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僕のモノクロだった世界が君に出会ってから色付き始める  作者: 高橋裕司
第二章 銀狼と呼ばれた少女
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守らなきゃ

 二条第一高校の近くに二条海という場所がある。

 文字通り海に面した場所で夏になれば海水浴をしに多くの人がそこに訪れるという。


 身を焦がすように照り付ける太陽。夏バテしろと言う程に暑い気温の中で冷たい水温の海の中に入るのはとても気持ちが良いことだろう。

 例えるなら砂漠の中でのたった1つの水場……オアシスだ。ま、海に行く機会も一緒に行く相手もいないんだけどね。

 その海の面した場所にコンテナ置き場がある。渓から聞いた話ここに万丈の妹……司さんがいるという話なんだけど。


 「この中でどうやって探せと?」

 僕は周囲を見回す。見渡す限りコンテナ、コンテナ、コンテナ……。

 違う物があるとすればクレーン車があるくらいか? 

 一体どこに万丈の妹さんがいるっていうんだよ……。

 

「早くしねえと……大変な事になる前に」

 思い詰めた顔で万丈は言う。


「大変なことって何?」

 山岸さんが怪訝な顔を浮かべる。


「ゼロはよ……クスリを売ってんだ。

 だから司がシャブ漬けにされてねえか……心配だ」

 万丈は目を強く瞑る。その表情は苦悶に満ちていて、その場は静寂に包まれる。


 聞こえるのは微かなカモメの鳴く声が僕の耳に届いたけど虚しく感じられた。


 僕は再度周りを見渡す。辺りには複数のコンテナが置かれてるのみで人が隠れられそうな場所はない……なら考えられる事は一つ。


「コンテナを一つずつ当たっていこう」

 僕は一人一人の顔に目を向けながら言う。


「ちょっと待って集君っ」

 山岸さんが慌てた様子で僕の前まで来る。


「この膨大の数のコンテナを虱潰しに探すの?」

 山岸さんが言いたい事は分かる……けど


「それ以外に方法がない……。それに探す場所は限られてると思う」

 僕がそう言うと皆が怪訝な顔で僕を見る。


「コンテナは上にも積まれてる……でも人を入れるなら態々上に入れたりしないと思う。いちいち確認するのが面倒だから」

 僕がそう言うと皆が頷く。


「まぁ上に入れられてる可能性も完全には捨てられねえけど早いとこ探そうぜっ」

 言い終えたと同時に万丈が僕の肩を叩く。


「よしっ……時間が惜しい。皆いくよっ」


「うん!」 「おう!」 「ああ!」 「ええ!」 

 各々が返事を終えるとクモの子を散らすように思い思いの方向へ去っていく。


 それから1時間僕達は懸命に探し続けるが全然見つからない。


「クソッ……」

 いないのかと諦めかけたその時


「やめてエエえぇぇぇっっっ!!!」

 という悲鳴が聞こえた。


 僕の元に皆が集まる。


「今の悲鳴……司だっ」

 

