どうして?
3週間の休学が終わり、今日から僕は再び学校に通う。そして今僕は以前と同じく教室入り口前で立ち止まる……。なかなか一歩が踏み出せない。
そりゃ、無理だよ。どんな顔で入れば良いんだっつうの。そこまで強心臓でもなければ、サイコパスでもないっての。僕が、立ち往生をしていると
「コラッ」
と後ろから声と同時に肩を叩かれる。後ろを振り向くと美沙ねえがいた。
「やっと、来たか……不良少年」
と呆れ顔で言う美沙ねえ。ちょっと待ってくれ、不良少年って……。
まぁ、やった事がやった事なので言い返せない。
「こんな所に立ってるってことは……。さしずめ気まずくて、入れないんでしょ?」
僕は、その言葉に美沙ねえから視線をそらす。ぐうの音も出ない。美沙ねえは昔から僕の思考を良く熟知してる。
「だから、授業中にしれっと入ろうとしてるけどその一歩が……踏み出せない、と」
僕を嘲るような口調で喋る美沙ねえ。
「……しょうがないでしょう。あんなことした手前平気な顔して行けるほどの強心臓の持ち主じゃないんだから」
僕は開き直って言い返す。美沙ねえはジト目で僕を見て
「小学生か」と一言……えぇ、今やってる事は確かに小学生ですよ。
キーンコーンカンコーン、とチャイムが鳴り響く。どうやら、1限の授業が終わったらしい。
「ほら、とっとと行く」
そう言うと僕の後ろに位置するドアを強引に僕を押し退けながら開く。
すると、クラスの全員の視線が僕の元に集まる。この状況は一ヶ月前に経験したけど、慣れないな。
だが、暫くすると皆すぐに視線をそらす。まるで、自分達に後ろめたい事があるかの様に。何があったのだろうかと周りを見てそう思っていると
「黒崎」と僕を呼ぶ声。呼ばれた方に視線を向けるとそこには……。
「――天道」
天道が立っていた。頬には絆創膏が貼られている。
『なんで、アンタがっ山岸さんの陰口を止めに入らなかったんだよっ』
あの時、殴った傷か。もう、3週間も経っているから治っていると思っていたが
「俺は、お前を認めるよ」
苦虫を噛み潰したような表情で天道は言う。突然の事に戸惑っている僕を無視して続ける。
「確かに君の言うとおり責任を擦り付け合うだけだった」
『責任を仲間だって言い合った奴等と平気で擦り付け合うっ』
あの時のことかと、僕は納得する。だが、3週間前から今日までに一体何があったと言うのだろう。
『全部片がついたんだよ……それにしても、あの子……良いやつだな』
万丈の言葉が頭の中で流れる。
「山岸さんが……何か、したのか」
僕は躊躇いがちに天道に聞く。天道は僕の言葉に目を見開いた後、すぐに目を伏せる。
「それは、本人に聞いてくれ」
そう言うと、彼は仲間のもとへ去っていった。僕が呆けた顔で天道を見つめていると美沙ねえが僕の肩をポンと叩き
「まぁ、頑張れ。少年」と言って僕の前から立ち去る。
僕は去っていく美沙ねえを見届けたあと、僕は座席に座っているであろう山岸さんの方へ視線向ける。彼女は一人だった……。
いつもなら、冴島さんを始めとした沢山の人々に囲まれているのに。僕は周囲の人間に目を向ける。山岸奏に目を向けはするものの僕に対してやったようにすぐに視線を逸らしてしまう。
山岸さんに声を掛けようとするが、教室のドアが開き次の授業の教師が入ってくる……仕方ない。僕は、昼になるのを待つことにした。
午前中の終わりを告げるチャイムが鳴り昼ご飯の時間になる。すると、山岸さんはすぐに席から立ち上がると出入り口の方へ歩いていく。
僕は慌てて、彼女の後を追う。その姿がまるで教室から逃げるように見えて心配だったからだ。山岸奏が向かったのは、万丈と初めて出会った屋上だった。屋上に着くと彼女はその場に座り弁当箱を広げる。
「なに、してるの?」と彼女にゆっくり近付きながら問いかける。
「なにって、ご飯食べてる」と淡々と告げる山岸さん。
「ひとりで?」
彼女は、その言葉に頷くだけで何も喋らない。
僕は、空を見上げる……。梅雨が開けたので太陽は僕達を照り付けるかのように燦々と輝いている。
「いつから?」
僕は山岸さんに問いかける。すると、少し顔を歪ませながら
「黒崎君が学校で問題を起こした翌日」と小声で答える山岸さん。僕はその言葉を聞いて驚愕する。
3週間の間……彼女はずっと一人だったというのか。梅雨の間も、ずっと一人でご飯を食べていた……。
「……どうして?何があったの山岸さんっ」
僕は途中声を荒げて山岸奏に問いかける。
すると、彼女はゆっくりと僕が問題を起こした翌日からの事を語り始めた――。
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