こ、怖くなんかねぇよっ
「さぁ皆っ、クジを引いてね」
奏さんは笑顔でクジの入った四角い入れ物を皆に差し出してくる。僕等はそれぞれクジを引いていく。
「1番か」
僕がそう呟くと
「ホントかっ!? ならオレと一緒だなっ!!」
と楽しそうに万丈が言う。
内訳は次のようになった。1番は僕と万丈、2番は天道と本城さん。最後に3番は奏さん、冴島さん、歩。4番目に蓮君と木下さん。これで全グループだ。
「行く順番も番号通りってことなのかな?」
僕が奏さんにそう聞くと
「うん。……そうだよ」
と彼女が答える。
なんだろう? 凄い元気がない様に見えるけど。
「よし……な、なら行こう、じゃねぇかっ」
ちょっと待て。
普通に無理してますよね。僕はそう思ったけど先を歩く万丈に黙って付いていく。
奏さんの話では僕達がスタートした10分後に2番目のグループが出発する段取りになっている。
「なぁ」
僕はスタートしてから足がガクガクと震えている万丈に声を掛ける。森林の中では蝉の鳴き声が辺りに響き渡る。
「な、なんだよ……。ビビってんのか?」
「いやそれ完全にお前だよねっ!!」
こんな時まで強がっている万丈に呆れる。
「苦手ならちゃんと断っとけば良かったのに」
「んなこと、出来ねえよ……」
寂しそうな声で言う万丈。
「だって友達との大切な思い出になるんだからよ」
「…………」
言われてみれば確かにそうだ。
今まで皆とご飯を食べに行ったことはあるけど、こうして皆でどこかに泊まるということはした事なかったな。
「そうか。それなら皆と出来るだけ一緒にいたいって思うな」
「だ、だろ?」
「だからって怖いの苦手なのに参加する必要はないだろ」
僕が呆れながら言うと
「こ、怖くなんかねぇよっ」
あれ?
今目の前で身体全体ガクガクと震えているように見えるけど、まだ怖がってないって強がってる。
「はぁ。分かったよ、ならとっとと終わらせよう」
僕はそう言って彼女を追い越してどんどん先へと歩き出す。
「ちょっ、ちょっと待てよ」
慌てた様子で万丈が声を上げる。
「なんだよ?」
僕はその声に万丈の方を振り向かないまま立ち止まる。
「いやその、少しくらい……オレにペース合わせてくれても良いんじゃないかな〜って」
控えめに言ってくる万丈。怖いからなるべく歩調合わせてくれって素直に言えばいいのに。僕は万丈を振り返る。
「怖くないんだろ?」
僕は小馬鹿にするような声音で万丈に言う。
「うっ、そうなんだけど……。分かった!! 怖いからどんどん先に行くのやめてくださいっ!!」
ギュッと強く目を瞑って顔の前で両手を合わせ懇願してくる万丈。瞑った目から薄く涙が溢れる。こうしてると普通の女の子にしか見えないな。
「分かったよ。ほら」
僕はそう言って彼女に手を差し出す。
「……これは」
目を開けた万丈が僕の差し出した手を見て戸惑う。
「こうすれば怖くないだろ?」
僕は彼女の手を取って説明する。
「あ、ああっ」
その様を暫く呆然と眺めていた万丈。そしてニッコリと笑って頷く。
「よーしっ。じゃあとっとと行こうぜっ!!」
そう言って歩き出す万丈を見て僕は笑う。
全く調子が良い奴だな……。僕はそう思いながら祠に向けて森林の中を歩いていく――。




