎先生。3年前って、一体何があったんですか?」

 

 私は恐る恐る尋ねた。他人である私が友達の家族の事情に踏み込んじゃダメって事は分かってる……。でも私は集君の事を何も知らない。

 だから知りたい。集君がどんな事を過去に経験してどんな風に育ってきたのか、それを私は知りたい。


 暫く無言で黒崎先生と見つめあった後黒崎先生が先に顔を背け

「はぁ」と溜息を吐く。


「そんなに知りたいの? 知ったら後悔するかも知れないわよ」


 冷たい印象を与える笑みを浮かべ、冷たい声音で問いかける黒崎先生……。その姿は集君とどことなく雰囲気が似ている。姉弟なのだから当然ではあるけど。それでも私は決めたんだ。


 集君が3週間の停学を受けてる間ずっと私は一人で過ごしてた。それで思ったの。一人の間はどんなに苦しくて泣き出しそうな事があっても誰にも話す事が出来ない。

 凄く悲しくて辛くて心が張り裂けそうなくらい痛かった……。こんな思いを集君はずっとしてきたんだと思うと不憫に思えてまたそれが私の胸を締め付ける。だから――。


「私、決めたんです。一人で何もかも背負おうとする集君の近くに寄添おうって……。だから彼の……集君の過去を知りたいっ、教えて下さいっ!!」 


 私が言い終えると同時に黒崎先生が大きく目を見開く。そしてその後微笑を浮かべる。


「ウフフッ、集君はいい友達を持ったわね」

 

 そしてその微笑を崩し険しいものへと変える。


「実はね……。この子が7歳の時両親が離婚してね」


 私は息を呑む……。二人にまさかそんな事情が有っただなんて。隣にいる皐月の顔を見る。彼女も酷く動揺しているみたい。


「私は父の元に、そして母の元に集ちゃんが行った……。そして集ちゃんが12になる8年間一度も会うことはなかった」


 そう言っている黒崎先生の声は暗くて今言っていることは作り話でもなんでもない……リアルだって事が伝わってくる。皆と同じバスに乗ってる筈なのに私達だけ別空間にいるみたい……。それぐらい黒崎先生の話は重くて辛い話だって思う。


「なら先生……。どうして集と再会する事になったんだよ」


 皐月が、重苦しい声で尋ねる。


「集ちゃんが12になった年の6月にね、警察から電話が来たの」 


「「警察っ!?」」


 私と皐月は驚きの声を上げる。……警察ってどういう事。


「母が交通事故を起こして亡くなったのよ」


 私は眠っている集君に目を向ける……。そんな過去が有っただなんて。


「連絡が来てからは大変だったわ。母の遺体を火葬する為の葬式場の手配、母のせいで怪我をした人達の慰謝料請求の対応、そしてなにより……。父はもう再婚をしていた」


「それって……」


 集君にとってもの凄く居辛い場所なんじゃ……。


「もう再婚した父と新しい母の間には当時1歳の子供がいてね。その時には私は一人暮らしをしてたけど、当時12歳だった集ちゃんは父たちの家にいる事になる」


 それはとても辛かったと思う。実のお母さんを亡くして大変なのにいきなり新しいお母さんが出来たなら私だったら戸惑う。でもそれは想像だけでもっとキツイ思いを集君は過ごしたんじゃないのかな?


「今の母はね、当時家に来た集ちゃんの事をあまり良く思ってないみたい……。私の時も父の前では態度に出さなかったけど、父がいなくなるといつも私の事を悪く言ってた……。『なんで血の繋がってないアンタなんかの面倒を見なきゃいけないの』って」


 私はその言葉に激しい憤りを覚える。体中が熱くなるのを感じる。集君も黒崎先生が言われたような事をずっと言われてきたのかなと思うと泣きたくなってくる。


「今は父と母は海外に出張してて、4歳の妹はそれに付いて行ってる」


 その言葉に私は安堵する。皐月も私と同じようにほっと息を吐く。なら集君は一人暮らしをしてるって事……。その事に対して嬉しいと感じてるのかな。それとも……。


「これが、私達の話よ……。でもね私はこの子が3年前来たときに私の中で誓ってることがあるの」

 

 私と皐月は一度お互いの顔を見合った後、黒崎先生に視線を戻して凝視する。黒崎先生は寝ている集君の前髪を軽く撫でる。


「この子を絶対に二度と一人になんかさせないって」


 そう言っている黒崎先生の顔は凄く優しくて、でも優しいだけじゃない。確固たる覚悟を思わせる強かな意志を感じた。


 私は集君を見る……。黒崎先生に比べたら集君への思いは弱いかもしれない。でも私も――。


 ()()()()()()()()()()()()()


 黒崎先生の隣で眠る集君の顔を見ながら黒崎先生と同じように私も心の中でそう誓った。

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