僕の全てを知るものだ
昼休みになって僕は職員室へ向かう。
職員室の扉をノックしてから開けると机で資料を必死に纏めている教師や暇を持て余していて雑談をしている教師がちらほらと見受けられた。
僕は職員室全体を見渡す……けれど、目当ての美紗ねえがの姿が全く見当たらない。
仕方がないので近くにいた教師に尋ねた。
「あぁ、黒崎先生なら保健室よ」
と、笑顔で若い女教師が答える。
僕はその人にお礼の言葉を述べてから保健室へ向かう……。でも、なんだって保健室なんだろう?
保健室の出入り口前に着いて扉を開けようと手を伸ばす……。すると
「アハハハ」
「懐かしいな」
一人は笑い声を立てる美紗ねえの声……もう一人は
僕は伸ばしかけた手を止める。
そんな事あり得るはずがない。でも今の声は……。
僕は保健室の扉を開ける。
そこには僕の姉である美紗ねえと
「……ゆう兄」
目の前に白衣を着た背が高くて顔の造形が整った青年がいた。
僕はこの人を知っている。
僕の姉である黒崎美紗の幼馴染である白崎優一。彼は肩先まで伸ばした自身の黒髪の毛先を軽く触りながら
「お、集……やっと来たな。全く保健室来ないから寂しかったぞ」
と、笑顔で言う優にい。
「まさか……代わりの教師って」
「あぁ、俺の事だよ」
ウィンクをしながら答える優にい。
優にいは年の割に軽いノリの人だ……。
一度一緒に買い物をしてる時女性に声をかけられそのまま僕を残して
お茶しに行くくらい、凄いモテる……逆ナンって本当にあったんだと
呆然と女性と去る優にいの背中を眺めていた事を今でも覚えてる。
でもそれは自分の気持ちを誤魔化している行動だという事を僕は知っ
ている。だって優にいは……
「じゃあ、美紗この場合はこうすれば良いのかな?」
優しげな笑みで美紗ねえに話しかける優にい。
――そう、優にいは僕の姉……美紗ねえの事が好きなんだ。
なんで好きなのか理由は聞いたことはない。
でも、美紗ねえの言動に一喜一憂し美紗ねえの事を
熱の籠もった瞳で見ているのをみれば誰がみてもバレバレだと思う。
僕としても美紗ねえが優にいとくっついてくれればいいなと思う。
優にいなら昔から知っているし美紗ねえを泣かすような事はしないっ
て僕は信じられるから……と、それはさておき。
「話途中で悪いけどさ」
僕は美紗ねえに話しかける。
「どうしたの?」
そう言いながら僕に抱きつこうとする手を受け止める。
「なんで修学旅行の事言わなかったんだよ?」
僕は恨みがましく言う……目線もセットでだ。
「なるほど〜、あのことか」
だが美紗ねえはそれに動じることもなく、楽しそうに言う。
「最近自分勝手に動くからな〜、集ちゃんはっ♪」
ニッコリと言う美紗ねえ。
「俺も聞いた。集……体は大丈夫なのか?」
心配そうな表情を浮かべながら優にいはいう。
僕はその問いに無言で頷く。
「と言う訳で、先生からの罰を与える事にしました」
仁王立ちで得意気に言う美紗ねえ。
「いや美紗ねえ、ちょっと待ってよっ」
僕はその申し出に異議を唱える。
「よりによって散々喧嘩した天道達と同じ班って流石に酷くない?」
「酷くない……。それに、そろそろ集団に慣れることも覚えなさい」
少し顔を顰めながら言う美紗ねえ……。あ、これガチなやつだ。
「もう諦めたほうがいい。
美紗が決めたことは大抵覆る事はないんだから」
流石優にい。
僕の次に美紗ねえの事良く理解してる。
……さっさと告白すればいいのに。
「あぁ、これも社会勉強だと思って頑張って」
満面の笑みで言う美紗ねえ……絶対楽しんでる。
僕はいやいや美紗ねえの言葉に頷く。
すると、僕の肩をポンと優にいが叩く。
「ドンマイっ」
凄くキラキラしている満面の笑みで僕の顔を見ながら言う優にい。
僕は内心ガッカリする。
僕に対しては普段通りなのになんで
美紗ねえの前だと口数いつもより少ないかな。
「所で集……体は大丈夫なのか?」
先程と同じ問いを投げかけてくる優にい。
「さっき言ったでしょ、だいじよ」
「そっちじゃない」
僕の言葉を遮って言う優にい。
あぁ、そっちか……。僕は理解して頷く。
「大丈夫……。あれからもう何年経ったと思ってるの?」
僕は憂鬱な気持ちを必死に笑顔で誤魔化しながら答える。
「もうあれから10年か……集が大きくなる訳だ」
頭にポンと手を置いて微笑む優にい。その笑みは美紗ねえに向けてい
る笑みと同じものだ。
「でも、背は全く伸びてないけどね〜」
「なっ、美紗ねえっ」
僕がムキになる姿を見て二人は笑う。
あぁなんか……すごい懐かしい。
暫くするとチャイムがなった。
「えっ……もうそんな時間っ!?」
僕は慌てて立ち上がる。
「このままじゃ遅刻だ……頑張れ、青少年」
軽い感じで言う優にい。
「遅刻なんてしたら許さないからね。
教師としても……姉としても」
ニヤニヤしながら言う美紗ねえ……やばい、これ以上変な事に付き合わされたくないっ!!
「し、失礼しましたっ」
僕はそう言って保健室を飛び出す。
走りながら美紗ねえと優にいのやり取りを振り返る。
まさか、優にいがこの学校に来てくれるなんて。
優にいには色々お世話になった。
僕にとって優にいは、兄のような存在であり
――僕の全てを知るものだから。
僕はそんな事を思いながら教室へ向けて全力で駆けていた。




