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僕のモノクロだった世界が君に出会ってから色付き始める  作者: 高橋裕司
第二章 銀狼と呼ばれた少女
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誰もオレのことを

皐月視点でのお送りさせてもらいます。

「…ろ……い……」


 なんだ? オレは、朦朧とする意識を奮い立たせ声のする方へ目を向ける。


「おい、こんな所でどうしたんだい?」

 見るとポリ公(警察)の制服を着た40代ぐらいのおっさんが、オレのことを心配そうに見ていた。

 ……思い出した。結局疲れて眠っちまったんだ。まさか、道端で寝る事になるとは思わなかったが。オレは、両手を動かしグーパー運動をする……よし。どうやら寝たおかげで完全ではねえけど、体力はいくらか回復したみたいだ。オレが立ち上がるとポリ公は慌ててオレの肩に手をかける。


「ダメだ……体中血だらけじゃないか!? それに、こんな道端で寝てた理由を聞かなくちゃいけない……そこの交番まで一緒に来てもらおうか?」

 ……チッ、面倒なのに捕まっちまった。今こうしてる間にも司が危ない目に合ってるかもしれないってのに!!


「うるせぇ」

 オレはポリ公を睨みつける。オレの剣呑な空気に気付くと、ポリ公は優しく微笑む。


「まぁまぁ、そんな怒らないで」

 と、ポリ公は優しく語りかける。


「悪りぃけど急いでんだ……」

 オレはそう言ってポリ公のそばを通り過ぎようとする、がポリ公はオレの腕を掴み取る。



「そんな傷だらけの子を見過ごせないよ」

 オレはその言葉に辟易する。正義感を出すのは勝手だが今ほど、鬱陶しいと思うことはないだろう。


「ほっとけっ!!」 

 オレはそう言ってポリ公が掴んでいる腕を振り払う。事情も知らないのに手を差し伸べないでほしい。喜ぶ奴は居るかもしれない……だがオレは素直に喜ぶ事が出来ない。


 ポリ公はオレの態度を見て険しい表情を浮かべる。オレは構わず目的地に足先を向け歩き出す。


 後ろから、止まれ俺をなんだと思っている……と、訳の分からない声が聞こえたがそれを全て無視した。次第にその声は聞こえなくなっていく。正義なんてどこにもない、ただ自分を良く見せる為に使われる飾り言葉だ。本当に助けようと動く奴なんて一人もいない。それなのに無遠慮に手を差し伸べてくる……何もできないくせに……。


 ――それならいっそ、オレを放っておいてほしい。


 向かいから女性と乳母車に乗せられ牽かれている赤ん坊……赤ちゃんが歩いてくる。上空に広がる光景に手を伸ばしてキャッキャとはしゃぐ赤ちゃん……。そしてそれを微笑ましそうに眺める女性がオレの横を通り抜ける。


 羨ましいと思った。赤ちゃんはこれからどんな人生を歩むのだろう……。少なくとも、オレと同じ道を辿ってほしくない。

 

 結局オレは強がっていただけなのだ。司を守るために力を求めた。

司が不安がらないように常に笑顔でいるよう心掛けた。その姿勢は涼や紗季にも求められた……。本当の意味で自分の心の内に抱えてるモノを吐き出せる相手がいなかった。


 本当なら俺だって女らしくしていたい……だけどオレは誓ったんだ。司を守るって、司が幸せになるまでは……。そう思ったのは中学の頃から。司が中学になってヤロー共にイジメを受けていたのがきっかけ――。


 自分がどんなに苦しくても、司は絶対チクったりしない。そのやり方は海斗と渓に襲われた翌日から行うようになった。どれだけ詰られようと、暴力を振るわれようとだ。


 そのやり方は、その内限界が訪れる。その時に支えてくれる存在が必要だ……せめてそういう存在が出来るまでは――司はオレが守る。


 気付けばオレは駅に着いていた。いくら寝ていたとはいえ体の至るところが痛い。オレは自分の体に目を向ける。腕や足からは出血の酷い箇所が多く見られ、腕には複数の痣がオレの視界に映り込む。


 確か顔も思いっきり殴ってきたか……オレは溜息を吐く。喧嘩はこれだから、嫌になる……特に今回みたいな顔面を殴られた時だ。歯を折られたってことは今相当酷い顔をしているはず。


 こうしてる暇はないと思いたちオレは駅の中に足を踏み入れる。きっぷ売機に行き、オレは二条行のきっぷを購入する。

 電車が来るまで……30分もの間がある。オレは駅の中をブラつく事にした。駅は一回フロア2回フロアに分けられている。オレは改札口からそんなに離れていない服屋に立ち寄る。



 店員や客がオレを凝視する。そりゃそうか、体の至る所から血が出てしかも服も服でかなり汚れている。


 こんな場所じゃオレが目立つのも無理はない。オレは周りに構わず商品に目を向けると、ある一つの商品に目が止まる……それは、真紅に輝くワンピース。


 オレはいつもの、スカートとかひらひらしたのは着ない。だが、そういうのが嫌いなのかというと違う……寧ろ好きな方だ。 

 ただ、オレにはどうしても似合わないと思えて手が出せない。別に見せたい相手がいる訳じゃないから、オシャレをする必要も感じない。


 でも……と思ってしまう。喧嘩じゃなくオシャレに時間を割いていたら、どんなオレになっていただろうかって……。

 きっと口調もオレとは呼ばずに私って言ってるんだろうな。そんなことを言ってるオレか……少し、いや全く想像がつかない。というより、もうそれは叶わない夢だ……考えても仕方ない。


「……良かったら、試着してみますか?」

 

 店員がオレに試着を促してくる。やべぇ、このままだとこの赤いワンピース買わされそうだな。オレは店員に首を振りその必要はない旨を伝えるとその店を後にする。


 天井に置かれている時計を覗き込むと電車が出発する5分前だった。さて、行くとするか……。

 司とオレにとっての至極の日々を過ごした場所へ――。


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