友達になってくれませんか?
第一章完結です。
ここまで読んでくださった方、誠にありがとうございます。
そしてこれからも宜しくお願いします^_^
彼女、山岸奏さんが僕の背中にしがみついて泣くこと数十分……僕は彼女が泣き止むまで、待ち続けた。
一度は離れろと言おうとした……が、それは出来なかった。背中を掴む山岸さんの手が震えていることに気付いたのだ。
考えてみれば、当たり前だ。さっきまで彼女は犯されかけていたのだ。女の子なら、恐怖を感じないわけがない。もっと……早くに助け出すべきだったと改めて思う。
なにを悠長に証拠なんか集めてんだっ……僕は。でも、颯爽と行けなかったのは僕のキャラじゃないと思ってしまったから。
ああ言うことは……僕みたいな背も低く顔が中の下レベルの奴じゃなく、背も高くてイケメンの奴がやるべきだって思ったから。でも、中山が山岸さんにキスしようとした時
何故か嫌だと思った……どうしてそう思ったのかは分からない。彼女が酷く傷つくと捉え僕はそう思ってしまったんだろうか?
この気持ちは分からないが山岸さんに大事がなくて本当に良かった。
◇◇◇◇◇
やっと泣き止んだ山岸さんが赤い目を擦りながら僕の顔を見つめる。
僕は今朝からずっと思っていた事を今伝えようと思い口を開く。
「……山岸さん」
僕がそう呼ぶと、山岸さんは肩を震わせる。
「この前の事……ごめんなさい」
僕は深々と山岸さんに向けて頭を下げる……。それと同時に山岸さんが息を呑む気配が伝わる。
「酷い事を沢山言って山岸さんの事をいっぱい……いっぱい傷つけたっ」
途中僕の声が涙声混じりになっていく……。思えば人に対して謝るという行為はいつ以来だろう? 思い出せないくらい、僕は人との交流を避けてきた。
そんな僕の謝罪を受け入れてくれるのか分からない……けど
「もちろんっ……許し、てくれとはっ……言わ、ない」
嗚咽混じりに僕は言う……そう。許す許さないじゃない……僕がそうしたいと思ったからだ。
「それ、でも……ちゃんとっ……あや、まりたかったんだっ」
僕は目を強く瞑る……凄く恥ずかしい。謝るのはこんなに恥ずかしかったっけ?そんなことを思っていたら
「――のよ」と山岸さんの掠れててよく聞き取れない声が僕の耳に辛うじて届く。僕は顔を上げ、息を呑む。
彼女の瞳が濡れていて、今にも泣き出しそうだったからだ……。何か泣かすような事したっけ!? と戸惑っていると
「なんでっ……なんで黒崎君が謝るのよっ」
と山岸さんの大きな声が体育準備室に響き渡る。いきなりの事に僕は目を見開き動揺していると。
「ほんと、はっ……私がっ黒崎君に……謝らなきゃいけないのにっ」と、涙声でも構わずに叫ぶ……まるで小さい子供駄々をこねる様に。
「私っ……私なのっ……私がっ机、やっ椅子をっ……全 部、倒したのっ」
あぁやっぱりそうか……この体育準備室にたどり着く前に、もしかしたらと思ったけど。それなら、山岸さんが僕にいつも向ける笑顔に納
得がいく。
どこか陰を感じていた笑顔は、罪悪感によるものだったのか……
「なんで、あの時手を上げたのよっ……あんな事しなかったら貴方がここまで苦しむこともなかったのにっ!!」
彼女……山岸奏は瞳を濡らしながらそう叫ぶ。今すぐにでも泣き出しそうな顔は、不覚にも可愛らしいと思ってしまった。
そして、彼女は僕を責めたくて言っているのではないと、痛いほど伝わってくる――だからこそ
「ならアンタは、なんであの時名乗らなかった」
彼女は僕の言葉に息を呑む。しかしその戸惑いの色が宿った瞳が全てを物語っていた……そう、誰だって自分が傷つきたくないと思っているのだ。
故に僕は思う。常に孤独でありたいと。
僕は、窓から覗く夕焼けを眺め山岸奏と出会ってからの事をひとしきり振り返った後、僕は山岸奏へと再度視線を向ける。
