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頑張ったな 中

「離せよっ」


 その言葉と同時に万丈の手首を掴んでいた俺の手が振り払われる。俺は足を止め後ろを振り向く。


「なんて顔してんだよ……お前」


 その顔は今にも泣き出しそうなほど儚げで触れれば消えそうという脆いものだった。


「う、うるさい。見てるんじゃねえ」


 俺は考える。

 そうか、コイツがこうなってんのは多分……。


「集に振られたのか?」


 万丈がその声を聞いて目を大きく見開く。


「な、なんでそれを知ってるんだよ?」


「肝試しの時、冴島から聞いたんだよ」


「そうか、聞いちまったのか……で?」


 万丈が試すような目で俺を見る。


「で? ってなんだよ。でっ? って」


「お前はオレが集に告白すると聞いてどう思ったんだよ?」


「それは……」


 なんだ? 言葉に詰まって上手く言葉を紡げねえ。

 ていうか、俺にはそもそも関係ねえだろう。何を言い淀む必要があるってんだよ?


「ま、まぁ……驚きはしたけどよ」


 俺はそこまでなんとか言葉にすると一旦視線を万丈から外し、数秒経ってから万丈に戻してアイツの顔が触れられる距離まで歩み寄り


「……頑張ったな」


 と俺は万丈の頬に手を添えながらただ1言そう呟く。

 すると万丈の顔がみるみる紅潮し、熟れた林檎のように真っ赤だ。目も潤んで涙目になっている。


「……っ」


 俺はその様を見て恥ずかしくなり目を逸らす。なんだよ、それじゃまるで俺の事好きみたいじゃねえか?

 俺は恥ずかしい気持ちを誤魔化す為に再度万丈の手を掴み取り歩く。


「おい、どこ行くんだよ?」


 俺は後ろから聞こえる万丈の声を無視して無言で歩く。

 駅から外へ出ると俺はとある場所で止まる。


「……ここは」


 万丈が訝しむように周りに目を向ける。


「駐輪場だ」


 そう、ここは駐輪場。周りには自転車専用の置き場、並びにバイク置き場と別れていて、それぞれ置かれている。


「なんでこんな所に来たんだよ?」


「決まってるだろ? これからバイクに乗って移動するからだよ」


 俺の言葉に万丈は声にならない声を上げる。

 俺はそう言ってポケットから鍵を取り出すとバイクに跨がる。そして鍵を差し込み回してエンジンを掛ける。


「おら、乗れよ」


 その言葉と同時に俺はシートを開けてその中からもう1つのメットを取り出し万丈に投げる。万丈はそれを軽々と受け止める。


「乗れって……。しかもそれ、()()()()()かよ」


 こいつは驚いた。どうやら万丈はバイクに詳しいみてえだ。そうこれは日本ではアメリカンという名前で通っているバイク。正式名称はクルーザー。カラーリングは黒を貴重としたもので、ゆったりと運転する時などに最適のバイクだ。これは日本製のバイクだけど、クルーザーはアメリカ製が多くその為クルーザーの事をアメリカンと呼ぶ人間が多い。

 

「あぁそうだな。だけどこれは日本製のバイクだぜ……。と、んな事はどうでもいい。早く乗れよ?」


 万丈はそう言われて、渋々といった調子でメットを被ると俺の後ろに座る。


「腕俺の前に回せよ。落ちちまうぞ?」


「……っ」


 なんか、声にならない声を後ろから聞こえたような気がするが……気のせいだな、うん。

 暫くすると、万丈の両手が俺の前に回されギュッと結ばれる。そしてあろう事か万丈の身体が全体的に俺の背中に密着する形になる。


「……っ。行くぞっ!!」


 俺はそう言って、キックを上げるとアクセルを吹かし走り出す。

 バイクは良い。風が俺の身体に勢い良く吹いてきて気持ちいいっていうのもあるけど、なんか風と一体になれる気がして……落ち着く。


「気持ち良いな」


 後ろで嬉しそうな万丈の声が聞こえる。


「だろ? これだからバイクってのは止められねえよなっ!!」


 その言葉を言い終えると同時に後ろから


「そこのバイク止まりなさいっ!?」


 という拡声器を使ったような独特な機械音と共に大きな声が後ろから木霊する。俺は後ろに目を向ける。

 すると、サイレンの明かりを点けたパンダ(パトカー)がいた。


「あちゃ~、ニケツ(二人乗り)が速攻バレちまうとはな」


 俺は再度前に顔を向けると


「万丈っ!! 俺の身体にしがみついてろっ!!」


 俺はそう言うと同時にアクセルを更に吹かす。アメリカンはさっきより速度を上げ俺の身体に先程より強い風が吹き付けてくる。俺はそんな事など気にもせず、更にアクセルを吹かし続ける。


「待ちなさいっ!!」


 それでも尚、パトカーは追い続けてくる。今度はサイレンが辺りに響き渡る。


「歩っ!!」


 突然、万丈が俺を呼ぶ。


「なんだっ!?」


 俺は大声で万丈を促す。


「なんか、楽しいなっ!!」


 後ろにいるから顔は見れねえけど、コイツはきっと満面の笑みでそう言ってるんだろうな。


「あぁ、そうだなッ!! このまま、突っ切るぞっ!!」


「おうっ!!」


 俺はアクセルを極限まで吹かし、トップギアに至らせる。

 あぁ最高だ。この時間がいつまでも続いて欲しい……俺はそう思いながらバイクを走らせた――。

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