良いやつだな
なんでだ……
「集、そこのペットボトル取ってくれ」
なんで……
「姐御になんかしたら許さねえからな」
なんで、こうなったっ!? 時を遡る事一時間前……
◆◆◆◆◆
あの後、3日間の職員会議が終わり僕の処遇が伝えられた。3週間の休学、自宅謹慎……それが今回の事で受ける僕の罰だ。しかし家に両親がいないので、食材を買い足しに外に出なくてはいけない。
3週間の休学の内、3分の1を終えた昼間のことだ……。僕は、食材が足りなくなってきたのでスーパーへ買い足しに向かった。
その道中で、本来なら学校にいるであろう銀髪が特徴的な生徒……万丈皐月が前から歩いてくる。
「ん、よぉ集」と、手を振りながらこちらへ近づいてくる万丈
「やぁ、万丈学校は?」
「行くわけないじゃん、あんなつまらない場所」 さも当然のように答える万丈。
いや、分かってたけどね……万丈が真面目じゃないことくらい。でなければ、悪い方面で噂がえない人間にはならない。僕は半ば呆れながら
「それで……何でこんなところにいるの?」
「ウチの妹分が家がここら辺なんだよ。それで皆でそこで落ち合おうって話になっててさ」と、笑顔で答える万丈。
皆というのは、万丈皐月を慕う人間のことであって僕と山岸さんのような対等な人間関係ではない。万丈と関わる人間には大なり小なり上下関係が存在する。
「そうか……あの後、クラスの方はどんな様子だった?」
僕は、この一週間……学校の事は何も聞かされていない。連絡を取り合うほど仲のいい人間は僕にはいない。
「それを私に、聞くか?」
万丈はニタニタと意地悪そうな笑みを浮かべる。確かに、ここまで不真面目で通ってる人間に聞くというのもおかしな話か。僕はなら先を急ごうと思い、口を開こうとすると
「姐御っ!?」と勢い良く僕と万丈の間に飛び込んで来た女の子。
その子は、足首に届くあたりまでのスカートを履いており上は、長袖で背中に竹刀を携えている……なんで竹刀っ!?
髪は背中まで伸ばした茶髪で、手には指無しのグローブがついている。これでヨーヨーでも持ってたらまるで昔のスケバン刑事のようだ……。そんなことを思っていると女の子は懐からあるものを取り出しながら
「あたしの名前は、雨宮紗季……なんの因果かマッ……「言わせねえよっ!?」」
これ以上言ったら、本家大元たちが黙ってない……桜大門の本物のヨーヨー来ちゃうって。そのやり取りを見て、万丈が堪えきれなくなったのか腹を抱えて盛大に笑いだす。
「くはははっ……よく、そんな古いネタ知ってたなぁ」
いや、まぁ……全然知らないけど。流れぐらいならそれなりに、ね。
「オレ……初めて言われた時、全く分かんなかったのに……少し意外だ」
万丈……お前不良少女ならそれ位知ってろよ。不良少女全員が知ってるのが常識かは知らないけど。
「それで彼女の本名は?」
僕は、疑問に思ったことを聞く。ここまで、昭和の人気連続ドラマのパロディをしたが、名前までパロディに寄せる必要はない。
「いや、本名だぜ」
僕は、その言葉に万丈を見たあと、女の子をみる。仄かに頰を染めていた……どうやら少し照れてるようだ、カワイイ。と、そんな事より
「え?」
「……本名だ」
「……本当に」
「あぁ」
それはまた……親もこういうふうに、育ってほしくて名付けたんだな。
「紗季」
万丈が、雨宮さんの近くによると頭をポンポンとやると
「コイツ……黒崎集ってんだ。オレのダチだから、手出し無用だ」
雨宮さんは、万丈のその言葉に固まり彼女を凝視する。
「姐御……おめでとうございますっ」
しばしの後、ようやく口を開いたかと思うといきなり、腰を直角90度に折り曲げて意味の分からないことを言い出す。
「安心しました……こんな怖い人間に彼氏ができるのかとずっと心配でしたが、やっと出……ゴフッ」
万丈が雨宮さんの鳩尾に拳を叩き込む……うわぁ、痛そう。
「ちっげーよっダチだっつったろ!!」
大きな声で、否定する。万丈のその行為は怒ってるというより、照れ隠しの印象を受けた。
「なんだ……。でも男友達が出来ただけでも進歩ですよ」と、満面の笑みで頷く雨宮さん。
「テメェは、オレの保護者かなにかか」と、面倒くさそうに万丈は言う。
「"司"(つかさ)さんから言われてますからね……姉御を宜しくお願いしますって」
その名前を聞いた万丈は、バツの悪いといった表情を浮かべる。
――司って誰? 万丈のその様子を見て、雨宮さんは笑顔で
「さて、涼さんの家に行きますかっ」と、万丈に先を促す。僕はそれを見てスーパーに向かおうと足を動かすが
「えっ?」
雨宮さんにスーパーとは逆の方向に手を引かれる。
「何しれっと行こうとしてんすか? 黒崎さんも、行きますよっ」
そう言って、反対の手に万丈の手を取ると雨宮さんは歩き出す。
――思ったより、引っ張る力が強いだとっ!?
