逃げちゃだめだって思うよ
放課後になって僕は速攻廊下に出る。
「……おっと」
僕は廊下を出てすぐさま急ブレーキをかける。目の前に川崎さんが現れたからだ。
「……なんでここに?」
「この後食べに行くって誘ったのはそっちでしょ……。待ち合わせの場所聞きそびれたからここに来たんだけど」
少し意外だった。
人と関わらないようにしてる印象だったから、約束をしてもすっぽかされるかなと思っていたのに。
「そっか。うんっ、早速行こうよ」
僕はそう言って笑う。
川崎さんは良い人なんだって思う。
人に興味ない振りしても彼は……。
『そのしず……っ、木下さん今日は来てないんですか?』
大事な人の事をいつだって気に掛けている。
僕の時はどうだったろう……?
川崎さんと僕は似てるけど全然違う。僕は多分川崎さんみたいにストレートには言えない。もっと回りくどくやってただろうな。
僕達は学校を出てこの前皆で食べた駅近のラーメン屋に向かった。
席に着くと僕達は各々食べたい物を注文する。そして店員が注文を聞き終えて去っていたら
「それで……なにが目的ですか?」
冷めた表情で川崎さんは問い掛ける。
まぁやっぱりそうなるよね。
僕は単刀直入に尋ねる事にした。
「川崎さん……。君が抱えてる事聞かせてくれないかな?」
川崎さんはその言葉を聞いて露骨に嫌な顔をする。
「なんで……アンタに関係ないでしょ?」
僕はその言葉に首を振る。
「関係なくはないよ。だって放っとけないから」
そう。似てないとは言ったけど今の彼は間違いなく去年までの僕のような道を辿ってる。今後もこんな事を続けてたら心が腐る。
「なにがあったかは知らないけど、こんな事を続けてても問題が解決しないでただ自分が腐るだけだよ」
ダンッと川崎さんがテーブルを強く叩く。
店内の人々の視線が僕達に集中する。
「うるさいんだよっ!! アンタなんなんだよ……。正義の味方のつもりか? 相談したって解決しない事だって世の中には沢山あるんだよっ!!」
「うん、知ってるよ」
僕は取り乱す川崎さんを見つめながら言う。
知ってるよ。僕1人の力じゃ解決しない事は世の中にはたくさんある。僕の家族の問題だってそうだし、奏さんの過去だってそうだ。相談を受けても解決できない事は沢山ある。
「でもね、僕はそこから逃げちゃだめだって思うよ」
「……っ」
僕の言葉に声にならない声を上げる川崎さん。
「確かに問題は解決しないかもしれない。でもだからってそこで逃げて腐っていい理由にはならないと思う」
そう。奏さんはここまで必死に向き合ってきたんだ。自分の過去に……。そのやり方が正しいのかは分からない。だけど、始めから逃げてきた僕なんかに比べたら全然いい。
「だから教えてほしい。君の苦しみ、悲しみを。解決は出来ないかもしれないけど……一緒に悩む事は出来るから」
「……ぅ……」
髪の間から見えた茶色の空虚さを感じさせた瞳から一粒の涙が、川崎さんの頬を濡らす。
「黒崎さん。……教えてくれよっ」
泣きながら川崎さんは必死に自分の思いを伝えようとする。
僕は彼が伝え終わるまで辛抱強く待つ。
「どうしたらっ……アイツ、雫がっ……幸せになるんだよっ!!」
そう告げると同時に川崎さんは声を大にして泣き叫ぶ。人目を憚らずに。僕はそんな彼を見て思う。
ずっと1人で思い悩んできたんだな、と。
「ずっと1人で抱えてきて……辛かったよね。苦しかったよね。今度は……半分でもいいから。僕に背負わせて」
僕は川崎さんの頭の上に手を起き撫でながら願う。
どうか川崎さんの苦しみや悲しみが今回僕に打ち明けることで、少しでも軽くなりますように、と――。




