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僕のモノクロだった世界が君に出会ってから色付き始める  作者: 高橋裕司
第二章 銀狼と呼ばれた少女
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助けに来たんだよっ

「……ここか」


 万丈児童養護施設から走る事10分……。目的の廃工場に辿り着く。

夕暮れ時で辺りは微かに暗いがそれでも外観は見て取れるレベルだった。


 建物を眺める。かなり黒ずんだ外壁……。所々割れた窓ガラス。元は白くて立派な入り口の鉄格子の門だったんだろう……。今は酷く寂れて門としての役割りを果たしていない……。人が到底寄り付かない。全体的に寂しい……そんな印象の場所だった。


「皐月はもう来てるのか……」

 僕は周りを見渡す……外には居ないみたいだ。


「皆……と言うより、黒崎と山岸」

 赤城さんに呼ばれて、僕と山岸さんが呼ばれた方に顔を向ける。赤城さんは普段の柔らかい表情と違って緊迫した表情を浮かべていた。


「ここからは危険地帯だ。怪我……ひょっとしたら命に関わることがあるかも知れない」

 その言葉に隣にいた雨宮さんが頷く。そうだ。ここからは殴り合い……命のやり取りなんだ。それに相手は一人じゃない。ゼロという暴走族がいる。


 相手は何人なのか? そもそもなんで海斗と渓はそんな連中と繋がっているのか……。分からない事ばかりだ。


 ――カンッ


 中の方で鉄の音が響く……万丈が戦ってる。


「……行こう」 

 僕は、工場内に向けて駆け出す。


「集君っ」 「黒崎っ」 「チッ」

 僕に遅れて後ろから3人が追いかけてくる。


 僕は怖い気持ちを必死に抑えようとして気が逆に高ぶっていた……。

僕は視界に入った、壁に立て掛けられている鉄パイプを走りながら手に取る。 


 本当僕は、どうしたんだろう……? 少し前の僕ならこんな面倒なことなんてしない……。ましてや、喧嘩なんてもってのほか。


『オレ達はダチだ』


 頭の中でそんな事を言っている万丈の顔が浮かぶ。

 少し前の僕は他人と関わる事を凄く嫌がっていた。でも―― 


『……おはよっ』


『ごめ、んなさいっ……ごめんなさいっ』


『……私と友達になってくれませんか?』

 こんな風になったのは、彼女のおかげだと思う。山岸奏と関わって色んなことを経験した。辛い事、悲しい事、そして……嬉しかった事。


 たった一人の人間と関わって、様々な感情を味わう事になるとは思わなかった。でも、悪くないと思う。僕は僕として前に進めたし、山岸さんも変わった。お互いが成長し合える……それこそが僕の追い求めたものだ――。


「グッ、グァッ」

 くぐもった声が工場内に響く。僕は声のする方に走っていた足を止めゆっくり近付いていく。後ろから山岸さん達も付いてくる。出入り口まで来て、低い姿勢で中の様子をうかがう……すると


「……酷い」

 目の前に広がる光景を見て僕はそう口にする。万丈……女の子一人相手に10人がかりで喧嘩が行われていた。

 一人が、万丈を羽交い締めにして一人一人万丈を変わる代わる殴っていた。……これじゃあ、リンチじゃないかっ!?


 肩越しに山岸さん達もその光景を眺める。赤城さんと雨宮さんは鬼のような形相でその光景を睨むように見ていた。一方、山岸さんは小声で

「……なんてこと」

 と呟いて口を手で押さえていた。


「いい? アタシが3つ数を数える……3といったら、全員中に突っ込むよ」

 赤城さんが僕達に目を配りながら小声で言う。僕達はその声に無言で頷いて答える。


「1」

 赤城さんが数え始める。鉄パイプを握っている左手に力が入る。


「2」

果たして、この4人で10人相手に勝てるのか……いや


「3っ!!」

 勝てるのかじゃないっ、勝つんだっ!!


 僕達は一斉に飛び出す。突然の事に固まる男達……

 その中で殴られすぎて顔がタコのように腫れ上がっていた万丈が僕達を見て唖然としていた。


「お前ら……どうして」

 喋るのもやっとな中で万丈はそう問いかける。


「決まってるでしょっ」

 赤城さんが声を上げながら、10人の内の一人の男の腹を蹴る。


「そうですよっ姉御っ!!」

 雨宮さんもそう声を上げると同時に二人の男の顔面を殴り飛ばす。


「助けに来たんだよっ」

 山岸さんも必死に鉄パイプで応戦しながら声を張り上げる。


「なんで……?」

 万丈が困惑した表情を浮かべる。目の前の光景にまだ納得できていないみたいだ。


「理由なんて関係ないっ……フッ!! 友達だから……だから、助けに来たんだっ!!」

 僕はそう言って鉄パイプを振り回す。二人相手してる内の一人の脇腹にヒットする。手に伝わる振動……骨の軋む音……凄く不快な気分になる。


 今僕は、人に暴力を振るっている。その事実をどこか自分の中で達観している自分がいる。初めて暴力を振るってもっと戸惑うかと思っていたのに。そんな事はなかった。こんな呆気ないものかと思っていた。


 でもそれと同時に凄い罪悪感に襲われる……多分、この感覚に慣れてしまったのが万丈達なのだろう。


「くそっ……分が悪い。撤収だっ!!」

 背の高い優男の印象を抱かせる男が声を上げると一目散に出入り口へ走り去る。残りの奴等も優男の後をついていく。


「待てっ、海斗っ……うぅっ」

 上体を起こそうと体を動かす万丈……たが、その拍子に痛みが体を駆け巡ったのだろう。呻くと同時にまた地面に倒れ伏す。


「……黒崎、一旦皐月を連れて引き返すわよ。」

 赤城さんがそう声を上げると万丈を起こして肩に手を回す。


「離せっ、司…司を取り戻さなきゃなんねえんだよっ!?」

 万丈が声を荒げる……その姿は見てるこっちまで悲しくなった。

 ボロボロの身体、来ている服も所々破けている。顔も殴られ続けたせいか酷く腫れていて、口を開けたときに前歯の何本かが欠けた、もしくは抜けていた……以前はあったはずなのにだ。


 僕は周りに目を向ける。地面のいたる所に血痕が残っていた。

 口から吐き出した血や皮膚から流れ出た血だ……そしてその大半は


「オレは……司を取り戻さなきゃっ……なんねぇのに」

 ここにいる万丈皐月の血なのだと思うと怖くなる。


「くそっ……離せ、離せーーっ!!」


 悲痛な叫びが工場内に木霊する中を僕達は万丈を連れて来た道を戻っていく――。

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