表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕のモノクロだった世界が君に出会ってから色付き始める  作者: 高橋裕司
第二章 銀狼と呼ばれた少女
17/179

銀髪ヤンキー少女

 あぁ、ジメジメするなぁ……。


 そう言えば、まだ6月の中旬だったと僕は1限の現国を受けながら今更ながら、そう思う。また、今年も梅雨の時期が来るのか……。

 凄く嬉しい。雨……最高だな。


 僕は、雨が好きだ。理由は、何かをしようという気が失せるから。

ずっと外出もせずに家でのんびり出来る。

 僕にとっては、オアシス……いや、パラダイスそのものだっ!!


 それにさ、雨って僕みたいなボッチにはありがたい事なんだ……だって雨が降ったら、外に出ようという気が失せて家にずっといる事に大抵はなる……まるで


 ――そこにいていいよって、言われてるみたい。


 ま、雨が降ってる日でも学校に出なくちゃいけないんだけどね……雨の日とか、学校休みにしてくれないかな。


 なんで、そういう話になったかというとそう言えば、明日から梅雨入りだったなと今思い出したから……え、真面目に勉強しろって?


 ムリムリっ……現国の先生、何言ってるか分かんないんだもんっ!!

僕は、左斜めのある空席に目を向ける。今日はまだ……学校1の"問題児"は来てないのか?


 ……と、そんなどうでもいい事を思いながら授業を受けるのであった。


◇◇◇◇◇


 午前中の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響くと僕は、鞄から弁当箱が入った袋を取り出しいつも、僕が食べる場所に利用している屋上へ向かう為に立ち上がる。


「黒崎君……どこ行くの?」

 山岸さんが、僕の元に来て問いかけると同時に寂しそうな眼差しで僕を見つめる。


 ―――くっ!!……なんだ、この可愛さはっ


 まるで小さい子供が、親から離れたくなくて引き止めようとしてるみたいだ……。けど、基本僕は一人が好きだから……こればかりは譲れない。僕は心を鬼にして彼女に告げる。


「実は……友達と一緒に昼食をとる約束をしていてね」と僕は済ました顔で、適当なことを言う。

 すると山岸さんは、視線を下に向け頬を膨らませる……やだっ何この子可愛いんだけどっ。


「黒崎君と昼食を一緒に取ってくれる友達なんている訳ないじゃんっ!!」 と涙目で、教室の中だと言うのに割と大きな声で言う山岸さん。


 え〜〜〜〜〜っ!? ……僕の見え透いた嘘がすぐバレるのはわかってたけど、そこで泣くっ!?

 なんか最近……山岸さんのキャラがすごいブレてるように感じる。出会った頃は、落ち着いた感じの子だったんだけど……。

 そういうのも、含めて本音……いや、本当の自分を僕に見せてくれているのだと思うと嬉しい。


「もう、いいもん……黒崎君の事なんて知らないっ」


 そう言い放つと同時に踵を返し自分の属している女子グループの元へ向かう山岸さん。

 相当拗ねてたな……可愛らしいけど。あぁ言う姿を周りにも見せて、接すればいいのに……。


 僕は山岸さんが女子グループの輪の中に入って行くのを見届けると目的の場所へ向かう……。そう、一人ぼっちの学生が行く3つ(決め付け)のうちの一つ……屋上だっ!!


 おっといけない……テンションが、上がってしまった……。屋上――それは、誰とも関わらず……誰にも縛られる事がない場所。


 今現在もお世話になってるけど、一人ぼっちの人間としてはどれだけ助けられたことか……。


 僕は、少しウキウキした気分で屋上のドアを開け放つ……。

 だが、視界に写った人物を見て僕は全身が強張る――そして、後悔した。目の前にいるのは、女の子だ―――それだけなら問題ない。


「――おい、何ジロジロ見てんだよ」


 問題は、この学校で不良少女として名高い……銀狼という通り名がついている万丈皐月ばんじょうさつきが僕の目の前にいると言う事だ。


 あぁ、ヤバイ……詰んだっ!! 僕はそう思いながら無理やり笑顔を作る――やばっ……頬骨が超痛い。


「サーセン、あの時に一つお伺いしたいのですが」


 彼女は面倒くさそうに舌打ちをした後、ギロリと僕を睨みつけながら


「……何だよ」と、ドスの聞いた声で問いかけてくる。


 こっこえ〜〜〜っ!!


 元々声が低いのだろう……でなければ、あそこまで恐ろしいと感じさせる迫力を出す事なんて、到底無理だっ……。

 というか、目がマジで怖い……血走ってて。今すぐにでも殺されるんじゃないかと思ってしまう。逃げ出したい恐怖心を必死に抑えながら


「そ、その……ここでご飯が食べたいなー……なんて」


 残念……恐怖心を抑え込むことはできても震える声までは、抑制出来なかったみたいだ。

 万丈……さんは、少し驚いたように目を軽く見開く。


 ―――え? 何その顔……。


 そして万丈さんは自分の座っている横のコンクリートをポンポンと叩きながら


「食べても良いが……ここに座って食べろ」と告げる。


 僕はその言葉に数十秒、放心する。嘘だっ……これは、何かの冗談だろ? と。意識が朦朧とする中で辛うじてそう思った。


「おい、聞いてんのかよ?」


 僕は、その言葉にハッとする……。いけないいけない。僕としたことがあまりに信じられない事が起きた事により危うく意識を失いそうなところだった。


 それで、現実逃避出来るのならそれが良かったんだけど。

 さて……ここで逃げるという手もあるが逃げたところで昼食の時間が無駄に失われるだけだ。

 なら僕の取る道は一つっ!! 僕は意を決して彼女が示した場所へ行き腰掛ける。


「へぇ、お前なかなか面白いな……。私にメンチ切られたら……皆尻尾巻いて逃げんのに」


 えぇ、そうでしょうとも……今あなた様の隣にいる僕が早く逃げ出したいと思っているのだからっ!!

