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僕のモノクロだった世界が君に出会ってから色付き始める  作者: 高橋裕司
第二章 銀狼と呼ばれた少女
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銀狼と呼ばれたオレ 下

今回は皐月視点でお送りします。

◇◇◇◇◇

「あ~あ、だるいなぁ」 

 と、男の子が言う。 

 

 その声を上げた男の子は、渓……ではなく海斗だった。全ての児童養護施設がそうなのかは知らない……だがこの万丈児童養護施設では、上下関係がしっかりしていた。


 ここではいい子ぶってるやつほど、危ない人間だと思ったほうが良い。ここに入った初日、部屋で挨拶が終わって職員が姿を消して暫く経ったあと……。


「チッ、めんどくせぇ」

 と、さっきまでの活発な態度とは打って変わり、明らかに気怠そうな態度でそう言い放つ。その変わりようにオレと司は呆気に取られる。


「おい、何黙ってんだよ?」 

 と人を小馬鹿にする態度で海斗はいう。


「全く、礼儀も教えなきゃなのか……」

 と、渓がねちっこく粘り気のある気持ち悪い声を出す。


 そう……オレと司はとんでもない場所へと連れてこられたのだ。万丈児童養護施設で暮らす日常は、辛く険しいものとなった。

 まず、食事の時間になれば海斗と渓が大半の飯、おかずを食べ私達は二口食べれれば良い方だ。


 寝ている時にオレと司の寝込みを襲って服をビリビリに破かれたこともあった……幸いそれ以上何もしては来なかったが――。それでも、司はその時の事を未だに覚えていて男を極端に嫌っているし恐れてる……そんな事をされれば当然だとオレは思う。


 ズタボロの身体を引きずるようにして歩き空を見上げる。あの後、司は――一生消える事のない傷を背負わされるのだから。


 ある時の事だ……司が耐えかねて、海斗と渓に対してヤメてと言った。司は素直な子だ……思った事は口にするし、間違っている事があれば遠慮なく指摘する。だが、その司の性格はこの場所でやっていくには不向きだった。


 オレはその日の夜、ずっと気を張っていた……海斗と渓が、司の言った言葉を黙って聞いたままという事は、あり得ないと思ったからだ。


 危惧していた通りの事が起こった……。皆が寝静まった深夜の時間帯。渓がベッドで横になっているオレの身体に覆いかぶさるように上に乗ってくる。


「なっ……何?」 

 オレは覚悟をしていたとはいえ、戸惑った。オレは女だ……。だから、力ではどうやっても男には敵わない。自分の持てる限りの力で渓を押すもピクリとも動かない。


「イヤっ」 

 この時のオレは2つの感情を抱いた。ビリリっと、オレの着ていた服を破る渓……。

 1つ目の感情は、このままだとオレはこいつに好き勝手されてしまう事からの恐怖……そして2つ目は


 「――ヤメてぇっ!?」

 泣き叫ぶ司の声が聞こえオレは司のいる方へ顔を向ける。すると、なんてことしやがる……海斗が、司の唇に強引にキスをしているじゃねぇかっ


「やめてよっ」 

 オレはそう言い、司の元へ行こうと身体を動かす。だが……幾ら動かしたところで、渓を上から退かせられない。


「ヒック……ねぇ、わた、しがっ……悪っ、かったからぁ」

 嗚咽混じりに司は涙を流しながら許しを乞う。


「もう……許して」 

 力強さを感じない空虚な声で、司はそう告げた。それを見て、海斗は笑う……盛大に。


「アハハハッ……なんだよ、もう終わりかぁ?」

 卑しく光る目をオレと司……交互にその目を向ける。そして再度、司に目を向けると――司のパジャマの上着に手を掛ける。


 「いや――イヤっ!?」 

 何をされるのか予想が付いた司は拒絶の声をあげる……だが海斗は、そんな司の拒絶の言葉を無視し、パジャマの上着を引きちぎり、司の胸に手のひらを乗せた。


 その時のアイツの顔を今でも忘れられない――。目の前で、泣いている女の子がいるのに……海斗は、楽しんでいた。まるで――おもちゃで遊んでいるかのように。


 オレが感じた、もう一つの感情……それは、怒り。


 今、オレの上に渓が乗っているのに抵抗しても相手に通じていないことへの怒り。ここまで、大分騒いでいるのに……職員が誰一人としてこの場所に来ないことへの怒り――そして何より。


「もう、やめ、てよっ」

 心も身体もボロボロで今も傷付けられようとしている司に対して何も出来ないことへの怒りっ!!


 その時、ある記憶が頭に浮かんだ。


◆◆◆◆◆


 それは、オレと司に母がある本を読み聞かせてくれた。


 物語はこうだ……国王の息子、王子様が、平民の女の子に恋をした。

 だが、少年は王子様で少女は平民。身分に差がありすぎて周りは、少年に対して少女に近付いてはならないと忠告する。


 でも、王子様はその言葉を無視し少女の為に時間をそして、力を貸した。少女が泣いてる時は、必ず駆けつけ何度も助けた。


 そして、ついには……少女と結ばれるが為に王子様である事をやめ、少女と結婚をし末永く結ばれる……そんな物語。


『……素敵な話』

 幼い司が幸せそうな顔をして言う。

 母はオレと司を見てからこういった。


『いつか、皐月や司に今聞かせた()()()|が……現れるといいね』

 記憶の中にいる母にオレはこう答えた。


 ――そんなの、いるわけないって……。


◆◆◆◆◆


「ククックククッ……もうおしまい?」

 オレを抑えてる渓が変な笑い声を立てる。オレは決意する。司を守るためなら、どんな事でもしてやる……と。


 オレは布団の下へと手を伸ばし、ある物を握りしめ渓の顔目掛けて突き立ようとした――が、寸前で渓が悲鳴を上げながら避ける。


「お、おい……お前」

 信じられない物を見たかの様に海斗、そして渓が目を剥く……それはそうだろう。オレが手にしていたのは、包丁だっからだ。


「ど、どういうつもりだっ」

 海斗は、先程までの強気な態度とはうって変わり不安を顕にした態度を取る。


「司から…離れろっ」

 オレはそう口にし、海斗へ包丁を向ける。海斗は身体を震わせながら、司の身体から離れる――ちょうどその時だ。


「何をしてるのっ貴方達っ!!」

 職員が、この部屋へと現れたのは。


 結局その後、オレを含めた4人は事情を聞いたあと部屋を解体

 それぞれが別の部屋へと移動する事となった……。海斗と渓に、なんの罰も下らないことに不満を職員にぶつけた……しかし


「アハハ……子供のうちは、間違いもあるさ」

 と笑って流される。だが、その職員の目は泳いでいた。まるで……何かに逃げるかのように。


 多分それは、その事が公になった時の世間の目を恐れていたんだと思う。だから、海斗と渓がやった事は初めから何もなかったことにされた。だが、海斗と渓はオレが包丁を持っていたことを周りに言いふらし、こう口にする。


「あのときの目……オオカミみたいだった」

 と。それからオレは銀狼と呼ばれるようになった。


◇◇◇◇◇


 懐かしい記憶を思い出していたオレに強烈な痛みが身体を襲う。

 

――ウッ、オレは短く呻る。くそっ早くしなきゃならねえのに。


 オレは、もう痛いのかも分からなくなってきた身体を必死に動かす。


 ――待ってろよ……司、今助けるからっ


 今心細い思いをしているであろう司へ心の中でそう口にしていた。

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