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僕のモノクロだった世界が君に出会ってから色付き始める  作者: 高橋裕司
第八章 それは長いかもしれない
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そんなもの信じられない

 朝ご飯を食べ終え僕達は2日目の全体行動に移った。だけど昨日同様、孤立している。


「……黒崎」


 不意に掛けられた声に僕はビックリする。だってその声は美紗ねえのものだったから。僕が後ろを振り向くと不機嫌な顔を全面に押し出している美紗ねえ。


「は、はい」


 うわぁ……これ怒られる奴かな、と思っていると


「あの女の子、坂巻希空ちゃんの事任せるわ」


 と僕の思ってる事と180度違う事を言われて僕は驚きで目を見開く。


「……どうかした?」


 真面目な顔で問いかけてくる美紗ねえ。どうやら教師モードのままのようだ。


「怒って……ないんですか?」


 真面目な顔をしてる美紗ねえに対して僕は丁寧な口調で問いかける。すると美紗ねえは、ふっと柔らかい笑みを浮かべる。


「あの時の集ちゃんの行動は正しいと思うわ。私だって同じ立場だったらそうしてたわ。ま、社会に適合するという意味ではだめだと思うけど」


 そうなんだろうか? 美紗ねえが村上を咎めたのは人として間違っていない筈。もし、社会が人道と反した事をするのが当たり前で求められてる事なら僕は……。


「それが社会なら僕は、一生子供のままでいい」


 僕がそう告げると美紗ねえは目を大きく見開く。


「悲しいわね。これからの未来を背負う若者にそんな事言わせちゃうなんて……」


 美紗ねえは僕の言いたい事を理解したんだろう?

 だから深く追求してこなかった。だけど、僕もそれが正しい事だとは思ってない。社会に溶け込む為には自分を押し殺さなくてはならない。でも僕は、それで人を蔑ろにする行為を当たり前とする社会に自分を染め上げるつもりはない。

 昨日と同じように全体行動が始まる。昨日と同じポジションで僕は前を歩く坂巻希空を見つめる。彼女の腰まで背中まで伸びている金の髪は、映画で見る女優さんよりかなり綺麗に見えた。そうして見ていたら、彼女が後ろを振り向き僕と目が合う。また目を逸らされて終わりかと思ったら彼女が近付いてくる。


「……あの人」


 小声で囁くように彼女が言う。……あの人?


「……雫って人」


 あぁ、木下さんの事か。


「彼女がどうかした?」


「なんで、私の気持ち……分かるの?」


 戸惑いの色を顔に浮かべながら坂巻希空は問いかける。

 そうか。自分の気持ちを見透かされて戸惑ってるんだ。


「えっと……希空ちゃん。それはね、木下さんも君と同じ立場だったからだよ」


 僕がそう言うと、彼女……希空ちゃんは大きく目を見開く。


「僕は話でしか聞いただけだけど、彼女は中学の頃から虐められててね。それがついこの間まで続いてたんだ。周りに頼れる人がいなかったから、だから心を閉ざして日々を過ごしてた。希空ちゃんと同じようにね」


「でもそんな風には……」


「まぁ少しその時の影響で吃りとかはあるけど、そうだね。それは多分心から信頼出来る友達が出来たからじゃないかな?」


 最も木下さんの場合は蓮君っていう幼馴染がいるからね。蓮君の方は幼馴染から卒業して恋人になりたいみたいだけど。


「そんなもの信じられない……。私にはずっと現れなかったし、これからもきっとないわ」


 冷たい声音でそう言うと希空ちゃんはまた再び列に戻っていく。

 僕はそんな彼女の後ろ姿を眺める。

 僕になにか出来ることはないか……。そう自身の心に問いかけながら――。

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