嫌な予感がする
万丈皐月視点で今回お送りします。
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事の始まりは、昨日の昼間……。いつも通り学校をサボって高校近くの駅周辺で、涼や紗季と遊んでいた。
「ん?」 「あ〜、さっちゃん」
そこに、あの二人が現れたんだ……。司やオレに酷い事をしたヤロー共に。オレは、射殺すつもりで二人……海斗と渓を睨む。
涼が息を呑むのを気配で感じ取る。オレと小学からの付き合いだけあって、ちょっとした事でも涼相手にはすぐにバレてしまう。
でもそんな事は関係ない……。目の前には、司を傷つけた張本人達がいるのだから。
「姉御……こいつら、誰っすか?」
と、涼と違いオレの鋭い殺気に気付いていない紗季がオレと奴等を交互に見ながら、聞いてくる。
「さっちゃんとは、同じ施設で育ったんだ……言わば、兄妹みたいなものだよ。ね、さっちゃん?」
と、満面の笑みで問いかけてくる海斗。
ふざけんなっ……何が、さっちゃんだっ!! テメェの口からそんな呼び方一度も聞いたことねえよっ……相変わらず、外面だけは良いみてぇだな。
海斗は、出会った頃から大人や強い奴には人当たりのいい態度を取る。銀狼と揶揄される一件以降……こいつはオレに対してちょっかいを掛けてこなくなった。
それは、当たり前だと思う。自分に刃物を向けてきた相手なのだから。オレでも、ビビって関わり合いになりたいと思わないだろう。
『黒崎……黒崎集です』
そこまで考えて集と初めて会った時のことが頭に蘇る。黒崎集……アイツはオレを怖いと思いながらも、逃げもせずにしっかりと付き合ってくれた。
今までそんな人間は一人もいなかった……いつも、オレを見ては怖がって一目散に逃げていく。今目の前にいる見た目優男風の海斗と体育会系のムキムキに身体を鍛えている渓、この二人でもだ。
傷付くのが怖いのなら、はじめから関わらなければいい。だから皆オレから逃げていく……根性見せるやつなんか誰一人としていない。
でも、集は違った……背が小せえ上に身体も細い。喧嘩が強くねえのは、一目瞭然。なのに、逃げもせずにオレと会話を試みた黒崎集。
同じクラスなのに話したことが一度もない奴……集だけに限らずだが。海斗と渓がこうして話し掛けてくるのは、オレにビビってると思われたくないから……用は、くだらねえプライドからだ。
「さっちゃんとは昔部屋が同じでさ〜仲良くしてたんだ」
今もこうして嘘の事をベラベラと喋っている。集は、オレの前では噓を吐かなかったな……。
オレはこれまでの集の事を振り返る。アイツは、いつも一人が良いというスタンスを貫いてる……が、何かと周りの人間を気遣ってるように見える――じゃなきゃ
『僕の陰口は構わない……。でも、山岸さんの陰口は金輪際っ口にすんなっ!?』
あんな大見得切れるわけがない。根はすごく熱いやつなんだって……そう思った。なのに……なんでアイツは一人なんだ?
オレみたいに尖ってる訳でもなく、完璧に嫌な奴ってわけじゃない……寧ろ、良い奴だ。そんな奴が一人になる事を選んでる。なんなんだろうな……その理由ってのは。それに……
“アイツ、歩き方に違和感あるんだよなぁ“。
「さっちゃん、司は元気かい?」
海斗の言葉によって思考が強制的に途切れる。そうだ……集の事はどうでもいい。オレには何があっても守らなくちゃならねえ大切な存在がいるんだ。
オレはギロリと音が出そうな位に鋭く海斗を睨みつける。
「あぁ、お陰様で……あの一件以降男性恐怖症になっちまったよ」
その言葉を聞いた涼と紗季の顔が険しくなった。二人には、オレがなぜ不良になったか……その経緯を伝えている。
だからこそ、オレが海斗の名前を出した瞬間二人は、海斗と渓に対して警戒心を剥き出しにした。
「あらら、知ってたのか……って当然そんな話もするよね」
海斗は降参とばかりに両手を頭より上に掲げながら言う。渓は一言も喋らず、ただただオレをじっと見ている……。初めてあった頃から渓は口数が少ない。そのせいで何を考えているのか全く分からない。だけど、そんな事は関係ねえ。
「悪いが……司には指一本、触れさせねぇ」
その言葉と同時にオレは海斗と渓を睨みつける。 海斗と渓は微笑を浮かべる……なんだ、こいつら?
「そう言えば、さ……こんな話聞いたことある?」
唐突に今の状況と関係ない話を振る海斗。
「今この辺りで、界隈を騒がせている暴走族が居るって話」
「へっ、その話なら知ってるぜ」
紗季が得意気に答える。確かにその話は有名だ。
ゼロ……今、この山龍を騒がせている暴走族だ。ゼロという名前一口に言っても色んな意味が存在する。無、数学で言うなら中学に習った整数で正でも負でもない数字。どこだったか忘れたが、新しい始まりを意味するとも言われている。この暴走族がその名前をつけた理由は4番目にあるだろうと思われる。
「スゴイよね……、どこで仕入れてきたのか分からないけどシャブや大麻その他諸々を売りさばいてる」
海斗は、笑顔で喋っている。何が面白いんだか……。
「それで……言いたい事はなんだ?」
最近、ゼロが山龍全地域にまで手が及びそうなほど活発化していると耳にしている……だが、その事と今にどんな関係がある。何もないだろう。
「話の種として言っただけだよ」
そう口にすると渓に目を向け頷くと
「じゃあ僕達行くね〜」
そう言って、渓を引き連れて去っていく。
「何が目的だったんだろうね……」
涼の声が警戒心を顕にする。
そのとおりだ。偶然にしては、何かおかしい……何がどうと上手くは言えねえ。けど、嫌な予感がする。
一応、頭の中に留めておくとするか……。
この時オレは判断をミスった……この段階で海斗や渓を放置しなければ“司が攫われることもなかったのに“――




