私にとっての光 下
山岸さん視点になります。
少し性描写が入っていますので
苦手な方は飛ばしても話は分かるように作っておりますので
無理をなさらずにお願いします。
扉を開けると、机に山程積み上げられた書類に椅子に座った状態で目を通している中山先生がいた。
「先生、山岸奏です。失礼します。」
私は言い終わってから一礼し、部屋の中へと進む。
「……そこに掛けなさい」
先生はすぐそばのソファを指差す。私はそれに従い腰を掛ける。ソファの感触が心地よく感じる。
そして、中山先生は私の隣へと腰掛ける。私の隣とはいえ、かなりスペースがあると言うのに中山先生は私との間を全て埋める位置に腰掛ける。
た 私は、その行動に若干の焦りと恐怖を抱いた。何故こんなに近くに座るのだろうか?
「……せ、先生。用件はなんですか?」
恐怖心を必死に押し殺しながら私は顔に作り笑いを貼り付け問いかける。すると中山先生は私の肩に腕を回しながら
「なぁに? 黒崎がやった机や椅子をめちゃくちゃにした事件についてさ」
酷く下卑た顔でそんな事を告げてくる。その言葉に私は固まる。何故ここで、あの件が出てくるのだろうか?
「ど、どういうことですか?」
私は恐る恐る尋ねる。
「"実は、知ってるんだよね……山岸、お前が全部の机や椅子を倒したって事"」
私は、その言葉に青ざめる。
――嘘……どうして?
どうしてその事を知っているの? 呆然とする私に中山先生はニヤリと笑いながら
「簡単な事さ……お前が教室から全力で去っていく所を見たのさ。何かあったのかと、思って追いかけようと教室を横切った時あの教室の惨状だ……最初、見た時は目を疑ったな」
そう言って先生は、肩に置いていた手に僅かに力を込める。
「まさか……山岸がそんな事をするなんて、な」
そう告げる中山先生――中山の目は獲物を見つけた獣のように目が血走っていた。
怖いっ!! 身の危険を少し感じていたのが完全な物へと変わる。
「……なっ、なにが目的ですか?」
震える声を必死に抑えながら問いかける。すると中山の目はこれ以上ないほどに妖しく光らせ
「そんな怯えるなよ……少しばかり教育をしてやろうと思っているだけさ」
そう言い終わったと同時中山は私をソファに強引に押し倒す。身体を思い切り、押さえつけられてる形なので、すごく痛い。
「いやっ……やめてっ!!」
私は拒絶の言葉を大きな声で発する。すると……
――っ!?
右の頬に痛みが伝う……中山が私を打ったのだ。
「ダメじゃないか……静かにしなきゃ」
そういう中山の目は怖気を感じさせるほど意思を感じさせない目をしていた……。
こんな目をしている人がこれから私に酷いことをするのだと考えると余計に怖くて私は声も出せず身体も固まらせてしまう。そんな私を見て、中山は下卑た笑いを浮かべながら
「ホントならね、もっと早くにこうするつもりだったんだ……」という。そして私のブレザーに手をかける。
「なのに……黒崎が名乗りを上げやがった」と忌々しそうな顔で中山は言う。私はそれである事に気が付く。
「ならなんで、あの時……黒崎君を庇ってくれなかったんですか」
そうだ――中山が私がやった事を知っているなら黒崎君が、名乗りを上げた時点で真実を皆の前で告げる事だって出来た筈だ。
「なんで、俺がそんな事をしなくちゃイケないんだ?」
だが中山は私の言葉に失笑した後そんな事を悪びれる様子もなく言う。
――酷い、あの時言ってくれさえしてくれたら……
「……真実を言ってくれれば」私は、顔を覆い隠しながら
「黒崎君が、皆から誤解されなかったかもしれないのに……」
気付けば、顔から涙がこぼれ落ちる。あぁ……酷いのは私だ。こんなの責任逃れだ。
中山は私からブレザーを剥ぎ取ると、Yシャツを力任せに引きちぎった。私は涙で霞む視界で中山を精一杯睨みつける。
私も……中山と同類だ。自分の保身に走って黒崎集という一人の男の子に全て押し付けようとした。
私は、全てを諦め目を閉じる。これが、黒崎君にした事への報いというのなら私は甘んじてそれを受けよう。
「山岸、今から気持ち良くしてやるからなぁ」
そう言うと、目を閉じているというのに口の近くに中山の吐息が伝わる――やだっ……怖い っ!!
