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プロローグ
「俺はっ……」
男の声が教室の中で響く。
その声は僕に向けてではなく、今目の前にいる少女……木下雫に向けられたものだ。
「俺は……中学の頃自分が虐められたくなくて逃げた……。だけどっ」
男はそこで言葉を区切ると木下さんの前まで歩み寄り、片方の肩に手を置く。
「だけど……今度はもう逃げない……逃げたくないっ!!」
木下さんはその言葉に目を見開きながら
「ど、どうして……?」
「それは……」
男は木下さんの言葉に目を伏せる。
僕はそんな男……川崎漣を見守る。
僕は暫く黙りこくっている川崎漣を見ている間、今日までの事に思いを馳せていた。
あれは6月に入る前の事だったか――。