「おい待て万丈っ!!」

 僕の静止の声を無視して万丈が駆け出す。


 僕達は凄まじい勢いで走る万丈を追いかける。

 そして、コンテナ置き場の一番奥のコンテナが開いていた。


 万丈が立ち止まる……良かった。どうやら完璧に理性は失ってないみたいだ。


 僕達は万丈の元へ近付く。

 だが僕達は立ち止まる。開いていたコンテナの惨状を目にして。


 そこに映った光景は……おそらく司さんと思われる少女がロープで吊るされている。服はところどころ破かれ下着も上が剥ぎ取られてまだ成長途中の乳房が露出されていた。


「ひどい……」

 山岸さんの悲痛な声が僕の耳に届く。


 僕は近くにいた男を見る。

 後ろ姿で顔は全く見えない……だが男の手に目を向けるとそこには


「注射器……」

 男は注射器を手にしていた。たが、すぐにその注射器を床に叩きつける……どうやら薬液を投与し終えたみたいだ。


「うおおおぉぉぉおおっっっ!!!」

 万丈がいきなり大声を上げ、少女のいるコンテナへ突進する。



「クソッ」

 僕は万丈の後を追う。今の光景……司さんはもう。


 男がこちらに振り向き僕らを見て驚きの顔を浮かべる。


「おいっお前ら」

 男がそう言うと、コンテナ内の左右からぞろぞろと人が出てくる。

 あんなにいるのかよ……。


 ざっと見て12人、あまりの多さに気持ちが尻込みしそうになる。

 でももう止まれない……このまま突っ込むっ!!


「オラッ」

 万丈がこちらへ向かってくる先頭の男の顔に拳を叩きつける。

 

「ぐはっ」

 殴られた男は後方へフッ飛ばされる。

 だが、すぐに次の相手が万丈に向かって走ってくる。


「チッ……テメェ等、邪魔だあぁああっっ!!」

 万丈は雄叫びと共に前進する。向かってくる男達の腹や顔に拳や膝を叩き込む。


 それでも、万丈を無視してこちらに二人向かってくる。

 僕は一瞬戸惑うが覚悟を決める。


「っ……うああァァアアッッッ!!」

 僕は、叫ぶと同時に拳をこちらへ向かってくる男の顔目がけ突き出す。拳を放ってくると思っていなかったのか僕の放った左ストレートは見事に相手の顔に打ち込まれた。


 手を通して相手の骨が軋むのを感じた。

 嫌だな……この感覚。でも、迷っていられないんだっ!!


「……フッ!!」

 二人目の男がジャンプして両足を前へと突き出す。

 ハイキックという技だろうか……が、僕の腹に入る。


「っ……カハッ」

 腹に凄まじい痛みが走り僕はその場に膝をつく。

 男は僕の様子を見てさらに攻撃を加えようと近付いてきた瞬間


「お前の相手はアタイだよ」

 その声と同時に目にも止まらぬ速さで男の顔に拳を打ち込む雨宮さん。


「集君っ大丈夫!?」

 山岸さんが駆け寄り僕の肩に手を掛ける。


「僕は……っ、なんとか」

 正直痛かった……。今まで人に暴力を振るったこともなければ

 人に暴力を振るわれたこともない。


 心の奥底にいる僕が言う。

 もういい。痛いのは嫌だ……逃げ出したい。


 僕は心の中で、訴えてくる考えを無視して立ち上がる。

 逃げ出したい……その気持ちに嘘偽りはない。でも――


 僕は前方で向かってくる男共を一人一人なぎ倒している万丈を見る。


 友達を放っとくなんて……出来るわけないだろっ。


 僕は万丈の元へ真っ直ぐに駆け寄ると拳を振り上げ万丈の近くにいた男の顔を思いっきり殴る。


「うぁッ」

 男が後方へ吹っ飛び倒れる。僕は殴った拳が痛いのを我慢して身構える。拳って殴ると痛いんだと驚いた。


 

「集、コイツ等とっとと倒すぞ」

 殺気に満ちた声が僕の鼓膜を震わす。

 万丈が怒っていることが隣にいてよく分かった。


「ウオリャッ」

 掛け声と同時に飛び膝蹴りを近くにいた男に当て、着地と同時に次の男の股間を蹴り上げる……うわっえげつない。ってそんな事、考えてる場合じゃないっ!!


 僕も万丈の後に続いて向かってくる男の腹に拳を叩きつける……というか、喧嘩に関してはド素人だからこれしか出来ない。


 攻撃が当たる度に僕の拳が軋み悲鳴をあげる……え、何これ? 骨でも折れるのっ!?


