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僕のモノクロだった世界が君に出会ってから色付き始める  作者: 高橋裕司
第八章 それは長いかもしれない
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嫌われ者だからね

 翌日朝を迎えた僕達は朝食の準備をする。因みに昨日は焚き火で魚を皆で焼いて食べた。魚は下山にある川から釣ってきたものだ。焼いた魚に塩を振って食べたけど、非常に美味でした。

 そして、今日は山から取れた木の実をパンに挟んで食べるらしい。


「確か……昼はカレーだったか?」


 昼は各班鍋でカレーを作るという事になっている。

 俺はふと坂巻希空に目を向ける。彼女は昨日見せた驚愕の表情ではなく、昨日1日の大半浮かべていた、つまらなそうとも又全てを拒絶しているとも取れる顔をしていた。

 流石にカレー作りくらいで仲間外れやいじめなどはしないだろう。この時の僕はそう思っていた。だけど、その時になってその考えは甘かったと思い知らされる。


「……酷い」


 僕の近くにいた木下さんが震えた声で言う。

 確かに酷い。料理の器は班ごとに全員分食器が配られてるはずなのに、坂巻希空の班だけは何故か1人分の食器だけ足りなかった。それなら先生に言えば済むはずなのに、誰も言いに行こうとしない。坂巻希空本人もだ。そして1番許せないのが


「……何やってんだよ」


 僕は奥で死んだ目をしているこの山龍小学校の教師に目を向ける。

 あの人はこの生徒達を見回る義務があるはずなのに、昨日からそれらしい仕事を一切していない。


「ん?」


 途端にその教師の顔が恐怖で慄いたように見えた。

 どうしたのだろうと思って見ていると美紗ねえが現れたのを見て納得する。どうやら相当昨夜の話し合いがトラウマになってるらしい。まぁ美紗ねえ怒ると怖いもんな。

 僕は坂巻希空に視線を戻すと自分の分のカレーを持って彼女の元へと歩いていく。坂巻希空の元に着き、彼女の顔を見て驚く。無表情だったからだ。なんでそんな顔をしてるんだよ? 今だって辛いはずなのに。苦しいに決まってるはずなのに。

 そこで気付く。僕もそうだった……。

 僕が虐められてる時もう誰も助けてくれないなら、何も感じないように振る舞えばいい。僕はそう結論付けて表情を感情を……押し殺したんだ。いやその表現は正しくない。押し殺したんじゃなく見て見ぬ振りをしたんだ。

 坂巻希空はその時の僕と全く同じだ。周りに頼れる人間がいないから。だからこうやって自分の気持ちを誤魔化す事で守り続けてきたんだ、自分を――。


「僕のカレー、やるよ」


 僕はそう言って彼女の前に置かれているテーブルの上にカレーを置く。それを仲間外れにしていた子供達がつまらなそうな顔をして見ている。


「あの……なんでこんな事をするんですか? お兄さんには関係ないと思いますけど?」


 オシャレに着飾っている女の子が丁寧な口調で言う。最近の子供は随分とませてるんだな……と関心する。


「いや関係あるよ。今回だけとはいえ、君達のお手伝いをする為に来たんだ。これくらいの事はするさ。例え、君達がこの子の事を虐めてるんだとしてもね」


 僕がそう言うと、坂巻希空の班メンバー全員が顔を伏せる。


「僕は嫌われ者だからね。思った事はすぐに言っちゃうんだ。今回の事でいうと君達、ダサいよね」


 僕は口調を強くして言う。


「こんな事して楽しいのかな……? なら僕も同じような事をしてあげようか?」


 僕はそう言って、カレーが盛られた食器をそのませてる女の子の分だけ取り上げる。


「か、返してよっ」


 女の子が涙目になりながら言う。


「え、なんで? なんで返さなきゃいけないのかな? 理由を教えてよ?」


「そ、それは……」


 女の子は僕の言葉に口を噤む。


「答えられない? だよね……だって君は僕と同じ事をその子にもしたんだからね」


 僕は乾いた笑い声を上げる。それを見て耐えられなくなったのか、1人の男子が声を上げる。


村上むらかみ先生っ!! このお兄さんが虐めてくるっ!!」


 へえ〜、あの教師村上っていうんだ。

 僕がその村上に目を向けると、彼女はビクッと肩を大きく震わせる。


「村上先生〜。まさか、ここで注意する訳じゃないですよね〜。注意する資格なんて貴女にはないですよ」


 僕がそう言い放つと顔を蒼白にさせる。

 そして僕は坂巻希空の肩をポンと叩く。


「こんな所で食べてもしょうがないし、こっちに来なよ?」


 僕はそう言って片方の手で彼女の手を取り、もう片方に彼女の分の食器を手に取る。そして立ち上がらせると、彼女は訳が分からないというような目を僕に向ける。僕はその視線を無視して歩き出す――。

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