心の支え
「待ってよっ……集君」
背後から山岸さんが僕を呼び止めようとする声と僕の後を追いかける足音が廊下に響き渡る。
僕はその声には答えず、雨宮さんの手を引いたまま落ち着いて話せる場所を考える……今は朝、しかも後少しでチャイムが鳴り1限目の授業が始まる。だとすると、他の教室は使えない……。
なら保健室か――? いや、駄目だ。今までは美沙ねえだったから保健室を気軽に利用する事ができた。お互いの気心を知れ合う仲だったから尚更だ。
だとすると、あそこしかないか……僕は、向かう場所を決めその場所に向けて、雨宮さんの手を引いた上で足を動かす。
◇◇◇◇◇
「もう、酷いよ……集君」
涙目で訴える山岸さん。
僕はそんな彼女に肩を竦めてから
「僕が、何か言ったとしても付いてくると思ったから」
と僕は答える。山岸さんはその言葉に目を見開き僕を凝視する。
「なんでそう思うの?」
と、僕から視線をそらして聞いてくる。
なんで……か? 理由は分からないけど、山岸さんがなんとなく、こうして僕と雨宮さんの事を付いてくる……そんな気がした。
理由を上げるとするなら、なんと言えば――あ、そうだ。
「強いて言うなら、山岸さんが優しい人だから……かな」
と僕は彼女の目を見て答える。そう、山岸奏は優しい心の持ち主だ。誰にでも分け隔てなく接する事が出来る……あまり人と関わってこなかった僕にさえ、気軽に話し掛けてくれる。そんな彼女が、目の前で困っている人間を放って置けるはずがない。
僕の思いを理解しての事なのか、山岸さんはハァと溜め息を吐いたあと
「それで、屋上まで来てどうするの?」
とその顔に微笑を浮かベ聞いてくる……そう、ここは屋上。僕と万丈が初めて話した場所だ。
これから校内の生徒達が授業を受ける。よって僕等が授業中に廊下を歩くのは非常に目立つ……そして、保健室の先生が美沙ねえじゃないだけに気軽に利用できない。
それなら僕が考え付くのはこの屋上しかない……ここは授業中はおろか昼休みでさえ、人は寄り付かない。だから落ち着いて話すことが出来ると思った。
「それで雨宮さん」
と僕が話しかけた瞬間
チリリリリリンっ、チリリリリリンッ……と、断続的に甲高い機械音が鳴り響く。
「……あ、悪い」
と、雨宮は僕達に頭を下げてスマホを取り出し電話に出る。
「はい、雨宮です。赤城さん……いえ、此方も駄目です……あ、いま黒崎集と一緒にいます……はい、はい……分かりました」
そう返事をして電話を切ると、雨宮さんは僕に目を向ける。
「もう少し、待ってくれないか……涼さんもこっちに向かってるみたいだからよ」
と雨宮さんは懇願するように言う。
彼女がこの様に頼み事をしてくるとは思わなかった……それだけ、今の雨宮さんには余裕がないという表れなのだと僕は悟る。
僕は雨宮さんの言葉に頷く。情報を共有するのは大事な事だ。それに……三人寄れば文殊の知恵、皆で考えれば万丈の居場所が分かるかもしれない。
僕は空を見上げる。今日も雲が一つもない快晴だ……そして今僕が思った事に戸惑う。
皆で考えれば……か。今までの僕なら絶対言わない。ならなぜ言うのか……? それは、僕が山岸さんや万丈、雨宮さんに赤城さんを信頼してるからだ。
雨宮さんと赤城さんに関しては僕が、自宅謹慎処分中に一回会っただけだが……雨宮さん赤城さん共々万丈の事を大事にしてる事がよく分かった。
だからこそ、信頼に足る人物だと僕は思う。惜しみない信頼関係は尊いと思う……やれやれ、僕がそんな事を思う日が来るとは――
「どうしたの? 空なんか見上げて」
と山岸さんがキョトン顔で僕に尋ねる……彼女だ。山岸奏と関わってから本当に僕は変わりつつある。他人の力を借りようなどと、思った事は一度もないというのに。
「何もないよ」
と僕は答える。山岸さんはそれ以上追及してこない。
暫くして赤城さんが屋上に姿を現す……その顔は以前あった時のような軽快な表情ではなく、硬く重苦しい表情だった。
「2週間ぶり……ね」
と僕に声をかける。だが、その声は弱々しくこの前のような元気は感じられない。それ程までに雨宮さんや赤城さんにとって万丈は心の支えに値する存在なのだろう。
「……? そいつは誰だ?」
と赤城さんが山岸さんに対して怪訝な目を向ける。
「そう言えば、そうっすね」
と雨宮さんも頷く……いやまて、聞くタイミング有ったよね。そんなんでこの子……やっていけるのか、お兄さん心配っ……と、ふざけるのはここまでにして。
僕は山岸さんに目を向ける……すると、彼女もこちらを見返し頷くと今度は雨宮さんと赤城さんの二人に目を向ける。
「初めまして。私は山岸奏と言います……皐月の友達です」
と、笑顔で答える山岸さん……すごいな、僕じゃあんなふうにスラスラと自己紹介など出来ない。
「……山岸奏?」
赤城さんは雨宮さんと顔を見合わせてそう口にする。そして笑顔でこう言い放つ。
「それなら聞いてる。アンタ……この黒崎集の"恋人"なんだろ?」
と赤城さんが妖艶な笑みを僕と山岸さんに向ける。
僕は、その言葉に苦笑する……そもそもがあり得ないのだ。山岸奏が僕を異性として意識する訳がない……ましてや、恋人など――夢のまた夢だ。
「そ、そんな訳ないでしょっ!!」
と山岸さんが力強く否定する。ほら、本人もこうやって言っている訳だし。
「そう、僕と彼女はともだ……いや、親友。それ以上でも以下でもない――っ」
そう告げ終えるのと同時に山岸さんに脛を蹴られる……え、なに? 地味に痛いけど、僕なにかした……暴力反対っ――と、そんな事を思いながら山岸さんを見ていると
「フンッ」
と言ってそっぽを向く……その仕草は可愛いとは思うけど、人を蹴っちゃ駄目だよ山岸さん。
そんな様子を見た雨宮さんと赤城さんは声を出して笑う。
「どうやら、姉御にもチャンス有るみたいっすね」
「あぁ」
と、訳の分からない事を二人して言っている。
「それより……聞きたいことなんだけど」
僕は、山岸さんの蹴りを防ぎながら二人に問いかける。
「万丈がいなくなった事に関して……何か心当たりないの?」
万丈の事をよく知っているのはこの二人だ……それに、万丈が仲間に何も伝えないで消えたって事は……それだけ危険な状況になっているか、もしくはこれからなろうとしているのではないか――
雨宮さんと赤城さんは顔をお互い見合わせた後、赤城さんが躊躇うように足元に視線を落としながら
「一つだけ……あるには、ある」
と口にする。
そしてこの後、僕と山岸さんは"銀狼"と呼ばれた少女……万丈皐月の辛く悲しい過去を聞くことになる。
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