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僕のモノクロだった世界が君に出会ってから色付き始める  作者: 高橋裕司
第五章 僕の過去
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お前の事が好きだからだろうがっ!!

奏さんに打たれてから2週間が経った。

僕はあれから一度も学校に行けずにいた。

東堂との約束の日にちも1週間を切っている。


だけど今の僕は何事にもやる気が起きない。

このまま、東堂との約束を反故にしようか?


『……待ってるぜ。もし、来なかったら銀狼は俺達で輪姦すからよっ!!』


だめだ……。

僕が行かなかったら、万丈が酷い目に遭う。でも今の僕が行ったところで……。

そうだ警察。警察に頼めばっ……。でもなんて言う気だよ? 友人が暴走族に攫われました。助けてくださいって言うのか? 馬鹿げてる。それに今から言った所で間に合うとも思わないし、それが東堂にバレたらどっちにしても万丈が酷い目に遭う。

僕が行かなきゃならないのか……。


「なんで僕なんだよ……」


僕はベッドで仰向けになった状態で天井を見たまま呟く。

僕には大した力もないのに皆はなんで僕に正義の味方みたいな事をさせるんだろう……。この()()()()()なんかに。


このままもう一度寝ようと思い目を瞑ろうとするとピンポーンとチャイムがなる。

美紗ねえかと思ったけど違うなとすぐに思い直す。美紗ねえなら鍵を持っているはずだからチャイムを押す必要なんてないからだ。


僕はベッドから起きる。

まさか奏さんが来たとは思えないけど、もしそうなら彼女に一言詫たい……そう思ったから。


「おう、集君」


外で待っていたのは意外な人物……渡辺陽一さんだった。


「ど、どうしてここが?」


「それは企業秘密で言う事はできない」


僕はそれを聞いて職権乱用でもしてこの場所を突き止めたのかと訝る。


「冗談だよ……。山龍高校を訪ねて集君のお姉さんにこの場所を教えて貰ったのさ」


そうか、美紗ねえに……。


「それで本題だ。皐月の件についてなんだが」


渡辺さんの言葉に僕は目を伏せる。


「事情の方も聞いた……。ゼロの総長と昔なじみなんだってな?」


僕は驚く。

そんな所まで聞いたのか?


「それで……。後1週間と差し迫ったわけだが」


僕の目を真っ直ぐに見据える渡辺さん。


「その様子だと皐月を助けに行く気はない感じなのか?」


僕は言葉に詰まった。

助けたくないと言ったら嘘になる。でも……。


「ぼ、僕は」


次に言うべき言葉が思い付かなくて困る。


「頼むっ!! 皐月を救ってくれっ!!」


僕は息を呑む。

渡辺さんが僕に頭を下げてきたからだ。


「勝手なお願いで申し訳ねえ。恥ずかしい話だが今回の件は警察はなにも出来ねえっ。捜査班を組むのに1週間以上掛かっちまう。確実に皐月は助からなくなるっ!!」


「なんで……」


どうして皆……。


「どうしてそうやって……。皆僕に押し付けようとするんですかっ!?」


声を荒げる僕に驚いた顔を見せる渡辺さん。


「僕は……。前にも言いましたけどっ、()()()()なんかじゃないっ!! ただ普通に……、目立たないように生きてきた、ただのボッチだっ!!」


そう、自分が傷付きたくなくて殻に籠もることによって守ってきた……ただの弱者だ。


「それなのに……。なんで皆っ、僕に構うんだよっ!!」


頬に熱いものが伝う。視界が滲んでいく。

それは涙だと直感する。

一度流れ出した涙は止まることなく次から次へと目から溢れては頬に伝い落ちていく。


「なんで……なんでっ、とっくに壊れた……()()()なんかに頼むんですかっ!?」


「……本気でそんな事を言っているのか?」


ここまで黙っていた渡辺さんが口を開く。


「集君の友達は、障害者である君に興味があると一言でも言ったのか?」


それは……言ってない。


「そうじゃないだろう。集君、君の行動に触発されたから皆君に興味を持ったんだっ!!」


「……僕の行動?」


僕の言葉に頷く渡辺さん。


「あぁ、普通人は進んで危険には飛び込めない生き物だ。それは何故だと思う?」


「自分が傷付くのが怖い。誰かがやってくれるだろうって思うから」


「そうだ……。人は自分の都合の良いように考える生き物だ。今言ったように集団なら誰かがやってくれるだろう……と、自分にとって楽な道を選ぼうとする」


そこで渡辺さんが満面の笑みを浮かべる。


「だが君は……。危険に迷わず飛び込んでいる。自分が傷つく事も厭わずに」


「それは……」


「分かっているからだろう? 人に頼ったって満足な結果を得られないと」


そうだ。

僕は交通事故に遭って退院した時周りに期待をしてた。

今まで通り普通に皆が接してくれるって。

だけど……、現実は違った。

皆が僕の事を気味悪がるから、僕は人に期待するのを止めた。

人に頼るのを……止めた。


「確かに一匹狼なら自分の思ったように行動出来、満足な結果を得られる事が多い……。でもな気付いたら心にポッカリ穴が出来ちまう。自分はなんの為に生きてんだろうってな」


僕はその言葉に息を呑む。

それは僕が小学校の頃からずっと抱いてた答えのない問だったから。


「集君もこの疑問を持ってるんじゃないか?」


僕はその言葉に頷く。


「でもその答えとなる取っ掛かりを君はもう手にしている筈だ」


僕はその言葉に目を瞑る。


『……バカ』


涙を流しながらただ一言そう告げた奏さんの顔が浮かぶ。


「でも……、それでもなんで僕みたいな人間なんかに」


「んなのっ、お前の事が好きだからだろうがっ!!」


僕は渡辺さんの言葉に驚く。

好き……?


「好きって……誰がですか?」


「皐月がだよっ、いい加減気付けっ!! ……あっ」


ちょっと待て。

今の『……あっ』て何? いやそれより


「……本当なんですか?」


僕がそう聞くと渡辺さんはバツの悪そうな顔を浮かべる。


「……そうだよ。でも皐月には言うな。バレたら俺が殺される」


「い、いつから?」


「去年……、君がゼロの遊撃隊長に刺されて入院した。俺が知ってるのはその時からだ」


もう一年近く経ってるじゃないか。

渡辺さんが僕の肩を叩く。


「皐月が君に惹かれた理由は少なくとも障害の部分じゃない……。皐月が君に惚れたのは君の生き様だって俺は思う」


「……僕の、生き様?」


僕の言葉に渡辺さんは頷く。


「さっきも言ったが、危険に迷わず飛び込む姿勢……。そして自分の考えを信じ貫き通す、君の信念にアイツは惚れたんだと……俺は思う」


「渡辺さん……僕は」


渡辺さんは僕から手を離すと踵を返す。


「邪魔したな。皐月の事……任せたぞ」


そう言って去っていく渡辺さん。



「ずるいよ……。渡辺さん」


そんな事を言われたら、助けに行かないなんて選択肢選べる訳ないじゃないか?

僕はそう思いながら去っていく渡辺さんの背中を見えなくなるまで見つめ続けた――。

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