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僕のモノクロだった世界が君に出会ってから色付き始める  作者: 高橋裕司
第二章 銀狼と呼ばれた少女
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向き合ってあげてください

 僕達は万丈を連れて万丈児童養護施設に来ていた。建物を見た万丈はジタバタと暴れだす。


「おい……っ、冗談はやめろ」

 苦痛に顔を歪めながら万丈は拒絶する……この場所に入りたくないと。それでも僕達は万丈の抗議を無視して入り口を開ける……すると


「……!!」

 ボロボロになった万丈を前にして絶句する万丈愛が立っていた。


「部屋貸してもらうぜ」

 雨宮さんが、万丈愛にそう言うと勝手に中へ進んでいく。


「昔、来たことがあるの」

 赤城さんが僕達に答える。そうか……この建物を出ていても部屋はそのままって事か。


「あの子は……どうしたの? それに司は?」

 しどろもどろに問いかける万丈愛。


「一人で突っ走った結果アイツは10人に囲まれてリンチを受けた」

 僕は淡々と事実を述べる。


「そう……」

 万丈愛は戸惑った表情を浮かべる。

 

 大人でもどうする事もできない事がある。それは今回のような喧嘩でもあるし本人にしか分からない苦悩というものがある。でも……だからこそ


「万丈愛さん」

 僕は彼女の名前を呼ぶ。彼女が僕の顔をじっと見る。


「貴方は一回でも、万丈と……万丈皐月と向き合った事がありますか?」

 万丈皐月が大きく目を見開く。


「アイツは……見た目はあんなですけど。人を……友達を思いやれる良い奴なんです」

 最初は僕も噂だけで判断していた。怖い人間だとそう思い込んでいた。


「僕……アイツと一緒にいて楽しかったんです」

 僕が休学になった時偶然あったあの日……。万丈の仲間である赤城さん、雨宮さんと触れ合って万丈の人となりがよく分かったし、あの日は素直に楽しいと思えた。僕は万丈愛に頭を下げる。


「集君っ!!」

 山岸さんの慌てた声が聞こえ、目の前にいる万丈愛そして後方にいる赤城さんが息を呑むのが息遣いから伝わる。


「万丈……アイツの事、ちゃんと見てやって欲しいんですっ!! アイツとっ……しっかり向き合ってあげてくださいっ!!」

 僕は頭を下げたまま力の限り声を張り上げる。

 

「…………」

 万丈愛は何も答えない……。暫くしてから彼女は無言のまま奥の通路へと去っていくのが足音で分かった。届かなかったのか……? 僕が残念がっていると


「……大丈夫だよ」

 山岸さんがそういうと赤城さんが頷く。


「そうね……たいぶ堪えてたみたい。あんな表情初めて見た信じられないような物をみたって顔をしてたわ」

 赤城さんが補足する。それと同時に雨宮さんが戻ってくる。


「一応、寝かせて来たっす。今20時位っすけどど、どうします?」

 赤城さんに伺いをたてる雨宮さん。


「そうね……今日はここで寝泊まりしましょう。紗季、あの女に話をつけに行くわよ……二人はここで待ってて」

 そう言うと、雨宮さんを連れて万丈愛が消えた奥の通路へと進んでいく。


「やっと一息つけたって感じだね」

 山岸さんが笑顔で言う。


「大丈夫? 怖くなかったの?」

 僕は先程の喧嘩での事を思い出す。万丈達は常にあの空気を味わって慣れている。だが、山岸さんは普通の女の子だ……。今まで人を傷付けた事がない人間があんな事をして平気な訳がない。


「なんかね……変な気分なんだ」

 山岸さんは、寂しそうな顔を浮かべる。


「人に暴力を振るうのってこんな簡単なんだって心の中でそう思った。……でもそれと同時に罪悪感が込み上げてきた」

 僕は彼女の言葉に息を呑む。まさか、僕と同じことを思っていたなんて……。山岸さんが自身の体を両手で抱きしめる。


「きっと……その罪悪感に慣れたら、皐月達と同じになっちゃうんだね」

 山岸さんの体が小刻みに震える……怖いんだ、そうなってしまうんじゃないかって不安なんだ。

 

「……っ」

 僕は彼女の頭に手を乗せて撫でる。彼女が息を呑むのが伝わる。


「大丈夫だよ……僕がそばに、いるから」

 力強くハッキリと山岸さんに主張する。 怖いけど、僕は一人じゃない……僕と同じ感覚を持つ山岸さんがいる。


 それにもし……もしこの痛みに慣れてそちら側に回っても自分を曲げなければいい話だ。

 

「集君は優しいね」

 山岸さんの声が悲しそうに響く。僕は彼女の頭を撫でながら、出来るだけ早くこの問題を片付けようと誓うのだった。


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