……誰か助けてよっ!!――そう心の中で叫んだ次の瞬間――。
バンっ、と勢い良く体育準備室の引き戸が開け放たれる。
そこには、さっきまで思い浮かべていた黒崎集の姿――。
彼は暫し固まった後「失礼しましたー」と言いながら開け放った引戸を閉めようとする。
「――いや、助けなさいよっ!?」
私は力の限り黒崎君に向けて叫んでいた。
もうっ……今ちょっとでもカッコいいと思った私のトキメキを返してほしいっ!!
彼は閉めようとする引戸を止めると、また再度開けながら
「ああ……やっぱりそういう感じなの?」
と彼はケロッとした表情で言う。
「貴方の目には、この状況がどう言うふうに見えるのよっ!?」
彼は、顎に手をやり目を閉じて暫し沈黙――そして目を開け
「そういうプレイな「バカなのっ!?」」
黒崎君がとんでもない事を口にしたので、私は彼の言葉を遮る形で否定する。もうっ何なの、この人……。
「はぁ、びっくりしたが……言う気はないみたいだな」
唐突のことで、狼狽えていた中山が落ち着きを取り戻す。
「なら、黒崎……早く帰れ、それとも一緒に山岸を犯すか?」と、中山はグヒヒッと狂ったような笑い声を上げながら私の身体を見下ろす。
「――はい、頂きましたぁっ!!」
次の瞬間彼は飛び切りの笑顔で、高らかにそんな事を言うと、スマートフォンをポケットから出し高々と掲げる。そして、黒崎くんのスマホから
『山岸、今から気持ち良くしてやるからなぁ』と先程中山が私に言ってきた台詞がスマートフォンから流れる。
中山はその声に大きく目を見開き、顔を黒崎くんへと向ける。同時にカシャッという音が、部屋に響き渡る。
音のする方へ目を向けると、黒崎君がスマートフォンを私達の方に構えていた。
「ま、証拠はこんなもので十分だろ」
そう言って彼は、今撮った画像を私達の方に見せてくる。そこには、私の上に跨がっている私とYシャツを引きちぎられ上半身下着姿の私……。
黒崎君は、ゆったりとした足取りで私達の方に近付いてくる。
「僕も、流石に目の前で泣いてる女の子を見過ごすほど落ちぶれてないからさ……だから」
そう言って、中山の傍まで来て彼の胸倉を掴み耳元に口を寄せると
「とっとと消えろ……強姦野郎」
この前聞いた低い声より更に低い声で中山を威嚇するように言う。中山は、その声にビクリと体全体を揺らすと
「ヒッ、ヒエエェッッ!?」と奇声を発しながら体育準備室を去っていく。
「……大丈夫か?」
心底そうな顔をしながら彼は私に手を伸ばす。私は、うん……と、答えながら彼の手を取り、上体を起こす。
私はソファに腰掛けるとさっきまでの事を思い出し震えだす身体を抑える為に、両手でその身体を抱く。
後一歩黒崎君が来るのが遅ければ、私は犯されていたのだ。再び心と身体が恐怖で支配される瞬間
――バサッ
私の頭の上から、服がかけられる。慌てて黒崎君の方を見ると、彼は学ランを脱ぎYシャツ姿だった。
「それなら、泣き顔を僕に、見せることないし良いだろ」と、彼は私に背を向けながらそんな優しい言葉を告げてくる。私は、ソファから立ち上がって黒崎君の元へ向かうと彼の背中にしがみつく。
「なっ……おいっ」
そう言って、抗議の声を彼が上げようとするが、途中でその言葉は止まる。きっと、私が震えていることに彼は気付いたのだろう。
「お願い、暫く……このままで居させて」
だからこそ私は黒崎君に懇願した。誰かに縋っていないと私は……今にも発狂してしまいそうで怖い。
そんな私の言葉に対して彼は返事をしないが、立ち去りもしない。
私はそれを肯定と受け取り彼の背中に顔を掛かせて私は思いっ切り声を上げて泣く……パパやママの前以外じゃ泣いたことはないのに……ここ最近、彼には調子を狂わされてばかりだ。
だけど……不思議と嫌じゃない。今こうしている時でさえ、安心出来る。今ここにいる彼を一言で例えるなら……光
出会った最初は、無愛想で冷たい人だって思った……けど
こうして、いてほしい時に傍にいて私の身を案じてくれる……
せめて、今だけは……私にとっての光だと思える黒崎集に甘えることにしよう。
例え……これでこの関係が終わるとしても――
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