 内心焦りながらも拳を振り続ける……痛いのを我慢して。


「これで……ラストっ!!」

 万丈が高く跳躍したかと思うと相手の後頭部に蹴りを放つ。

 相手はそれを食らって地面へと倒れ込み、意識を失う。


 僕も顔に何発か食らいながらも向かってくる敵を倒し終えた。

 口の中を切ったみたいで、血の味がした……気持ち悪い。

 僕は後方を見る……。山岸さん達も無事のようだ。


「テメェ……海斗オオォォッッ!!」

 万丈が叫ぶ……海斗、アイツが――。


 男は一見どこにでもいる今で言う優男という部類のモテそうな男だった。だが、彼の目はどこか空虚な感じで危ない雰囲気を感じさせた。


「アハハハッ……皐月ィ待ってたロォ」

 男……海斗が笑顔で万丈に告げる……だが、ところどころ呂律が回っていないのか言葉を間違えている。


「コイツ……シャブを決めてやがんのか」

 万丈は驚愕の表情で海斗を見つめる。


 海斗は表情を笑顔のまま一向に崩さない。

 が、一定の間隔で身体が小刻みに揺れる。


「アハハ……今僕ゥ、凄い気持ちが良いヨォ」

 楽しそうに両手を広げて告げる海斗……その笑顔が妖しく光って見えた。


「司ちゃんにモォ、ボクとォ同じょうにィしといた・か・ら」

 らの部分で海斗がウィンクをしてきた……やばい、コイツ完璧に狂ってやがるっ!!


「姉御っここはっ!!」


「アタシ達に任せてっ!!」


 僕達を、庇うようにして前に出る赤城さんと雨宮さん。


「お前ら……分かったっ任せたぞ!!」

 万丈はそう言って奥にいる司さんの元へ駆け出す。


 海斗がそれを見て追おうとするが


「お前の相手はアタシ達だよっ」


 そう言って、雨宮さんがハイキックを放つ。


「グッ……あは、アハハハッ」

 吹っ飛ばされた海斗。たがすぐに壊れたように笑いながら立ち上がる。


「紗季のハイキック受けて立ち上がるなんて、アイツ化物ね」

 赤城さんが呆れたように言う。


「チッ……なら取っておきを出してやるっ」

 そう言って雨宮さんが懐から取り出した物は……ヨーヨーだった。


「ちょっそれ、前にネタで使ってたヨーヨー!!」

 忘れもしない……。昭和の一斉を風靡した名作ドラマのコスプレに使ってた物だ!!


「ネタじゃねえっ武器だっ!!」

 雨宮さんは激しく首を振りながら否定する。


「いいから、早くお前も行けっ!!」


「ええ、ここはアタシと紗季に任せて二人は早くっ」

 僕は隣にいる山岸さんと顔を見合わせるとどちらからともなく頷きあう。


「分かった」


「二人共……気を付けてねっ!!」

 僕と山岸さんは万丈の元へと駆け出した。



 万丈の元に辿り着くと万丈はその場に立ち尽くしていた。

 

 司さんに目を向けると服が破かれただけでなく何回も殴られたのか所々青痣が出来ていた。


「警察……110番っ!! いや、まずは119番を」


 山岸さんが携帯を取り出し電話を掛ける……どうやら119番に掛けたらしい。電話の相手にこのコンテナ置き場の場所を伝えている。 

 ふぅ、これでひとまずは安心……そう思った瞬間


「ぐぁっ」


「ウッ」


 赤城さんと雨宮さんがこちらへ吹っ飛ばされてきた。

 

「姉御……悪ィ、アタイの桜大門……通じなかった」

 いや、なに真面目に言ってんの? ヨーヨーなんだから通じるわけないよね……あれ? 僕が間違ってんのっ!?


「アハハハッ、お前らァ僕ニィ、勝てるゥ訳ぇないっ、じゃん」

 海斗が唾を撒き散らしながら独特な言い回しで言葉を放つ。


「もう完璧にぶっ壊れてやがんな……」

 万丈はそう言ったと同時に海斗に駆け寄り彼の懐に飛び込むと鳩尾に強烈なブロウをお見舞いする。


「うヒャっ」

 奇声を上げて海斗が地面に前から倒れ込んだ。そして震えていた身体がピタリと止まる……終わった、のか?