 僕は弁当箱の入った袋を手先が震えないよう慎重に開けていく。そしてお弁当の蓋を開ける。


 メニューは、豚肉の生姜焼きとほうれん草の胡麻和え。マカロニの入ったグラタンを小盛りにしたもの……これがおかず。


 そして、ライス……。これを全部朝から調理、盛り付けしないといけないから大変だ……。一人暮らしは辛いね。


 僕は、手を合わせ小声でいただきますと言ってから弁当に口をつける……うん、我ながら上手い。と、まさか不良少女として有名の万丈皐月とこんな所で鉢合わせるとは。


 彼女の容姿は、他の人と比べるとかなり常軌を逸している。まず、低身長の僕としては羨ましい170cmの高身長の持ち主であり顔は、凛々しいと感じさせるほどに整っている。そして、その凛々しさに拍車を掛けさせているのが先程僕に散々睨みつけてきた一重瞼の吊り目……動物に例えるなら狼のよう。


 そして、何より……誰もが目を留めるであろう美しいショートの銀髪―――これで、女の子らしければモテるだろうに。

 それにしても……と、僕は万丈皐月の胸元に目を向ける。万丈皐月の胸がワイシャツからでも分かるほどに大きい……。よく教室で男子達が万丈の胸は大きいとか言ってるのをよく聞いてたけど確かにそのとおりだ。あまり、女子と付き合いのない僕は巨乳の万丈が隣にいてどぎまぎする……ゲフンゲフン、本題に戻ろうか……。

 狼のような吊り目に銀髪……万丈皐月が銀狼と呼ばれる所以だ。因みに、授業中僕が見ていた空席は……今ここにいる生徒、万丈皐月の席だったりする。つまり、僕と彼女はクラスメートなのだ。


 最も、僕はクラスで空気のように存在感を出来るだけ無くすよう努めていたし……彼女は、学校に積極的に通ってたわけじゃない。だから例え、僕に目立つ存在だったとしても……僕の顔を覚えられる筈が無い訳で―――。

 

「なぁ、その弁当……お前が作ったのか?」


 そんな事を考えていると、横から僕の脇腹を突きながら聞いてくる万丈さん。……脇腹突かないでくれるかな。


 心の中でそう愚痴りながら僕は頷く。すると彼女は、物欲しそうな顔で僕の顔を見てくる。……ま、まぁ少しぐらい良いだろう。

 僕は弁当を万丈さんに差し出す。


「……良いのかっ」 


 と嬉しそうな声をあげると同時に顔を輝かせる。そして僕が手にしてる箸と弁当箱を僕からひったくる様にして取ると、掻きこみ始める。


 少しぐらいって思ったけど、全部食べ尽くされそうだな。……よしっ今日の昼ご飯は諦めようっ!! 人生、諦めが肝心だからねっ♪


「ふぅ……美味かったぁ、サンキュー」


 彼女はそう言うと僕に空になった弁当箱を寄越す。僕は心の中で嘆息し、ずっと疑問だった事を尋ねる。


「あの……万丈さんは、今日はどうしてここにいるんですか?」


 そう、いつもならここに僕以外の人間は寄り付かない。


「あ~、少し見晴らしのいい場所で一人になりたかったんだ」


 万丈さんは寂しそうな顔を一瞬垣間見せた後、誤魔化すようにおどけて見せるように告げる。

 なら、僕お邪魔だったんじゃ……?


「お前が来たことで一人にはなれなかったんだけどな……。

お前、名前なんて言うんだ?』

 万丈さんは、空に目を向けながら問いかけてくる。


「黒崎……黒崎集です」


 僕が名前を伝えると、空に向けていた視線を僕に向け僕との会話で初めて見せる、とびっきりの笑顔を浮かべる。


「集……お前のお陰で今日は、楽しかった。ありがとうなっ」


 そう告げると万丈さんは、立ち上がり屋上から出ていく。なんか、色々噂があるけど……彼女は良い人なのかもしれない。



『あ~、少し見晴らしのいい場所で一人になりたかったんだ』


 あの時に見せた寂しそうな顔……。彼女も彼女で色々抱えているのだろう。それで一人になりたくてここに来た。案外僕と似た様な孤独を抱えてるのかもな……。


 僕は、彼女が去っていった方向を眺める。話してみて、嫌な感じは彼女からは一切しなかった……。


 また、今度一緒になったらもう少し話してみたいな……と、僕は銀髪ヤンキー少女のことを思うのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