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僕のモノクロだった世界が君に出会ってから色付き始める  作者: 高橋裕司
第六章 これから変われるよ
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悪く思うなよ

 ラーメンを食べ終え僕は川崎さんの分も合わせて2人の野口英世を失った僕は帰路につく。辺りは薄暗くなっていて僕の心の中は恐怖心が募っていく。

 

「……?」


 なんだろう……。

 誰かの視線を感じる。僕は後ろを振り向くけど誰の姿も見えない。再び前を見て歩き出すとまた誰かに見られてるような感覚を覚える。

 僕は怖くなりその場を全速力で駆け出す。すると後方からタタタタッと追いかけてくる足音が聞こえる。それも複数。


「クソッ!!」


 僕はそう言いながら全力で駆ける。

 でもどんなに走っても僕を追いかけてくる足音は変わらず鳴り止まない。僕は走っても無駄だと悟り立ち止まって後ろを振り向くと


「ウグッ!!」


 顔面を思い切り殴られ僕は後方へ飛ばされ尻もちをつく。

 痛いのを堪えて僕は目を開ける。するとそこにいたのは


「よう大将……」


 歩に詰められていた烏鷺帆炉珠(ウロボロス)の天空寺宇とその他に仲間と思われる2人がいた。天空寺以外片手にバットを持っている。


「俺に散々恥かかせたんだ……。悪く思うなよ」


 そう言って天空寺が右手を上げると奥にいた2人が僕目掛けて走り出す。


「……チッ」


 僕は踵を返し走り出す。


 ――ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいッッ!!

 

 相手は2人でバットを持ってる。捕まったら最後骨という骨が砕けるまで殴られるに決まってる。


「待てやオイゴラッ!!」


「痛くないようにしてやっからよっ!!」


 追いかけてくる男2人が各々楽しそうに叫ぶ。


「ヒィィィッッ!! 誰が待つかってのーーっっ!!」


 俺は尚も走り続ける。

 本当にヤバい。なにか良い手……良い手はね絵のかっ!?

 俺はそう思いながら周りに目を向ける。だが周りには人っ子1人いない。……くっ、全部織り込み済みだってかっ。


「……うわっ」


 周りを見ながら走っていたせいか僕は躓いてその場でコケる。

 追ってきた男共の足音がゆっくりになる。


「やっと追いついた……」


「さて、お楽しみの時間だ」


 2人はそう言いながら僕の元へ歩みを進める。

 終わった……。僕は絶望の淵に立たされこれまでの事が頭の中で凄まじい速さで駆け巡る。

 家族の事、自分の身体の事、虐めの事。思い出すのは良いけどどれも良い思い出じゃない。いや、去年からの思い出は良い思い出だったな。

 山岸奏と知り合ってから僕の周りは大きく変わった。まず彼女が僕の友達になり、その次に学校1の不良少女の万丈皐月が友達になった。天道や本城さんとも色々あったけど今では仲良くやっている。そして奏さんの親友である冴島凛とも友達になり、最近では木下雫も友達になった。

 そこでさっき別れた川崎蓮の姿が頭に浮かぶ。そう言えば、僕野口英世2人失ったんだよな……。これで終わりとか切ないな。

 

「……なんだ?」


「やる気かよ?」


 突如立ち上がった僕に男共は足を止めニヤニヤ顔で僕を見る。

 僕は目の前にいる2人を睨みつけ


「野口英世を2人失ったまま死ねるかっての!!」


 僕はそう言い2人の元に駆け出す。

 僕の言った言葉に理解できなかったのかポカンと口を開けたまま2人は固まる。


「グフォッ」


 僕はその内の1人の顔面に拳を叩き込む。

 それを見た1人が正気を取り戻しバットを振るう。


「……っ」


 間一髪の所で僕はそれを躱すと一気に距離を詰めて男の腹部に膝蹴りを入れる。


「……ガッ」


 男は息苦しそうに呻いた後その場に腹を抱えて跪く。

 僕は男の頭を両手で押さえて足を後方に上げてから勢いを付けて、男の顔目掛けてキックする。サッカーボールキックというプロレスの技だと歩に教えられた。まさかこうして使う日が来るとは。


「これで終わり……か?」


 サッカーボールキックを食らった男が仰向けに倒れてピクリとも動かないのを見ながら僕はそう口にした瞬間……


「……グァ」


 後頭部に衝撃が走った。

 そしてじわじわと痛みが次第に広まっていく。

 

「アハハハッ」


 歪む視界の中で愉快に笑う男の声。この声は天空寺宇か……。

 

「お前が悪いんだよ……お前がっ!!」


 狂気に満ちた声が僕の鼓膜に響く。

 頭がガンガンする。出来ればもう少し静かに喋って欲しい。

 あぁこのまま僕は死ぬ、のか……。


『……バカ』


 僕が情緒不安定の時に言った事が原因で泣きながらそう呟いた奏さんの姿が脳裏に浮かぶ。そうだ、ここで僕が倒れたら……また奏さんを悲しませちゃうじゃないかっ!! 僕は倒れるのをなんとか足を踏ん張る事で阻止する。そして僕は後ろを振り返る。


「……ヒッ」


 天空寺は僕を恐怖に染まった目で見つめる。


「おい、嘘だろ? 普通立つだけならまだしも歩けねぇってっ!!」


 僕が一歩、また一歩と近づいてる間に天空寺がそうほざく。

 僕は天空寺の前に辿り着くと肩を掴む。ビクッと肩を震わす天空寺。


「なんなんだよ、お前なんなんだよっ!!」


 そう言って、バットを高々と振り翳す。


「僕は……僕だよ」


 薄れいく意識の中僕は拳を握りしめる。


「歯ぁ食いしばれよ……」


 天空寺がバットを振り下ろす。

 なんだろう……。そのバットがスローモーションに見える。


「ウオオオォォォッッッ!!!」


 僕は大声を上げる。そうでもしないと拳が振れなかったから。今生きているのか分からなかったから。僕の振るった拳が天空寺の顔に当たる。その当たった瞬間も僕の目にはスローモーションに映る。天空寺の顔が僕の拳によりゆっくり顔の形が変形していく。骨の軋む音が妙に耳に響く。だけど不思議と腕は痛くなかった。もう感覚が麻痺しているんだなと理解する。

 たっぷりと時間をかけて倒れた天空寺。僕はそれを見届けた後その場で崩れ落ちる。もう少し……。こんな所で死ぬ訳にはいかない……。

 僕は重たい瞼が完全に閉じる瞬間に心の中でこう呟く。


――ごめんよ、奏さん。


 僕は薄れいく意識の中完全に意識を手放し闇の中に沈んでいく――。

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