「終わった……の?」

 山岸さんが僕の近くに歩み寄りながら問いかけてくる。

 その目は恐怖の色に染まっていた。


「いえ……まだよっ」

 赤城さんが叫ぶのと同時に海斗が起き上がった……そして


「ウオオォォオオッッッ!!!」

 強烈な右アッパーを万丈の顎に叩き込む。


「ンがッ」

 万丈はそれをまともに食らい倒れるがすぐに立ち上がる。


「ヤロウッ」

 万丈は顎を手でさすっている。


「お前らァ、全員ブッ殺してやるッッッ」


 そう言って海斗が取り出した物は……刃物だった。

 僕は息を呑む。コイツ……人殺しにでもなるつもりなのかっ!?


 目の前の光景が信じられない……夢のように感じる。

 でも、これは現実……夢じゃない。


「どうせならァ皐月ィお前の嫌がルゥコトヲしてやるヨぉ」

 そう言って海斗は真っ直ぐこちらへ向かってくる。


「まさか、おいっヤメロォオオッッッ!!」

 僕も海斗の考えが分かった。彼は、司さんに危害を加えようとしている。だが分かった所で僕は体を動かせない……怖いからだっ。


 やばい、ヤバいってっ!? 早く逃げろよっ!? このままだと巻き込まれちまうぞっ!!?


 心の中で恐怖心に満たされた僕が声を上げる。

 そうだ、そうだよっ……早く逃げなきゃ……痛いのはや――


 一瞬、時が止まるような感覚がした。

 僕の目の前で彼女……山岸奏が手を広げた状態で、僕の前に出る。


 ――なんで? 山岸さん……怖くないのかよ?


 僕は信じられないと言った気持ちで山岸さんを見る。

 怖くないのかっ……死ぬかもしれないってのにっ!!


 だが僕は気付く。彼女……山岸奏の身体が震えていることに。

 恐くないはずないんだ……なら、なんで?


 

『当たり前でしょっ……私にとって一番の……大切な――親友なんだからっ』

 

 彼女のあの時言った言葉が蘇る。

 そうか……友達、親友を守るために山岸さんは――


 僕は気付いたら山岸さんの体を押し退けて前に出ていた。


 おいっ態々別の奴が刺されようとしてたのに……前に出てどうすんだよっ!?


 心の中でもう一人の恐怖心に駆られた僕が叫ぶ……うるさい。


 ここまで沢山のことがあって色んな経験をした。

 そしてその全ての中心が山岸さんだった。


 彼女が僕を受け入れてくれて居場所を作ってくれた。

 僕にとって……大事な友達だ。だから


――()()()()()()()()()()()()()()()()!()!()


 僕は海斗が持つ刃物を見る。その刃物は真っ直ぐ僕の元へとやって来て……


――グサッ


「えっ……は?」

 腹部に熱が宿ったと思ったらとんでもない痛みが腹部に走る。


「うっ……うぁああっ」

 僕は地面に倒れ込んだ。そしてなんとか腹部に手を当てると熱いものを感じた。ゆっくり顔の前に持ってくると赤褐色で覆われた手が現れる。それで僕は理解する……。


 ああ、そうか。僕……刺されたのか。

 そう理解すると同時に周りの景色がボヤケてくる。

 

 ――あぁコレ……ヤバいかも


「集君っ!?」

 遠くで……いや実際は近くで山岸さんが僕の顔を見てなにか言っている。辛うじて聞こえたのは『死なないでっ!?』という言葉だった。


 僕は霞む視界の中で山岸さんの顔を見る。良かった……どこも怪我してないみたいで。


 何かを必死に涙を流しながら叫ぶような感じで口を動かしてる山岸さん。


――ごめん……何言ってるのかも、分か、らない、や。


 僕の視界が黒く染まっていき僕は……意識を失った。

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