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あまり思い詰めないでね

 11月、少し前まで丁度良かった気温、気候が徐々に肌寒く、荒れてくる時期。僕は教室から見える見事に紅葉した木々を上から眺め見下ろしていた。こんなに紅葉していて綺麗でも、近いうちに枯れてしまうのかと思うと少し……物悲しい。

 希空ちゃんとはあの1件以降、時間さえ合えば会うようになった。会って何をするかと言えば、近況を聞いて悩みを聞くくらい。それも彼女の事だ。全部本心で言ってくるわけじゃない。だから僕は会うたびに坂巻希空に神経を集中していた。

 虐めを受けてたりしたら、今できる事で言えば励ましてあげるくらいの事しか出来ない。それだけでも彼女は嬉しいと感じてくれるかもしれない。だけど僕は、そんな事しか出来ない自分が歯痒いと感じる。


「集君」


 僕は声のした方へ目を向ける。

 目を向けた先には心配そうな表情で見つめてくる奏さん。


「なんか元気ないね……どうしたの?」


「うん。希空ちゃんの事で考えてたんだ?」


「そうなんだ……」 

 

 僕がそういった事で、何を考えているのか悟ったのだろう。さっきより、一層顔を曇らせる奏さん。


「気持ちは分かるよ。でもあまり思い詰めないでね、集君」


「ごめんね、奏さん……」


「もう。こういう時は『ごめんね』じゃなくて『ありがとう』でしょ?」


 僕はニコニコと微笑みながら言う彼女の顔を見て、心の内が暖かくなるのを感じた。そうだよな……。思い詰めても変わりはしない。そんな事は分かってるんだ。でも――


「希空ちゃんにも現れてくれると良いな……」


 ちゃんと希空ちゃんの事を理解してくれる、僕で言うなら奏さんみたいな存在が……。


「現れてくれると良いなってどういう事?」


 キョトン顔で尋ねてくる奏さん。僕はその顔を見て自分の顔に熱が集中するのを感じた。プイッと僕は奏さんから顔を逸らす。


「そ、それはその……理解者……だよ」


 僕はしどろもどろに答える。


「理解者か……そうだね。でも、まだこれから中学、高校があるんだから大丈夫だよ。きっと」


 彼女の言葉に僕はこくんと頷く。その通りだ。たまたま小学校でそういう存在に巡り会えなかったというだけで、中学高校はどうなるかは分からない。第一僕がそうだ。小学校中学校は誰も僕の事を理解してくれなかったし、僕も他者を理解しようとしなかった。

 だけど、この山龍高校に入り彼女……山岸奏に出会ってから僕の考え方が変わった。辛いのは自分だけじゃないって事を理解した。だからこそ僕は


「奏さん」


「ん、どうしたの集君?」


 小首を傾げながら聞いてくる奏さんに


「いつもありがとう……これからも宜しく」


「…………」


 僕の言葉を聞いて奏さんが無言で僕の事をジッと見つめる。僕は恥ずかしくなってその場から立ち上がり教室を出た。

 やっぱり慣れない事はするもんじゃないな。僕は廊下を歩きながら今の事を思い返しながらそう思うのだった――。

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