なんでそこまで他人に必死になれるんだよ
僕達はその後、二人してご飯を食べずに午後の授業に臨むことになった。奏さんが笑っていた。なんで笑ってるの? って聞いたら『集君を待ってる間ずっと昼ご飯食べそこねてたから』とはにかんで奏さんが答えていた。
僕はその事を嬉しいと感じた。誰かに心配を掛けるのは悪いと今まで思っていたのにこんな風に感じたのは初めてだな。
午後の授業を終え放課後、僕は奏さんの元で話していた。他の連中は用事があるという事で帰っていった。奏さんと話していると視界に木下さんと櫻井さんの姿が目に映った。2人は暫く話した後教室から出ていく。
「奏さんごめん、ちょっと用事が出来たから行くね」
奏さんはそういう僕を見て頷く。
「私も行く……雫ちゃんのことでしょ?」
お見通しな訳ね。僕は頷くと二人の後を追いかける。僕の後を奏さんが付いてくる。木下さんと櫻井さんは校舎裏に来ていた。
ここは放課後誰も寄り付かない事から、よくカツアゲなどの場として利用される事が多いと万丈から聞いた事がある。
「アンタさ……、調子に乗んなってのっ!!」
「生きてる価値もないくせにっ!!」
「……そうよっ!!」
校舎裏から恐らく木下さんを罵倒しているのであろう言葉が聞こえる。その中には櫻井さんの声も混ざっていた。
僕達はその声のする方へ向かう。そして目の前に広がる光景に息を呑む。目の前では木下さんが手足を1人の女生徒に羽交い締めにされ、残りの2人が交互に木下さんの頬を叩いていた。
木下さんはグスグスと泣きながらそれでも何も言い返さずに必死に耐えていた。
「何やってんだよっ!!」
僕はそう言って駆け出す。
後ろから足音が聞こえる。奏さんも僕に続いて走ってるらしい。
僕は羽交い締めにしている女生徒を木下さんから引き剥がす。
「なに邪魔してんのよっ!!」
櫻井さんが僕の頬を思いっきり引っ叩く。
「…………」
僕はそれを防ぎもせずに受けた後、無言で彼女を睨みつける。
「な、なによっ。貴方が悪いんでしょ。この子は今まで一人ぼっちだった。これからもそうじゃないといけないのっ!!」
僕はその言葉を聞いて怒りが増幅される。
「僕が虐めに遭うんならまだいい。……けど、僕の友達に手を出すのは許さないっ!!」
「っ……行くわよ」
そう言って彼女が歩き出すと取り巻き達もその後に続いて行く。
「……?」
僕は彼女達の去っていく姿を眺めた時にこちらをずっと見ている1人の男に気付く。男は依然としてこちらを見つめたままだ。
「ごめん奏さん。木下さんをお願い」
僕はそう言って、彼女達から離れ男の元へ歩いていく。
男は僕が近付いても逃げもしなかった。
「……どうしてこんな所にいるんだい?」
僕は比較的穏やかに問いかける。
「……さぁ」
男はたった一言、呟くように言う。
その声が空虚に聞こえた。触れれば消えそうなくらい儚げに、男の姿も見えた。全てに意味が無いと拒絶してるように。
「今の光景、見てたんじゃないのか?」
男は僕の問いかけに頷く。
「見てたよ……。最初から」
最初から……。ならずっとこの場で彼女が殴られるのを見てたっていうのか。
「なんで?」
「なんで……。逆に聞きたいよ。なんでそこまで他人に必死になれるんだよ? 俺には意味が分からない」
男はそう言うと、踵を返して去っていく。
――なんだったんだ、アイツ?
僕はその男の後ろ姿を暫く眺めた後奏さん達の元へ戻っていく――。




