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僕のモノクロだった世界が君に出会ってから色付き始める  作者: 高橋裕司
第二章 銀狼と呼ばれた少女
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掛け替えのない存在なんだからっ

 赤城さんと雨宮さんが、こちらに歩み寄ってくる渓と呼ばれた人物に掴みかかる。


「ちょっと……」 

 僕は慌てて二人を止める。


「なんで止めんだっ!!」

 雨宮さんが僕を睨みつける……うん、万丈よりは怖くないな……どっちにしろ怖いけど。暴力とか振るわないでねっ!! 僕はそう祈りながら答える。


「止めるよ。貴重な情報を持ってるかもしれないんだから」

 赤城さんと雨宮さんは僕の言葉にはっとする。いやいや雨宮さんはともかく、まさか赤城さんまで頭に血が登りやすい性質タチの人だったとは……。類は友を呼ぶとは、まさにこういう事なのだと改めてそう思った。


 僕は渓に目を向ける。体の至る所から血が流れ肩や腕足に打撲痕が見られた。顔は、何発も食らったのだろう……。鼻が潰れているし、目元のあたりも青紫に腫れていた。これを全部……万丈がやったのか?

 

「おい、皐月は何処へ行ったの……知ってるんでしょ」


 赤城さんが地面に倒れ伏している渓に顔を近付け睨みつける。だが渓はそんな赤城さんに動じる様子を微塵も見せない……。渓は暫く黙って赤城さんの事を凝視したあと、目を瞑って口を開く。


「近くの、廃工場にアイツの妹がいる」

 ぼそりとそんな事を呟く。雨宮さんがそれを聞くと


「それは本当かっ!? 何処だ…、場所を教えろっ」

 と渓の胸倉を掴みながら聞く。渓は悲鳴を上げる……まだ傷が痛むのだろう。だけど、そんなことお構いなしに雨宮さんは渓を揺さぶる。


「アアァッ……ハァハァ、アッチだ。ここからそんなに離れてない」


 苦痛に顔を歪め息苦しそうに渓は、万丈児童養護施設の方を指差す。


「あっちか!?」

 そう言うと、渓を突き飛ばすように離して即座にそちらへ行こうと飛び出す……が、すんでの所で僕は彼女の腕を掴む。


「気持ちはわかるけど、少し……落ち着いてっ」

 ジタバタする雨宮さんの手を振払われないように懸命に握りしめる。女の子ってこんなに力強いのっ!? と少し驚きながら、赤城さんに目を向ける。


 どうやら彼女は雨宮と違って取り乱してはいないようだ……なら助けてくれないかなっ!?


「赤城さんっ、雨宮さんを抑えるの手伝って!!」

 僕がそう声を上げると彼女は今気づいたかのように慌てて駆け寄る。


「悪いわね……ほら、紗季っ」

 そう言うと同時に雨宮さんの、腹部に拳を叩きつける……ウワァ溝打ち入ったぞ、痛そう。


「大丈夫っ!?」

 雨宮さんの元に山岸さんが慌てて駆け寄り、彼女の肩に手を掛ける。雨宮さんは殴られた箇所を右手で押さえ、咳き込みながら地面に片膝をつく。


「コホコホっ……何するんですっ、涼さんっ!?」

 雨宮さんが赤城さんを睨みつける。その目には、殺気が籠もっていてすぐにでも殴りかかってきそうだ。


「少し落ち着きな」

 赤城さんは、そんな雨宮さんに構わず言い放つ。雨宮さんの目がまた一層険しくなる。赤城さんの言葉に何も言い返しはしないが凄く怒っていることだけは伺えた。


「一つ聞いていい?」

 赤城さんが戸惑ったような声を雨宮さんに向けて発する。

 雨宮さんが彼女を凝視するが何も喋らない。


「紗季にとって……皐月は何?」

 その言葉に雨宮さんは鬼のような形相を浮かべた。


「……姉御はっ!!」

 そう言って立ち上がる雨宮さん。立ち上がると同時に肩に手を掛けた山岸さんの手が離れていく。


「姉御は……掛け替えのない存在だっ」

 雨宮さんは力の限り大きく言い放つ。そして続けて言う。


「姉御がいなかったら、アタイは今より駄目な人間になってた

救ってもらったんだ……だから、姉御が困ってるなら力を貸してやるっ」


「そう答えるよね……知ってた、あたしもそうだから。

 なら、その皐月はあたし達に今回助けてって言ったの?」

 雨宮さんはその言葉に目を大きく見開いた後顔を俯かせる。


 僕は赤城さんの言葉に息を呑む……確かに万丈は何も言わなかった。

 昨日何かが間違いなくあったとして何故それを赤城さん達に連絡しない。


それは――彼女達を本当の意味で信頼していないからじゃないのか?


