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僕のモノクロだった世界が君に出会ってから色付き始める  作者: 高橋裕司
第二章 銀狼と呼ばれた少女
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無事で良かった

『ぐすっ、うぅ、うわあぁああん』

 周りが暗い中で一人。5歳くらいの男の子が泣き崩れていた。僕はその光景を知っている……だってそれは、()()()()()()()()


 ――ここは夢の中……か?


 僕は周囲に目を配る。だけど、今目の前で泣いている少年以外誰も見つからない。それにどこを見渡してもどこもかしこも暗い。まるで……。


『僕の心のよう……だな』

 

 今まではそうだった。今目の前で泣いている5歳の頃から僕は人を信じなくなった。人に傷付けられる位なら最初から関わらなければいい。どれだけ陰口や直接罵倒されようと取り合わなければいい。


『本当に……そうなの?』

 僕は固まる……。目の前で泣いているかつての僕が話しかけてきたからだ。


『忘れちゃダメだよ……どんなに良い人だって理解できない事がある。だから僕は……』

 5歳の僕がそう言った瞬間……暗かった空間が景色を変える。僕は周りに目をくれる。


 そこは、僕が当時通っていた保育園だった。確か、総勢30人……だったか? その30人が余裕で入れる大広間……。

 隅にはピアノが置かれていて逆にそれ以外は何も置かれていない場所だった。お昼寝の時間になれば、奥の部屋から一人ずつ自分の布団を持ってきてこの大広間で敷いて寝る……そんな場所だった。


『なぁ、見ろよ』

 一人の少年が当時5歳の僕を指差して言う。僕はこの光景を知っている……僕が経験をしたことだから。


『しょ……だよ』

 所々聞こえなかったけど、僕は耳を塞いだ。

 

 ――やめてくれ、やめてくれ、やめてくれっ!!


 僕は目をキツく瞑って何度もそう繰り返す。なんで、今になってこんな思いしなきゃいけないんだよっ!?


『当然だろ?』

 声が聞こえて僕は声のした方へ目を向ける。そこには泣き崩れていた幼い僕が無表情で僕の顔を見つめていた。


『僕は……誰にも心を許しちゃ、ダメなんだよ。どうせ信じたって、いつかは離れていく』

 淡々と告げる幼い僕……。その顔は感情の一切を切り捨て冷たい印象を与えていた。


『それは君……()が一番理解してることだろ?』

 僕は今無表情でいる幼い僕を見つめる……そっか、当時の僕はこんな顔をしていたのか?


 僕はその言葉に首を横に振る。幼い頃の僕が気色ばんで僕の体を大きく揺さぶってくる。


『なんで? まさか、これまでの事を全部……忘れる気じゃないよねっ!?』


 幼い頃の僕の頬に一筋の涙が綺麗に流れた。僕は目を閉じ考える。

今までの僕は全てを嫌っていた……いや、一人でも平気なフリをしていたんだ。


 ()()()()()()()……


 だから僕はあの時名乗り出たんだ。誰かに僕の事を知ってほしくて……。そうやって考えると僕は中途半端な存在だなと思う。善良な人間になれず、かと言って完璧な悪党にもなれない……でも


 ――……私と友達になってくれませんか?


 中山から助けた時の山岸さんのあの言葉が蘇る。まさか僕に本気で関わろうとしてくる人間が現れるとは思わなかった。

 そして、僕自身も心の奥底から求めていた……掛け替えのない存在(しんゆう)を……僕は求めていたんだ。


 僕は目を開けて、かつての僕をまっすぐ見据える。


『忘れないよ』

 僕が一言だけそう告げると


『嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ!!』

 同じ言葉を連呼して僕を否定する。


『嘘じゃない……お前の、かつての僕は一人でもやって行ける……そう思っていた』


 そう、誰かに傷付けられる位なら一人でいいと。そう思っていた。


『だけど、違うんだ……』


『なにがだよっ!?』

 泣き叫びながら問いかける僕。


『皆……常に孤独なんだよっ!!』

 そう……クラスで人気者だった山岸さんは僕には話してくれないけど

 胸のうちに何かを抱えてる、僕が抱えてるように……。


『皆……抱えてるんだよ。僕一人だけじゃない』

 僕はハッキリと過去の僕に伝える。


 かつての僕は打ちひしがれたように俯いて肩を落とした。


『なら……もしお前の過去を知ってる奴がまた悪く言ってきたら……どうするんだよ?』

 弱々しく問いかけてきたかつての僕に優しく笑いかける。


『多分、絶望するだろうな……絶望して……また逃げ出すかもしれない』


『だったらッ!?』

 かつての僕が目を大きく見開いて否定しようとする。


『でもっ……でもね、今度は大丈夫……だってっ!!』

 

 ――僕には心から信じられる仲間(ともだち)がいるからっ!!


 その言葉を聞いたかつての僕が笑い出す。


『アハハハッ、馬鹿じゃないのっ!? 誰かが助けてくれるってのかよっ!?』


 僕はその言葉に頷く……すると暗闇の中に一筋のか細い光が差し込む。


『な、何っ』

 かつての僕が慌て出す。


 僕はその光を見て笑う。

 それが何なのか……なんとなく予想が付いていたから。


『僕は行くよ……あの光の先に』

 そう言って僕はゆっくりとでも力強く一歩一歩を踏み出す。


『後悔しても……知らないからなっ。このっバカヤローッ!!』

 背後から僕を罵倒する声が聞こえる。

 

 大丈夫……。すぐに変わる事なんて出来ない、だから今までの僕を完全に消すことは出来ないだろう――でも


『このままじゃダメなんだよ……変わらなきゃっ!!』


 僕は走り出す……目の前に見える光を求めて――


『……ん……うく……集君っ!!』


「っ!!」

 目の前に山岸さんの顔が映る。今すぐ泣きだしそうな顔をしていた。

 なんで……泣きそうな顔してるんだよ。


「だ、い、じょう、ぶ」

 僕はそう彼女に……山岸奏に伝えた。

 あれ? 喋るどころか、呼吸をするのも一苦労だ。


「集……君、……意識がっ」

 僕はなんとか首を縦に振る……体を動かすのが辛い。


 首を縦に振る僕を見届けた山岸さんの瞳からポタポタと雫が流れ落ちた。なんでだろう……以前にも思ったかもだけど、凄く綺麗に感じる。


 山岸さんが僕の体を優しく包み込むように抱き付いて


「貴方が……集君が無事でっ、良かった……」

 僕の耳元で優しい声音で呟くように言うのであった。

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