ちょっ、僕は関係ないんだけどぅ!? ねえ、聞いてますっ……お〜〜〜いっ!!!
◆◆◆◆◆
そして今に至ると言う訳で。
「まさか、銀狼と恐れられてるあの万丈皐月が男を連れてくるとはね」
いや、僕は行くなんて一言も言ってないし。連れてきたの、雨宮さんですけどね……なんて、怖くて言えねぇよっ!?
なんだ、この状況っ!? 目の前には、かの有名な連続ドラマのコスプレとしか思えない……っていうかコスプレをしてる雨宮紗季。銀狼と呼ばれる校内で悪い噂が絶えない事で有名な万丈皐月。
そして……その銀狼の右腕として、校内でも名を知らない人はいない。赤城涼……"紅"と周りから恐れられている人間だ。
何でも、中学の頃クラスメート全員を殴って辺り一面、そして自身までも血で紅に染めたことからそう呼ばれているらしい。
「だからダチだってっ!!」
万丈が赤城さんに顔を真っ赤にして抗議する。なんだろう……友達とは程遠い上下関係なんだろうと思ってたけど。これじゃあ、まるで……。
「なんか……姉妹みたいだ」
万丈、雨宮さん、赤城さんがキョトンとした顔で同時に見つめてくる。
――やばっ、声に出てた……。
「いや、あのっ友達よりっし、姉妹に見えるなと思ってっ」
慌てて僕は噛みながらも答える。
「姉妹、っすか……」
雨宮さんが感慨深そうにそのワードを口にする。
「いい得て、妙ね」
楽しそうに笑って告げる赤城さん。僕は、ふたりの顔を交互に見る……。どういう意味だろう?
「集」と万丈は僕の名前を口にしてから自分の胸を右手でドンッと叩いてから
「オレ達は、血は繋がってないけど……心は繋がってる、姉妹だっ!!」
僕は、その言葉に胸を打たれた……。そんな事を自信満々に胸を張って言える万丈が眩しく見えた。そうか……万丈に関わる人間には確かに上下関係は存在するけど、重要なときだけで普段は……家族同然なんだ。
凄いなと思う反面、あの時に万丈皐月が居てくれたら現在とは違った僕でいられたのかなと、少しどうしようもない過去を悔やんでしまった。
集会(?)も終わり、僕は外まで出る。空は漆黒に染まっていた……。僕はスーパーに向けて歩こうとすると
「集」と僕を呼び止める声……振り向くと万丈が笑顔で立っていた。
「何?」と僕が聞くと
「学校は心配すんなよ」と告げる彼女。それは、僕が昼間に聞いたことの答えだ。
「どうして?」
心配すんなよって僕のやった事は、それなりに重大だ。簡単な問題じゃない。
「全部片がついたんだよ……それにしても、あの子……良いやつだな」
と、満足そうな顔で答えてから
「じゃあな、元気そうで良かったよ」と、手を振って別れを告げると赤城さんの家に戻っていく万丈。あの子って、まさか……。
僕は、一人の女の子を頭の中で思い浮かべながら
昼間買い足しに行けなかったスーパーへ向かうのだった。
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