幸せになる事が
希空ちゃんとの事が終わってから1ヶ月……11月を迎えた。結局あの後希空ちゃんは泣きつかれるまで泣いた。泣き終わってからはどこか憑き物が落ちた表情を浮かべていた。
私はそんな希空ちゃんよりこちらに背を向けて彼女の事を眺めている集君に視線を移した。集君はどんな気持ちで希空ちゃんを抱き締めていたんだろう? 何かを願っていたのかな? うん、集君の事だから希空ちゃんの為になにか願ってたに決まってる。
いつも、冷めたような態度をしてるけど、なんだかんだ他人を放っておく事は出来ない。それが集君だって私は知ってる。そんな集君だから私は……。
「奏……」
教室の天井を自席に着いてぼーっと眺めながら考え事をしてる私に無機質な声が私の名前を呼び掛けてくる。
「なに凛?」
私は親友である冴島凛に目を向ける。彼女はいつも通りの無表情で私を見つめる。
「なに凛? じゃないわ。次、体育よ」
あぁそっか。もうそんな時間なんだ……。
私は席を立ち上がる。すると凛が心配そうな表情を私に向ける。
「大丈夫? なんか朝から様子が変よ……」
「大丈夫……。どこも異変はないわよ」
嘘を吐いた。本当は凄い気になってる事がある。集君が希空ちゃんをずっと抱き締めているのを見た時思った……。
私に対してもそんな風に何かを願いながらギュッと強く抱き締めてくれるのかな……と。はっきり言って私は希空ちゃんに対して嫉妬をしていた。私もあんな風に集君に強く抱き締められたいと、そう思ってしまった。ホント……私ってここまで嫉妬深い事を知って驚いた。それと同時に自己嫌悪した。
集君は私の物って訳でもないのに、勝手にそう思い込んでいる自分に、嫌気が差した。こんな事を集君に知られたら……絶対に嫌われる。でもそれでいいのかも知れない。だって、集君が好きなのは私じゃなく……皐月なんだから。これで2人がくっつけば、それで私は十分。
胸がチクリと痛んだ。うん分かってる。
心の奥底で私は集君の事を求めてる。だから集君と皐月がくっつく事を私は嫌だって感じてる。
「でもこればっかりは仕方ないよね……」
私は小声でそう呟く。
だって、私には……どうやっても覆せない運命があるんだから。
仮に私と集君が付き合ったら最後には絶対に彼を傷付ける結果になってしまうから……。
私は次の授業に向けて廊下に出て歩く。歩きながら私は思う。
集君が希空ちゃんを抱き締めて願ったのは、きっと彼女の為になるような事だと思う。
でも私は……、集君とのこの関係が卒業式まで壊れないでいてほしいってそれだけを切に願う。例え、それで私が幸せになる事が無かったとしても――。




