仲直りしよう
よーーし、戦じゃあーーっっ!!
時は放課後……僕は教室を見回す。
僕以外に誰もいない。
いつも僕の傍にいる山岸さんと万丈には
適当な理由をつけて帰ってもらった……正直心細
い。
天道に昼、ここに放課後残るよう言われたが
何のようだ? はっ、まさか今までの報復かっ!?
どうしよう……一人だけならまだしも、複数相手じ
ゃ流石に勝てない。
僕はズボンのポケットから財布を取り出し中を見
る。財布の中には百円玉が3枚入っていた。
おお〜〜っっ!!
こんな金額じゃ許してもらう事なんて出来ないぞ
っ……どうしたらいいんだ僕はーーっっ!!
そんな事を考えていると黒板側の出入り口がガラガ
ラと音を立てながら開け放たれる。
そこから出てきたのは、天道と本城だった。
お、おう。
このクラスでのスクールカーストの頂点に降臨す
る二人組がお出ましとはますます不安なんだが。
「やあ、黒崎」
笑顔で僕に挨拶の言葉を投げ掛ける天道。
「面倒だからさっさと終わらそうよ敦」
いかにも不機嫌な様子で言う本城。
「だめだろ亜希子……今日僕達は彼と仲直りしようと
決めたじゃないか?」
……は? こいつら何言ってんの?
「これまでの俺達は色々と蟠りがあった……。
だけど本当は俺達仲良くなれると思うんだ。
分かり合う事が出来る筈だっ」
僕は熱弁する天道の言葉に薄ら笑いを浮かべる。
「なんだよ?」
天道が僕を訝しむようにみる。
「天道。お前の言う事は全て綺麗事だ……」
……分かり合う? そんな事出来るはずがない。
変わらなきゃって思ったけど、やっぱり無理だ。
今目の前にいる天道そして本城……この二人の事は
信用できない。
あの時から一人になってずっと見ていた。
天道達みたいにグループをつくる奴らを……。
そして思ったんだ。この人達は孤独が怖いんだ。
だから他人を求める……。
孤独である事を無くす為または忘れるために。
「分かり合う? 出来るわけないだろ
そんな事が出来るなら」
僕が一人になる事なんてなかったっ!!
そう言いそうになったけど、ギリギリの所で押し留
める。
「アンタ、何様のつもり?」
が、本城はそこまで言った僕のことを責め立てる。
「最近山岸だけじゃなく万丈とまでつるんでるみたいじゃない?」
ニタニタといやらしい笑みを浮かべながら本城は言う。
「なんでアンタみたいなボッチに寄るのかしらね?
どう考えてもアタシ達と一緒にいた方が楽しい
の間違いないでしょ」
心無い言葉が僕に投げかけられる。
お前もか……。本城が僕に向けている表情を僕は知
っている。
人間は自分と価値観が似ている者を好む傾向にあ
る。だからすぐに打ち解けあい結果親友と呼べる
関係にまで発展する。
そして、集団を形成するのは皆と同じでありたい
と心の奥底で求めているからだ。
そして反対に自分と掛け離れた価値観を持つ人間
に対して敵という認識しか持てない人が多い。
なぜそうなるのか……。
それは怖いと感じているからだ。
ではなぜ怖いと思うのか……。
単純に言えば自分と違う考えを持つ人間を理解で
きないから……。
人は自分勝手な生き物だ。
この世に正義、悪と言う言葉がある。
だがそれは両者に言い分が有って立場が変われば
相手が悪そして自分が正義だと思い込む。
何が言いたいかというと
当然一人だけじゃやっていけない。
だから同じ志を持つ人が必要だ。
そうして自分と同じ価値観志を持つ人間を集める
ことによって集団は出来上がる。
では敵とはなんだろう。
それは僕にとっては今目の前にいるこの二人だ。
なぜ敵なのかって?
それは僕がこの二人を理解できないからだ。
集団が同じ価値観を持つ者で構成されているなら
敵は自分達とは異なる価値観を持つ者という事。
ボッチとして生活してきた僕にとって人気者であ
る天道、本城の二人は理解できない。
反対にこの二人も僕を理解できない事だろう。
「本城……言いたい事はそれだけか?」
僕は本城を睨みつける。
「あ? なにガン飛ばしてんのよっ」
彼女も僕を睨み返す。
「別に……だけど、
山岸さんや万丈は僕にとって大事な友達だ
だから……あの二人を悪く言う事は許さない」
僕は、一語一語ハッキリと伝える。
「………から」
「?」
本城が顔を俯かせて何か言ったが小声で全く聞こ
えなかった。僕が耳を傾けようとすると
「敦、行くわよ」
と言って教室から出ていく。
「えっ、ちょっと……ああもう黒崎っせっかくの機会
だったのに。待てよっ亜希子っ!?」
僕を怒り心頭な感じの目で睨みつけたあと本城を
追いかける為に教室から去っていく天道。
僕は窓へと目を向ける。
夕焼けの空がグラデーションのように
綺麗な感じで広がっていた。
美紗ねえ……。
僕に天道達と分かり合うなんて無理だよ。
僕はその鮮やかな夕焼け空を眺めながらそう思う
のだった。




