辛い思いしてきたんだね
「待ってっ!!」
私は目の前を走る坂巻希空ちゃんに向かって叫ぶ。さっきの怪我……あの子達に付けられたんだ、ひどい。でもそうなったのは私達のせいなのかもしれない。私達が変に希空ちゃんを庇うような真似をしたから。だからこの子は私達に余計な事しないでよって言ったんだ。
だから集君は希空ちゃんが駆け出した時追い掛けられなかった。私も普通追い掛けられないと思う。だけど、希空ちゃんは私が集君と初めて関わった時の集君に似てたから。だからこのまま、放っておく事が出来ないって何故かそう思ったんだ。
暫く走ると希空ちゃんはとある公園で立ち止まる。私もその姿を認めると少し離れた位置で止まる。
「はぁはぁ……っ……どうして……付いてくるの?」
息も絶え絶えの状態で、途中支えながらも希空ちゃんはそう問いかける。
「心配だからだよ……」
私はこちらに背中を向けている彼女に届くようにと願いながら、少し大きめの声で言う。
「っ……そういうのウザいのよっ!!」
希空ちゃんが振り向く。その顔は今にでも消えて無くなりそうなほど、切なく儚げな表情。彼女の目には大粒の涙が溜まっていた。
「私が、ママがフランス人でパパが日本人の間に生まれたハーフだから……? 私だって好きでこんな髪になったわけじゃないし、容姿だってそうよっ!!」
いきなり吐いた言葉に戸惑うけど、すぐに理解した。希空ちゃんはずっと今の言葉を言われ続けてきたんだ。
「辛い思いしてきたんだね……」
もっと希空ちゃんと早く会えていたら……。同じ学年だったら……。そしたら彼女をこんなにも孤独にさせる事はなかったかもしれない。いえ、そんなタラレバの話をしても仕方ないわね。それに希空ちゃんと同じ学年の時の私は、心が壊れてた。そんな私が他人に気遣える余裕は無かったと思う。……その時になってみないと分からないけど。
「分かったような事言わないでよっ!! 私はパパやママには虐められてる事なんて伝えてなんかない。今までは黙ってればすんだ……。でもこの怪我どう説明しても隠しきれないっ。どうしてくれるのっ!!」
私はその言葉に目を見開く。
「どう……して?」
真っ先に家族に伝えれば、少しは心が晴れるかもしれないのに。
「言える訳ない。私が日本に来たのはママが……パパの故郷を見てみたいって……言ったから」
私はその言葉に息を呑む。日本に来た理由は仕事の事情だって勝手に思い込んでいたから。それってどういう……。
詳しく聞こうと口を開きかけた瞬間、ポケットに入れていたスマホがメロディを鳴らす。私はディスプレイを確認する。集君からだった。
「……もしもし。今、小学校から少し離れた希望ヶ丘公園にいる。うん、分かった」
私はそう言って電話を切り、集君が来るまでの間希空ちゃんから家族事情を聞くことにした――。




