オレに構うな
万丈愛に赤城さんと雨宮さんが交渉した結果今日はここで泊まることを許された。
一人一人に部屋が割り当てられる。
時刻は21時に差し掛かろうとしているところだった。少し早いけど、僕達は眠りにつくことにした。
「皆……おやすみなさい」
「おやすみ」
「おやすみっす」
「ええ、おやすみなさい」
それぞれか挨拶を終えると、部屋へと入っていく。
僕は部屋へ入るとそばに置かれていた、ベッドへと横になる……フカフカで気持ちいい。
そのまま仰向けになって天井を眺める。
シミ1つない真っ白な天井だった……。
これからどうなるんだろう? 万丈が目を覚ましたら僕達はまたゼロという暴走族に挑む事になる。
体が恐怖で固くなっていくのを感じる。
今日だって死ぬかと思った……運良く、怪我をすることはなかったけど。次はこうとは限らない。
これをずっと万丈達は味わってきたんだなと思うと少し怖く感じる。攻撃してきたアイツ等は皆楽しそうな顔をしていた。
万丈達もあんな表情をするのかと考えただけでゾッとする。僕は頭を振る……。こんな事考えちゃ駄目だ。寝よう……。僕は目をとじ、暫くしてから睡魔が僕を襲い抗わずに意識を手放した。
◇◇◇◇◇
「……ん」
目が覚めた。今何時だろうかと傍に置いてあった時計を見る。
12時……僕は窓から覗く景色に目を向ける。真っ暗だ……。
どうやら僕はあれから3時間しか眠ってないみたいだ。
「気持ちが昂ぶってるのかな?」
実際僕の胸中は寝る寸前まで感じていた恐怖や緊張が渦巻いていた。こんな事で僕は戦えるのかと不安に思った瞬間……。
ガタガタっと廊下から大きな物音がした。僕は、ベッドから立ち上がりドアを開けて物音がした方へ顔を向けると……。
「な、何やってんだよっ万丈っ!!」
そこには、地面で倒れ伏している万丈がいた。僕は万丈のもとに駆け寄り肩をかそうとする。
「いらねえよっ」
だけど僕の行為を彼女は拒絶する……。どうして? いつもの万丈なら受け入れてくれそうなものなのに。
「どうしたんだよ? いつものお前らしくない」
僕は困惑する……。今の万丈はまるっきり別人だ。
「……妹を、司を助けなきゃなんねえんだよ」
そう言って、万丈は立ち上がろうとする……が、すぐに力尽きて地面に倒れ込む。
僕は見てられず万丈の肩に手を回す。
「おいっ……何、やってんだよ」
万丈が息も絶え絶えにそう言ってくる。
僕は彼女の言葉を無視して自分の部屋へと連れて行く。
部屋に着くと僕は彼女をベッドに座らせる。
彼女は怒りを顕にした表情で僕を睨みつける。
だけど、僕は怖いとは感じなかった。
寧ろ……羨ましいと思った。
今万丈は、大切な人の為に傷付くことも厭わない覚悟でいる。
僕にはその覚悟がない……。僕はいつだってそうだ。
何も出来ないのを言い訳して逃げて、ちゃんと向き合おうともしない。その結果がクラスでの立ち位置だろう。
まだ僕の中で人に関わりたくないと思っている自分がいる。
人と関わらなければ傷付かない……それならその方が楽だろう……と
心の中にいるもう一人の自分が囁く。
確かにその通りだ。関わらなければ傷付かないし面倒事に巻き込まれることもない……でも。
『集君』
笑顔で僕の名前を呼ぶ山岸さんの顔が浮かぶ。
そう、誰かと関わらないのは楽だけど……人と関わるって事は少なからず影響を受けるって事。
だからそれを拒むって事は自分を変える機会をみすみす棒に振る事だと僕は思う。
『これからも、よろしくな……集』
こんな僕に手を伸ばしてくれた万丈さんの姿が頭に浮かぶ。
万丈さんは、損得を抜きにして僕を友達だ
と言ってくれた――だからこそ
「万丈、僕に……いや、僕達にお前を助けさせてくれないか?」
万丈は僕の言葉に目を見開いた……が、数秒後顔を怒りの物へと変える。
「なに言ってんだ……涼や紗季ならまだ分かるけどな
集……テメエと奏には関係ねえことだろっ」
万丈の怒鳴り声が部屋中に響き渡る。
僕は万丈の顔を眺める。凄い思い詰めた表情……見てるこっちまで辛くなってくる。
きっと万丈はあの施設に入ってから一人で頑張ってきたんだ……。
それは孤独で辛いなんて一言で済ませられるような物じゃない。
そういう意味では僕は万丈の事を本当の意味で理解する事は不可能だ。いや、当然か。
……完璧に他者の気持ちを理解するなんて出来っこない――それでも
万丈の事を理解したいと思った。
「もう……オレに構うな」
彼女は僕にハッキリと拒絶の言葉を口にする……。
だけど僕は彼女の言葉に素直に従う事が出来そうにない。
だって……彼女は今にも
泣き出しそう表情を浮かべていたから……だから僕は
「ごめん、それは出来そうにない」
と僕は、彼女の申し出をきっぱりと断わる。
彼女が息を呑む。
彼女の特徴的な銀髪は暗闇の中だというのに輝いて見えた。
僕は目を閉じて一ヶ月前の出来事に思いを馳せた後目を開けて万丈を見る。
「確かにお前の言う通りだ。僕と山岸さんは万丈の過去を良く知らない……ましてや僕らは一ヶ月くらい前に知り合って間もない」
「だったらっ!!」
万丈が声を張り上げる……その声は悲しく響く。
これ以上オレを掻き乱すなとそう言っているように聞こえた。
「でも僕達は万丈っ……お前の友達だっ!! だから関係ないなんて……言わせないっ!!」
僕は万丈の目を見て伝える……お前は一人なんかじゃないよって。
一体……どれだけの時間が経ったんだろう。僕が言ったあと、彼女は黙り込む。
そして、今もなお黙ったまま時が流れる。それは、5秒という一瞬のように感じられたし30分という長いものにも感じられた。
「本当……お前は、ずるいよ」
やっと喋った万丈の頬に一筋の涙が伝う。
彼女が泣くのを初めて見た僕は戸惑うというより素直に感動した。
不謹慎かもしれないけど、凄くきれいに見えたから――。
「そんな事言われたら、我慢できねえじゃん」
僕はその言葉に
「ん?」
と返す……はて、万丈は何を言おうとしてるんだ?
はてなマークを浮かべる僕を見て苦笑する万丈。
「ふぅ……奏も苦労する訳だな。
よし、明日絶対に海斗に勝って司を取り戻すぞっ集っ!!」
「う、うん」
突然の万丈のテンションの変わりに戸惑う僕……。
「そうと決まれば寝るか」
万丈が両手を上に伸ばしながら言う。
「なら、部屋まで送るよ」
万丈の体で元の部屋まで戻るのは酷だろうから一緒についていこう。
「ん? ここで寝るからいい」
「あ、そっかぁそれなら……」
僕はそう言ってフリーズする。ま、待て……今、なんて言った?
「えっと、万丈。お前がここで寝るってこと?」
「あぁ」
「つまりこういう事か……お前がこの部屋で寝る代わりにお前の部屋で僕が寝ろと」
「はぁ? 一緒に寝るんだよ」
僕はその言葉を聞いたあと
「えっ……エエえぇぇぇっっっ!!」
この後、万丈と散々議論をした後別々の部屋に寝る事になるのであった。




