何者だテメェ等っ!!
「黒崎さん、去年は助けて頂きありがとうございました」
僕は目の前にいる女の子……万丈の妹である司さんに驚愕する。
容姿は万丈にそっくりなのに性格が180度違ったからだ。。他に違うところがあるとすれば銀髪ではなく黒髪で背中まで伸ばしていることくらい。
「君、本当に万丈のいも……グヘッ!!」
喋っている途中で万丈が僕の溝打ちに強烈なブローを入れる。
……真面目に痛いんだけど。
「ふざけた事を抜かすのはこの口かっ?」
「いふぁい、いふぁいよっ」
万丈が僕の両の頬を引っ張ってくる。
「……お姉ちゃん?」
やけにドスの効いた声で万丈を呼ぶ司さん。
そのドスの効かせ方は万丈にそっくり……さすが姉妹。
でも万丈がこんなことで臆するような奴じゃな……えぇっっ!!
隣を見て驚く。
だって万丈が今にも泣き崩れそうな顔をしていたからだ。
「司〜っ!! お姉ちゃんが悪かったから、許してくれよ〜っ!!」
僕はそんな万丈を見て確信する。
ああ、美紗ねえと同じタイプね……。
「貴方達、そんな所で立ち話してないで中に入りなさい」
万丈児童養護施設の施設長である万丈愛が僕達に中に入るよう促してくる。
僕達はその言葉に従い応接室に入れられる。
万丈達と暫く話していると扉が開きそこから万丈愛がお茶やお菓子などをお盆に乗せて持ってきた。
「悪いわね……、このくらいしか今出せないのよ」
「そんなっ、悪いですよ。お構いなく」
僕がそう言うと万丈愛は静かに首を横に振りながら
「そういう訳にはいかないわ。だって、黒崎さん……貴方は私達の間にある蟠りを消し去ってくれた恩人なのだから」
僕はその言葉に目を見開く。
「貴方のお陰で私はこの子達と本当の意味での家族になれたと思うわ。海斗と渓の件は残念な結果になってしまったけれど」
その言葉に万丈と司さんが目を伏せる。
憎い相手とはいえ、同じ施設で育った家族……。二人の中で心が痛むのも当然だと僕は思った。
「……これからだって、僕は思います」
だから僕は気休めでしかないけど三人に励ましの意味を込めて僕は言った。
万丈愛は一瞬呼吸を止めて僕を凝視する。
暫く経った後彼女は優しく微笑む。万丈も司さんも同じように微笑んでいた。
「本当に黒崎さん。……貴方に出会えて良かった」
僕はその言葉に目を伏せる。
本当にそうなのか……?
僕は果たしてこんな事を言われる価値がある人間なのか?
――かつて壊れた人間と呼ばれていた僕が?
そう思った瞬間、応接室の窓ガラスがバリンッと音を立てて割れる。
僕と万丈はすぐさま立ち上がって構えを取る。
窓から黒いマスクを付けた男が6人ほど入ってくる。
しかも、男達の手には鉄パイプや金属バットなどの得物を装備している。
「チッ……何者だテメェ等っ!!」
万丈は叫ぶ。
叫んだ理由は、相手を威嚇する為だろう。
だが男達はそれに怯まず、寧ろ目元が笑っていた。
「司っ!! 先生を連れて逃げろっ!!」
万丈がそう叫ぶと司さんは迷いもせずに、万丈愛を連れて応接室から出ていく。
「集……、悪いが少し手伝ってもらうぜ?」
僕はその言葉に覚悟を決める。
「……分かった」
「よし。……行くぞオラァッ!!」
そう言って万丈は男達に突っ込んでいく。
6人の内3人が万丈を相手にし、残りの男達が僕の元に向かってくる。
「ウアアァァァッッッ!!」
3人の内の1人が叫び声と共に僕に向け、バットを振り下ろす。
僕はそれを擦れ擦れで躱すと男の顔を殴りつける。
「……グッ!!」
男は殴り飛ばされるとそのままその場に倒れ込む。
僕は男の元へ駆け寄ると仰向けに倒れている男の腹目掛けてジャンプする。
「グオォッ」
着地と同時に男が痛みから叫び声を上げる。
よしっ!! これなら勝てるっ!!
僕はそう思い後ろを振り返ると、頭部に鈍い音が響き渡ると同時に途轍もない痛みが僕の頭から生じる。
「……えっ?」
僕は頭部に手を持っていく。
ヌチャッという嫌な感触。顔前に手を持っていくと赤褐色の血が僕の手を染めていた。
僕は足から崩れ落ちるようにゆっくりと倒れ込む。
「……集っ!!」
耳元に万丈が必死に僕を呼ぶ声が聞こえる。
ごめん万丈……。
返事が出来そうにないや。
お前だけでも逃げ切ってくれよ……。
僕は意識が朦朧とする中で目の前が暗くなっていくのを感じながら、それだけを願った――。