「分からない……とうしてあたし達になんの相談もしてくれなかったのか」

 赤城さんは、僕達の体を打ち付けるように降っている空に視線を向ける。その顔は少し寂しそうに見えた。


「それはっ……姉御が、アタイたちを巻き込みたくなくてっ」

 必死に理由を口にする雨宮さん……。でも、その声は先程までと違い力が籠もっていない、


「思うんだけどさ」

 唐突に声が上がり、その場にいた全員がそちらへ顔を向ける。


「きっと多分言えなかったんじゃないかな?」

 そう言い放ったのは山岸さんだった。その顔はどこか辛そうに見える……彼女と僕が関わることになった切っ掛けの事を指しているのだろうか?


「家族が関わることだから巻き込みたくなかったのよ。友達に、そこまで頼めないと思う。ましてや相手が自分と同じ場所で育った人間なら尚の事」


 そう告げる山岸さんの顔はどこか悲しそうで、触れようとしたら直ぐ消えちゃうんじゃないかと思うくらい儚く映った。もしかしたら、山岸さんにも僕にも打ち明けられない過去を持っているのかもしれない……僕と同じように。


 次の瞬間儚そうな顔は消え、満面の笑顔に変わる。


「でも、私は関係ないと思うな」


 楽しそうな口調で言う山岸さん。

 

「関係ないってどうして言えるんだよ……。言わなかったってことは必要としてないってことだろ?」

 雨宮さんが彼女に弱々しい声で尋ねる。山岸さんはその問いに首を振る。


「確かにそうかもしれない……でもそれで仲間(ともだち)を助けちゃ駄目って訳にはならないでしょう?」

 そう言った瞬間さっきまで強く降っていた雨が次第に弱まっていく。


「問題は私達がどう思っているのかだよ?」

 そういった時には、雨は完全に晴れていた。雨で濡れた黒髪が凄く綺麗に見えた。山岸さんが雨が止んだばかりの曇った空に手を伸ばしながら


「人の心は簡単に止めることは出来ない……」

 彼女が伸ばした先の曇り空の間から、太陽の光が差し込む。


「私は皐月を助けたい……皆は、どう思ってるの?」

 太陽の光に照らされた山岸さんが笑って僕等に問いかける。


「そんなの……助けたいに、決まってんだろっ!?」


「そうよ……だって皐月は、私達にとって掛け替えのない存在なんだからっ」

 赤城さんと雨宮さんが泣きながら山岸さんの投げかけた問いに答える。


「集君は……どう思ってるの?」

 そう聞いてきた山岸さんの顔を見る。その目には、意志の強さを感じさせられた。僕が初めて彼女と関わった時は常に人に気を遣って自己主張をあまりしない印象だったのに……。


 僕は目を閉じて万丈のことを考える。


『――おい、何ジロジロ見てんだよ』


 最初は、噂通り怖い人だと思っていた……。だけど関わっていくうちにそれは誤解だったとそう思えるようになっていた……それに


 万丈が言ったあの言葉が脳内で再生される。


 『そういう訳で、オレ達はダチだ。この関係は死ぬまで……もしくは喧嘩して仲違いするまでずっとだっ』


 友達……万丈は僕にとって一緒にいて楽しいと思える。赤城さんや雨宮さんより思いは弱いかもしれないけど、それでも少なからず万丈僕にとって掛け替えのない存在だっ。


 僕は山岸さんの目を真っ直ぐに見返す。


「助けたいよ……友達だから」

 僕がそう告げると彼女は笑って頷く。


「なら行きましょう……友達を、皐月を助けにっ!!」


「おい、待て……」

 渓が息苦しそうに僕達に呼びかける。

 僕達は渓に目を向ける。


「相手は海斗……一人だけじゃない」

 僕達はその言葉に固まる……一人じゃないって?


「ゼロだ……暴走族の」

 赤城さんと雨宮さんが息を呑むのが気配で伝わる。


「この先行くんなら、覚悟しろよ」

 渓は笑顔を浮かべた……その笑顔が不気味に見える。

 暫くして渓は疲れたのかそのまま気を失う。


「関係ないよ、助けたいって皆で決めたんだからどんな事があっても……逃げちゃ駄目っ!!」

 沈黙のムードの中、山岸さんが声を上げる。僕はその声にはっとする……そうだ、誓ったじゃないか。どんな事があっても、山岸さんを守るって!!


 僕は、周りに目を向ける。赤城さんと雨宮さんは僕の顔を見ると頷いていた。


「行こう……万丈を助けにっ!!」


 そう言い終わった瞬間……僕達は駆け出す。

 万丈が居るであろう、廃屋に向けて――待ってろよ、万丈っ!!


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最新更新分まで拝読しました。 主人公の集が個性的で、心理描写も面白かったです。 ヒロインの奏も、いつの間にか集に振り回されているのが可愛らしいですね。 この二人の関係性が、物語のブレない主…
2020/06/07 11:09 退会済み
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