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僕のモノクロだった世界が君に出会ってから色付き始める  作者: 高橋裕司
第七章 オレの王子様なんだって
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そんな君だから

 僕は別荘の出入り口付近で腰を下ろして海で遊んでいる奏さん達を眺める。完全に立ち直れてはいないみたいだけど、天道も砂浜まで出て遊んでいた。


「クロは行かないのかい?」


 後ろから声が聞こえて僕は振り向くとニッコリと微笑んでいる的場さんがいた。


「行かないですよ。それと()()ってなんですか?」


「え? いや普通に黒崎だから()()なんだけど。君はもしかして天然なのかい?」


 やばい。冴島さんの気持ちが今ならよく分かる。すごくウザい。


「……さっきは悪かったね」


 いきなりの言葉に僕は戸惑う。


「さっきは悪かったって……」


「今朝の事だよ。奏お嬢様が凛ちゃんを咎めただろう」


 あぁ、あの件か。


「別にいいですよ」


 僕の言葉に的場さんは意外そうな顔をする。


「理由を聞かないのかい?」


「気にならないって言ったら嘘になります。でも他人に言えない事の1つや2つあるじゃないですか?」


 だからそれを無理やり聞き出すような真似僕には出来ない。


「なるほどな。そんな君だから奏お嬢様を以前の人柄に戻してくれたんだな」


「以前の奏さん?」


「あぁ、奏お嬢様の家族事情についてはどのくらい知ってるんだい?」


「実の両親が亡くなって今は叔父である呉島宗吾さんに引き取られて一緒に暮らしてるという事までは聞いてます」


 的場さんはそれを聞いて笑う。


「アハハ、本当に君は奏お嬢様に信頼されているんだな」


 信頼……。本当にそうなのだろうか? 奏さんが僕の事を友達だと思っているのは本当だって信じられる。でも彼女の心に抱えてる闇を僕は払い除けてやれるような事をなに1つしてやれてない。そういう意味じゃ僕は奏さんに本当の意味で信頼されてないんじゃないか?


「あぁ、壮ニ(そうじ)様と香那かな様がご健在の時はもっと明るくて活発的な子だった」


 多分その壮ニ、香那という人が奏さんの亡くなった両親の名前だ。


「元々、ご主人……宗吾様と壮ニ様はとある事を切っ掛けに別々に暮らしていた。だから壮ニ様と香那様が亡くなってここに来た奏お嬢様は、居場所があるようでなかったんだ」


 そりゃそうだろう。宗吾さんとその奏さんの父である壮ニさんの間に何があったかは知らないけど、別居してたって事は極力付き合いがなかったって事。そんな所にいきなり入れられたら不安になって僕だったら心が壊れてるだろうな。今だってそうだ。僕は母さんの死を完璧に乗り越えられていないんだから。


「しかも宗吾様は当時壮ニ様を憎んでる節があってね。その娘である奏お嬢様に当たりが厳しかったんだ。だから尚更孤独感は強かったと思う」


 僕はその言葉を聞いて憤る。

 小学生の女の子に当たるなんて大人以前に人として最低だっ!!


「中学になってからは空元気って感じだった。その頃には俺はここの管理人だったけど、たまに顔を見せに来てくれたお嬢様は無理をしてるのがひと目で分かった。このままじゃいつか壊れる……そう感じた」


 そこで的場さんは柔らかな笑みを浮かべて僕を見る。


「でも君が変えてくれたんだろうな。あんなにベッタリされて若いね、コノコノッ!!」


 そう言って肘で僕の腕を突いてくる。


「ちょっ、茶化さないで下さいっ」


「茶化してないよ? 君はもう少し人の気持ちに敏感になった方が良いんじゃないかな?」


「え?」


 何言ってるんだこの人?


「君は無意識にいろんな人を惚れさせてると思うよ? 現に俺が女だったら惚れてるね」  


「なっ」


 何気持ち悪い事を言ってるんだよ。やばい、急に鳥肌が立ってきた。


「とまあ冗談は置いといて」


 あ、冗談なんだ。良かった。


「奏お嬢様の事をこれからも宜しくお願いします。俺にとっては()()()()()()()()の次に大切な存在だから」  


「え、それって……」


 僕はそう言うけど、的場さんはそれ以上何も言わず僕の横を素通りしていく。

 僕はそんな的場さんの後ろ姿を眺める。その背中からは哀愁が漂ってるように見えた――。

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