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僕のモノクロだった世界が君に出会ってから色付き始める  作者: 高橋裕司
第二章 銀狼と呼ばれた少女
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僕よりも

「これが、アタイが皐月から聞いた昔の話だ」 

 ゆっくりと余韻を含ませるように締めくくる赤城さん


「そ、そんなことが……」 

 僕は赤城さんから彼女……万丈皐月が、銀狼と呼ばれた経緯を聞き絶句する。万丈皐月がこんな重い過去を持っていたなんてとはいつもの彼女の態度からは、とてもそうは見えない。


 ――いや、そう見えないようにしていたんじゃないのか?


 今思えば……万丈はいつも笑っていた。それは、周りに心配を掛けさせない為じゃないのかっ!?


 赤城さんや、雨宮さん……それに、その大事な妹(司)さんのために……必死に笑い続けていたんじゃないのか?


『あ~、少し見晴らしのいい場所で一人になりたかったんだ』

 頭の中で初めて会ったときに、寂しそうな顔でそう言った万丈の顔が頭の中で蘇る。



 ひょっとしてアイツは……泣きたかったんじゃないのか?

 いつも笑ってばかりじゃ心が疲れてしまう……。弱音を吐くことなんて出来なかったはずだ。ましてやたった一人の妹である司さんが、そんな酷い目にあったんだ。一瞬たりとも気なんて抜けなかったはず………。


 アイツは……僕よりも、辛い現状だったはずなのに


「ウッ…グスッ」

 声がして横を向けば山岸奏が泣いていた……


「きゅ……急にどうしたっ」 

 赤城さんが突然泣き出した山岸さん 戸惑いの声を上げる。


「今、までっ……グスッ、つら、かったんだっ、ろうな、ってっ」


 山岸さんは嗚咽混じりに何とかその言葉を口にする。赤城さん、雨宮さんは彼女に呆けた顔を見せる……それはそうだろう。

 自分の為に行動する人間ばかりだというのに山岸奏は他者に迷いなく手を差し伸べることが出来る人間なのだ。


 それが、作り物ではなく地であるから尚の事驚かされる……だが

 彼女の瞳から一粒一粒大きな滴が、頬から零れ落ちる。彼女から零れ落ちる大きな滴が真珠のようにキラキラ輝いて見えた。


 あの涙に打算や計算されたものがないホンモノだと思うと、今彼女が泣いてることが僕にとってはとても……尊い事のように思えた。僕は、曇りがかっている空を見上げた……確か、午後には降る予定だったはず。  


「情報を整理しよう」

 僕はこの空気のままでは一向に埒があかないと、思考を切り替え赤城さん達を促す。



「お、おう」 「え、ええ」 

 二人はしどろもどろに各々返事をする。僕は暫し黙考してから赤城さん、雨宮さんに問いかける。


「何か昨日……変わった事とかなかったの?」

 顎に手を当て目を閉じる赤城さんと髪を両手で掻き毟る雨宮さん。



「「あ」」 

 二人は顔を見合わせて、あ、とくちにする。



「なにか覚えてるの?」 

 僕は二人の元に歩み寄る。今はとにかく情報だ……どんな事だっていい。


「その、昨日……知らない男二人組に会ったのよ……」

 赤城さんが煮えきらない態度で答える。


「……どうかしたの?」

 僕は赤城さんの煮えきらない態度に疑問を抱き聞く。


「いや、皐月が……珍しく殺気を漲らせてたから」


「殺気……」 

 僕は赤城さんが言った言葉を繰り返す。僕は赤城さん、雨宮さんを見る。二人とも気まずそうにしているのが表情から伺えた……つまり


 万丈が殺気を出すという事はそれだけの人間という事そして万丈の過去を知った上でそれが十分に考えられるのは……妹さんに関係する人物


「万丈と、その妹さん……司さんは今もその“万丈児童養護施設“に住んでいるの?」

 僕は屋上から覗く町中の景色を見下ろす。

 朝ということもあって、物凄い数の車が道路を行き来している。


「今はそこには住んでいない……高校に進学と同時に司と一緒にアパート暮らしをはじめたの」

 アパート暮らしを……なら、僕は周りに目を向ける。山岸さんは依然として泣いたまま……一言も話そうとしない。


「それなら、万丈児童養護施設には行ったの?」

 僕がそう聞くと赤城さんと雨宮さんは、鳩が豆鉄砲をくらったような顔を浮かべる。


「それは、行ってない……」


「完全に盲点だった……」


 二人は項垂れていた……その考えに至らなかった事が相当ショックだったみたいだ……。


「なら、行き先は決まったね……」 

 僕はそう言って山岸さんに目を向ける。


「山岸さん、君は授業に戻って」

 僕はそう口にする。


 正直万丈を探すのなら人手が多い事に越したことはない。だが万丈の過去からしても彼女の周囲には、人を傷付ける行為を何とも思わない……寧ろ、楽しんでいる人間が存在する。僕が傷付くくらいならいい。でも山岸さんは……。


 山岸さんは泣き疲れたのかいつの間にか泣き止んでいた。そして彼女は僕の言葉に首を振り

「イヤ」 

 と僕の指示したことを否定する。

 そうだよな……やっぱり、ここまで聞いてほっとける訳ないよな。


「危険な目に遭うかもしれないよ」

 僕はいつもよりワントーン低目の声で、山岸さんを睨みつけるように見て言う。


 だが彼女はそんな僕を真っ直ぐ見据え

「ほっとけないよ……皐月は私の友達なんだから」

 と力強い目で見返される。


 あぁ、完敗だな。僕に山岸奏は止められない……。一ヶ月前の彼女ならいざ知らず、今の彼女は自分が正しいと思う事を迷わず選択するようになった。


 僕は口の端を緩める……本当に変な人だ。僕もそうだけど、校内1の不良少女の為に危険を顧みようとしないのだから……なら僕は。


「分かった。山岸さん、赤城さん、雨宮さん……これから万丈児童養護施設に行くよ」

 僕がそう言うと、三人は同時に頷いた。

 僕は、山岸さんに危険が迫ったら全力で守ろう……そう心の中で決意をして屋上から立ち去るのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 視点を切り替えながら書く作品は著者の独りよがりなストーリーラインを生んでテンポががたがたになることが多い用に感じているが、この作品は元々エピソードをじっくり書いていくスタイルで食事で言うと…
[気になる点] 起伏の幅が小さく、空虚な主人公中心に淡々と物語が流れている雰囲気を受けます。 [一言] こういう作風を否定はしませんが、もっとワクワクドキドキ出来る展開を入れてみてはどうでしょう。
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