山岸奏は自分が傷付くと分かっていても……なお。こうして、打ち明けてくれた……おそらく
彼女は、色々考え込んだのだろう……このままで良いのかと、何度も心の中で自問自答を繰り返したに違いない。
山岸奏は、僕の知っている人間とは違う……僕が知っているのは自分だけが良くて他人を平気で蹴落として自分に都合が悪い時は言い訳をして逃げる……。僕の周りはそんな人間ばかりだった……。
だが、山岸奏はそんな人間達とは違う。彼女は自分が悪い事をしたらそのままにせずちゃんと自分が悪い事を認め謝る事が出来る……だ
からこそ
「ちゃんと自分がやった事を言い訳もせず……認めてくれてありがとう」
僕は、彼女を受け入れたいとそう思った。山岸奏は僕の言葉を聞いて目に溜まっていた雫が頬に伝う……。そして、僕の傍まで来ると……。
「ごめ、んなさいっ……ごめんなさいっ」 と僕の胸に顔を埋めて謝罪の言葉を泣き止むまで口にするのであった。
◇◇◇◇◇
漸く、泣き止んで落ち着いた彼女は少し頬を染めながら
「……でも私、怒ってはないから」と、告げてくる。
はて? どういう意味なのだろうか……? 僕が疑問符を浮かべた顔を見て彼女は補足する。
「黒崎君が、私に言ったこと」と。
……どうして?
あんなに言われたら嫌だと思うものじゃないのか? フッと山岸奏は軽く微笑む。
「いつも、人のご機嫌ばかり伺ってさ……確かにその通り私はいつも、人に気を遣ってばかりだった」
彼女は視線を下へ向けるとそれまで明るかった表情がすぐに暗いものへと変わる。
「ある時思ったの。私の居場所は本当にここなのかなって?」
山岸奏は、色々と苦労をしてきたんだろう……。でなければ、全部の机や椅子を倒したりはしないだろう。
流石に彼女の過去を聞く勇気は僕にはないし、第一そういう事を容易く聞けるような間柄でもない。
すると、彼女は顔を勢い良く上げた……。その表情には、さっきまでの陰りは一切ない。
「でも、私……黒崎君といると一切気を遣う事がなくて……居心地がいいのっ……だから」
そこで言葉を切ると、山岸奏は顔を俯かせる……。だが、彼女は僕より背が高い。よって僕が彼女を見上げる形である訳で……。その顔は赤く染まっていた。
そして、意を決したかのように僕に視線を合わせると
「……私と友達になってくれませんか?」
消え入りそうなか細い声で、僕に手を差し出しながら言う。
彼女は、僕とこれ以上目を合わせるのが恥ずかしいのか手を差し出すと同時に、目を瞑ってしまう。
差し出された手は小刻みに震えていた……。相手が僕だから、断られるかも知れないと思われているのだろう。
今までの僕だったら、そうだったかも知れない……。けど、今は――
僕は差し出された山岸奏の手を両手で包み込むように握る。すると、彼女は閉じていた目を開き呆然と僕を見つめる。そんな彼女に笑いながら
「僕で良かったら、宜しくお願いします」と僕は告げる。
喜んでくれるかと思ったら、彼女は少し不機嫌そうに頬を膨らます。
「な、なにっ?」と問いかけるとこれまた恥ずかしそうに視線を下に向けた後
「……友達なんだから、名前で呼んでよっ」と、途中から僕の目を見ながらそうお願いをしてくる。
そう言えば、心の中では山岸さんと呼んでいるが面と向かって呼ぶのは初めてだ……。
「やっ……山、岸さん」
恥ずかしさの余り噛みながら呼ぶ僕。彼女はそんな事を見て嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
「これから宜しくねっ……黒崎君」と、山岸奏は噛み締めるように僕に言うのであった。
こうして、僕のモノクロの世界にほんの少し……。少しずつだけど確実に、色付き始めるのだった。
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